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開戦前夜の外交戦。中国の報復に「小型核」で応じるアメリカに死角はないか?

新型コロナウイルスの感染拡大により大打撃を受けた世界経済ですが、その再生を、安全保障面での米中対立の激化が妨げています。互いに譲らぬ二大国の争いは、我々に何をもたらすのでしょうか。元国連紛争調停官で国際交渉人の島田久仁彦さんは今回、自身のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』で、国際社会に属する各国政府と国民が直面している課題の分析を試みています。

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米中対立の激化とコロナが蝕む国際政治経済の行方

オリンピックイヤーである2020年が明けた際、誰がこのような混乱を予想したでしょうか?恐らく誰もいなかったはずです。私も朝鮮半島情勢が悪化するとか、米中対立の激化などの予測は行ったような気がしますし、今では遠い昔のように思える1月3日の米軍によるイランのソレイマニ将軍の暗殺で米イラン関係が非常に緊張し、一触即発のムードが漂いましたが、そのすべてをはるかに上回ったのがCOVID-19(新型コロナウイルス)のパンデミックによる世界的なダメージでしょう。

8月20日現在、2,200万人以上を感染させ、70万人以上の命を奪ったCOVID-19は防疫における国際協調の脆さと、相互信用の脆さを露呈し、半強制的に絶たれたものと人の移動は、10年ほど先に起こるとされた“働き方”(Work mode)を一気に変え、リモートベース・オンラインベースでの仕事と教育、そして人のつながりの形をNew Normal(ニューノーマル = 新常態)として定着させようとしています。

そのNew Normalは、これまでの経済モデル、特に成長モデルを変革させ、コロナの感染が“落ち着いた”と言われて経済活動が再開されても、かつてのような賑わいに戻ることはしばらくないだろうと言われています。

実際に今週発表された経済統計によると、主要国経済の2020年4月~6月のGDP成長率は、平均年率マイナス10%ほど(9.1%)となり、2008年のリーマンショック時の約3.5倍の落ち込みとなったようです。日本もその例に漏れず、マイナス27.8%の成長率となり、Bloomberg社の表現を借りると「日本経済は全治5年」というほどのショックとなっています。アメリカ経済も欧州各国の経済も劇的な回復を見込めるきっかけがつかめておらず、次の四半期の経済状況はさらに悪化するだろうと言われています。

中国はいち早く回復した!

そんな報道をよく目にしますが、数字上の回復は存在しても、それらは政府の政策頼みの結果であり、民間の投資はまだ回復せずマイナスですし、家計の出費もまだ戻ってきていないため、“回復の持続性”は不透明です。

以前、世界銀行やIMFの予測値をお伝えし、2020年の下げは8.6%くらいと申し上げましたが、すでに年率ではそれを上回る悪化となっていますし、それは16億人と言われた失業者数をさらに増やす要因にもなりかねません。COVID-19の感染拡大がまだ止まらない中、世界的な経済不安が広がっていると言えます。

それに追い打ちをかけているのが米中対立の激化です。

これまでにも米中貿易戦争によって周辺国が巻き込まれてきましたが、対立と分裂を決定的にしたのは、米とその同盟国サイドからの見解では、【コロナ感染の起点が中国で、中国政府は感染情報を隠蔽していたとの理解】【各国がコロナ対策に奔走している隙に南シナ海での実効支配を強めたり、尖閣諸島への侵入を本格化させたりするという強硬姿勢をより強めたこと】【香港国家安全維持法のスピーディーな施行により、一国二制度を葬り去り、香港の自由を奪ったこと】でしょう。

特に香港国家安全維持法の施行によってアメリカや英国、オーストラリアなどが次々と対中強硬姿勢に打って出ました。香港との犯罪人引き渡し条約の停止や、香港行政府に対する制裁措置の発動で【香港の経済的なハブとしての役割に止めを刺した】のに加え、アメリカ政府は中国の存在そのものを悪とするイデオロギー戦争を仕掛けたことはこれまでにもお話ししてきました。

中国政府もただ言われるままにしていたのではなく、逆に強硬姿勢を強め、欧米や日本からの非難や懸念をよそに、着々と覇権の拡大に邁進しています。

加えて、中国による報復・反撃もスタートしました。その例が、オーストラリアからの鉄鉱石輸入をストップする可能性に言及したり(注:2019年では豪州産の鉄鉱石の9割が対中輸出で依存度高い)、実際に一帯一路で影響力を発揮できるアフリカ諸国からの調達を匂わせたりして、7月以降、対中強硬姿勢を貫くオーストラリアを威嚇し始めました。農産物や食肉に80%の関税をかける措置を取ったのも報復と威嚇の一環でしょう。

またマスク外交などで分断を狙ったEUには、さらなる切り崩し策を講じています。その典型例がギリシャのインフラ整備と不動産への投資にチャイナマネーを膨大に突っ込み、ギリシャ経済の立て直しに寄与することで、ギリシャからの外交的なサポートを得ているようです。その証拠に、EU内で一致団結して対中批判決議を行おうとしても、セルビアや中東欧諸国と共に、ギリシャが反対をして、EU外交の迷走の中心的役割を担っており、結果、EUの存在感と影響力を著しく低下させています。

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コロナと共に世界経済の回復を妨げているのが、安全保障面での米中対立の激化です。

先週号(「『台湾併合?ならば戦争だ』中国に激怒のトランプが蔡英文に送った親書とは」)でも北京が台湾侵略を企てるのであれば、トランプ大統領としては開戦止むなしという話についてご紹介しましたが、アメリカ政府はあの手この手を使って中国の軍拡と覇権的影響力の拡大を阻止したいと考えており、南シナ海をはじめ、東シナ海、尖閣周辺海域、アフリカ・エチオピアを中心とする東アフリカと中東地域海域で常に中国と対峙する形になってきています。

その背景には、国家資本主義による豊富かつ潤沢な資金を集中的に軍拡に投入している中国の姿と、間違いなく近代化してきている中国の軍備に対するアメリカや欧州、日本、そして南シナ海周辺諸国の焦りが見えます。中国の核戦力は間違いなくその威力を伸ばしていますし、空母を中心とする攻撃群、弾道ミサイルを発射できる最新鋭の爆撃機の配備拡大、ロシアとともに早期の導入を目指す極超音速型の弾道ミサイルシステムの存在、そしてレーダー探知が非常に難しいとされる最新型の潜水艦など、米本土への攻撃能力が格段に上がっているようです。

またミサイル技術は、中国とロシアから北朝鮮に提供されているともされ、昨今、金正恩氏が軍備増強を謳った中に、変則弾道型のミサイル開発と配備が入っていたことで、従来の迎撃ミサイルを無力化する恐れが出てきたことから、アメリカはもちろん、日本にも緊張感が高まっています。

その表れでしょうか。米軍とトランプ政権は、SLBM(潜水艦発射型弾道ミサイル)に小型核弾頭を搭載し、潜水艦群をアジア太平洋海域に配備する見込みと発表しましたし、これまでグアムを中心に交替で投入してきた戦略爆撃機の管理を米国本土で一括管理し、B52、B1、B2などの戦略爆撃機を総合的に運用し、予測困難にするという戦略的な変更も行っています。そして明らかに中国への断固としたメッセージと捉えられるのが、台湾に対してF16戦闘機を一気に48機売却し、即時配備を行うことで、対中最前線における攻撃力を高めています。これはトランプ大統領周辺が口にする【もし台湾への攻撃が行われたら、米軍は中国への攻撃を実行する】という脅しの表れと言えるでしょう。

加えて、最新型の極超音速弾道ミサイルなどへの対応を急ぐべく、日本と共に、日米の小型衛星のネットワークを用いた捕捉とレーダー追尾を実施すると発表し、日本も参加の可能性に言及しているFive Eyesの監視システムによる中国(と北朝鮮・韓国)の監視を強化する最終段階に入ったとされます。また今週の報道にも出ていましたが、米国を中心としてリムパック(10か国による軍事演習)も、規模を縮小はしたものの、明らかに対中警戒のための軍事的な連携を念頭にハワイ周辺海域で開始されました。台湾、南沙諸島、西沙諸島などでの中国との交戦をイメージしているような実践的な内容に絞られているようです。今回のリムパックの内容を知る情報筋によると、雰囲気はまさに対中開戦前夜と言えるほどの緊迫感が漂っているそうです。

実際に米中の交戦となるかどうかは分かりませんが、その恐れと可能性は、確実に各国の動きを鈍らせ、それは各国における経済活動の回復にもネガティブな心理的影響を与えているようです。

「ただでさえコロナ禍で大きなダメージを被っているのに、これで米中交戦となれば経済の回復に水を差す。今、大きく劇的な策を講じるよりは、しばらくは様子を見たほうがいいのではないか」

そういった心理が各国政府の中枢にあるように思われます。

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中国の強硬姿勢が止まらず、北朝鮮も金正恩氏から金与正氏への権力の委譲が行われて先行きが見えませんし、韓国政府はどこに向かっているのか分からず頼りにならない中、ロシアの空軍機による相次ぐ領空侵犯もあり、日本を取り巻く北東アジア情勢も非常に不安定で緊張感満載の状況になっています。

日米同盟の下、安全保障上の脅威に対抗しつつ、コロナ禍で激しく傷んだ日本経済の復活に向けて官民挙げて動かなくてはならないという日本が置かれている厳しい状況は、ベラルーシ問題を巡る欧州とロシアのバランスゲーム、中東の覇権を巡るイスラエルとイラン・トルコの刮目、中国と豪州の間で繰り広げられる“血を流しあう”闘いなど、世界各地で進行している深刻な状況と類似しているように思います。

各国がそれぞれ経験したことの内容なマルチフロントの戦い(対コロナ、米中対立のブロック、経済・安全保障上の対立)をいかに極限まで対立をエスカレートさせることなく乗り切るか。

今、国際社会に属する各国政府と国民がその大きなチャレンジに直面していると考えています。

どのような結果が待っているか私にも見えませんが、今はとにかく調停官としての役割をしっかりと果たしたいと思っています。

皆さんは現在の状況についてどうお考えになりますか?

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image by: Alessia Pierdomenico / Shutterstock.com

島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧

世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。

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