池田教授が養老孟司氏とのZoomで考えた「コロナと孤独と社会システム」

 

恐らくホモ・サピエンスは30万年前の生誕のころから、小集団で生活していたので、談笑したり会食したりする習性は、人類の行動様式の重要な一部をなしているのだ。ただどのくらいの頻度で会うのが心地よいかは人それぞれで、孤独に耐える力がすごく強い人と、からきし弱い人の両極端の間のどこに自分が位置するかということが、今回のコロナ禍でよく分かった人も多かったのではないだろうか。

全く他人に会わずに生活することは不可能であるが、一人でいる方が気楽という人は結構多く、会社に出社しないでリモートになって嬉しい人も多いのではないかしら。反対に誰とも話さないでいることには、1日でも耐えられないという人もいると思う。こういう人にとっては今回の事態は余り適応的じゃない。多くの人はこの間のどこかにいて、例えば、私は1週間に1度くらい外出しているが、体や心の調子はいいようである。

実は、コロナ禍で自宅に蟄居するまでは、ずっと自宅にいた方が楽でいいやと思っていたのである。しかし、蟄居生活が数か月を過ぎるころから、友人から電話がかかってくると、つい長話をしてしまうことが多くなった。以前は用事がすんだら、とっとと電話を切るのが普通だったが、相手からも何となく電話を切りたくない様子が伝わってきて、そのうちコロナ禍が収まったら、飯でも食おうねと言って終わるのだが、いったいいつのことになるのやら。

こういう人は私だけではないようで、少し前、養老孟司から、Zoomでおしゃべりをしないかというお誘いがあり、旧知の友人を交えて与太話をしたことがあった。養老さんは他人に会っても会わなくても、いつも泰然としているのかと思っていたが、やっぱり何か月も人に会わないのは寂しいのかと思い、一寸愉快だった。何といっても、箱根の養老昆虫館(バカの壁ハウス)には、人の出入りが絶えなかったのが、新型コロナウイルスを養老先生にうつしたら大ごとだと思った友人、弟子、編集者などがバッタリ来なくなったのだから、さしもの養老さんも生活リズムが狂ったみたいだ。

WHOは2年未満にパンデミックは収まりそうだとの楽観的な予測を出しているが、その間リモート主体の生活をしていると、元に戻っても、以前と同じ社会生活が帰ってくるとは限らない。コロナ禍が始まってから、オフィス街の飲食店の売り上げが減ったという。仕事帰りに居酒屋に行くのをやめる人が増えたのだ。部下を引き連れて居酒屋で酒を飲みながら威張りたい上司や、ゴマを擦って奢ってもらいたい部下は、楽しみが減ったが、いやいや付き合っていた人たちは、ほっとしているかもしれない。売上が減った飲食店は存亡の危機だという。パンデミックが収まっても、居酒屋に立ち寄らない習慣がついた人は、元に戻らないかもしれない。

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