中国には中国銀行、中国建設銀行、中国工商銀行、中国農業銀行という4つのメガバンクがあります。記事によればこの4大銀行が保有するドル資金は1兆1,000億ドル(約118兆円)という巨額なものです。
4大銀行がドル決済できなくなれば、これらのドル資金は何の意味もなくなります。また、ドルを調達することも不可能になるため、中国企業が海外でドル建てで借りた借入金も返済不可能になり、デフォルト危機に陥ることになります。
ドル決済から排除されることを懸念して、中国では人民元の国際化を急いでいます。国際貿易をドル決済ではなく、人民元決済にすることで、ドル経済圏から脱して、人民元経済圏を新たに築こうとしているわけです。
● 中国銀、米制裁に備えて人民元決済システムへ移行を=報告書
2016年10月、中国の人民元がIMFのSDR(特別引き出し権)の構成通貨になりました。中国は人民元を国際通貨にするために、SDRの構成通貨になることを強力に推し進めてきた結果です。
しかし、こうして国際通貨となった人民元ですが、世界での決済シェアは2%程度しかありません。2019年8月時点で2.22%で、米ドル、ユーロ、英ポンド、日本円に次ぐ5位です。日本円よりも決済シェアが低いのです。
そのため、中国はデジタル人民元を発行し、もっと使い勝手を良くして国際的な決済シェアの拡大を目論んでいます。
とはいえ、中国はこれまで厳しい資本移動の規制を行ってきました。海外への外貨持ち出しが制限され、そのために中国人による「爆買い」も沈静化したわけです。そうした資本移動の規制が、人民元の普及を遅らせてきたのもたしかです。
資本移動を自由にすると、中国からキャピタルフライトが起こる可能性が高く、そうなれば人民元の価値は暴落します。経済的な統制が取れなくなることが、中国共産党がもっとも恐れることです。
民意によって選ばれたわけではない中国共産党の一党独裁に、正当性を与えるのが「絶対無謬性」です。中国共産党は絶対に間違えない。だから中国の憲法前文には「国家は党の指導を仰ぐ」とされており、最高法規よりも中国共産党の指導のほうが上なのです。
その中国共産党の無謬性が揺らぐとなると、一党独裁の正当性を失うことになります。だから中国共産党にとって、資本移動の自由は絶対に認められず、いつまでも統制経済を続けなくてはならないわけです。
加えて、デジタル人民元についてですが、ファーウェイやTikTokでも問題になったように、すべての情報が中国共産党に握られる危険性があるため、どこまで導入する国が増えるかという疑問もあります。
インドなどは、多くの中国製アプリを使用禁止にしました。国家の安全保障にかかわる問題だからです。デジタル人民元を使用することで、中国にさまざまな機密情報が流れてしまう可能性が否定できません。そうなれば、中国に弱みを握られ、意のままに操られてしまう危険性も否定できないでしょう。
● インド、中国製アプリ使用禁止をTikTok以外にも対象拡大
そもそも通貨というものは、国家の信用力によって成り立つものです。イギリスとの国際公約を破って香港の「一国二制度」を実質的に破棄した中国が発行するデジタル人民元に、どれだけの信用力があるというのでしょうか。