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まるで半沢直樹のよう。パナソニックのお荷物部署を救った立役者たち

社員たちの先頭に立ち、企業を引っ張っていく経営者にはどのような思想や姿勢が必要なのでしょうか?メルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では著者の浅井良一さんが、松下電器(現パナソニック)を支えた三人の逸話を紹介した前回のメルマガ「なぜ松下幸之助は、26人中25番目の取締役を社長に大抜擢したのか」を踏まえ、経営者の基本姿勢である「人一倍の努力」について語っています。

人一倍の努力とは何か?パナソニックの人一倍

ピーター・ドラッカーは「企業の目的は顧客とともに企業の外にある。企業が何であり、何を生み出すかを規定し、企業が成功するか否かを左右するものは、顧客である」「明日とは機会のことである」と言っています。“顧客の視点(アウトサイド・イン)”から人一倍考え、人一倍努力しないならば、大きな成果を得ることなど期待しようがありません。

「人一倍」の思想は、すべての成果をもたらす経営者の基本姿勢です。それと、対価を支払ってくれる顧客の視点に立った財・サービスを提供することもまた経営者の基本姿勢です。

このことを確認するために、前回の「なぜ松下幸之助は、26人中25番目の取締役を社長に大抜擢したのか」との関連で、松下電器(現パナソニック)の二人、高橋荒太郎さん(編注:松下電器産業元会長)と山下俊彦さん(編注:松下電器産業元社長)の「人一倍」の足跡を見て行きたいと思います。

高橋荒太郎さんは“経営の基本方針”を最も重視しています。「事業部長たちは、みな個性豊かな経営者である。自らの特徴を生かして事業部の運営を行っている。もちろんそこには『製品の性能、品質コスト、サービスについて、消費者に喜ばれる仕事をし、社会に貢献するという基本ポリシーが決まっている』ので、これに反したことはやってはならない。しかし、これに反しない限りは、それぞれの特徴を生かした創意工夫でやっている。これが一本の柱に集中されて、力強いものになっている」と“顧客視点”と”基本ポリシー”を焦点にします。

高橋荒太郎さんの手腕

1.朝日乾電池在職中に乾電池のコストを3割下げを達成

これは1929年の世界大恐慌の時のことで、まだ24歳でありながら危機を先取りし、幹部を説得して改革を断行しました。そんな驚異的な改革がどのようにしてできたのか。それは“改革にあたって全従業員が背水の陣を敷いた”ことにつきます。

世間では解雇、賃下げが行われていたなかで、高橋さんはこのように全従業員に「この会社を改革しようと思うが、絶対に犠牲者は出さないし、賃下げもしない。ぜひ協力してほしい。また再建できなくなったら申し訳ないので、協力してくれる人にも“退職金”を事前に差し上げる。ついてきてくれることに不安を感じる人には、倍の退職金を差し上げるから申し出ていただきたい」と提案したのです。年輩の2人が辞めただけで、後の二百数十人はついてきたのです。

それから、どんなことを起こしたのか。それから起こったのは、自発的な運命共同体としての“人一倍活動”で、消耗品など言われなくても節約され、そして抜本的な改革もなされて、その結果、わずか半年で再建は軌道に乗り、その暮にはあげられないと言っていた賞与も支給して越年できたのだそうです。

2.佐賀工場の建設を若手社員に任せ低予算で実現

松下幸之助さんに九州松下の経営を全く白紙の状況で任された高橋荒太郎さんは、このときに「人づくり」から始めました。34歳と29歳の若い社員選び、こんな要望をしたのです。

「君たちには、経営者になってもらうために、一番むずかしい工場の建設からやってもらう。工場建設そのものがコストだと考えて取り組んでもらいたい。未経験の困難な仕事であろうが、全面的に任せるから英知を働かせ全精力を傾けてやってほしい。そのかわり本社等の規制を受けないようにする。失敗したらぼくが全責任を負うから思い通りに」と言いながらも、さらにこんな条件を付け足したのです。

「最も合理化した工場にすることを前提に、耐震耐火の堅牢な建物で、しかも、外観内装とも従業員が快適に作業ができるような明るいものであるということ。それだけが条件だ」と言うのです。

これで条件は終わりかというと、さらに厳しくなるのです。担当者が「坪6万円かかる」と言ってくると、これに対して「坪6万円は相場からいって高くないかもしれない。しかしこの競争の激しい製品のコストからいって成り立たない。建設のことは詳しいことはわからないので無茶を言うかもしれないが、坪3万円で短縮して3か月でやってもらう。ぜひ実現してもらいたい」と。

その後いろいろ検討した結果「サッシを鉄からアルミにしたほうが美しいし、メンテナンス代が格安でなので2,000円だけ上積みしてほしい」と要求があり、それを認めて着工することなったのです。結果は、3か月以内に実現され、高橋さんは「それに至るまでの二人の苦労は並み大抵のものではなかった。」と述懐しています。

山下俊彦さんが起こした奇跡

1.ストばかりしていたウェスト電気の立て直し

山下さんが常務として出向したウェスト電気は、ワンマン社長と戦闘的な組合長のもとでストばかりしている会社でした。最初に行ったのはお金の調達で、本社、出向元の電子工業をたらい回しにされ、やっと電池事業本部の助け舟で工面できたという状況です。ストは続き、自宅の塀にビラを貼られる嫌がらせもあったのでした。

ストが収拾するきっかけは、組合長がスト中に山下さんの家へ来て酒宴となり、それを組合員に見つかったことで、信用がガタ落ちになったからでした。

交渉で社員の気持ちが落ち着いたのを見計らって、山下さんは組合幹部、会社幹部全員の前で、経理責任者から会社の現状が給料も払えない状況であることをありのままに報告させます。

朝から深夜まで報告会で現状を十分に認識してもらったことで、何をすべきかは自ずから明確になり、再建がスタート。

再建計画を示し、幹部の意思を明確にして全員に徹底し、その改善の過程を「ガラス張り」してからは、社員の努力の結果がすぐに現れ、それが励みとなって力が入り、2年目には再建の見通しがついてのでした。

2.お荷物になっていた冷気事業部を業界一位のシェアに

会社はこれまで電化製品ばかり手がけていたため、大型のものは不得意でした。「暮らしの手帖」誌評価でも最下位。そこで幹部を集めて、徹底的に問題点を洗い出し、改善を取るように指示して、「ともかく品質でどこまにも負けないようにせよ。それまで売ってはいかん」としたのでした。

最下位の汚名を返上すべく、一丸となって取り組んだ結果、評価はぐんとよくなり、さらにこの間、物品税の税率のアップにも値上げせず、我慢して押し通した結果、4年後に業界一位のシェアとなりました。

また、季節商品のため天候に売れ行きが大きく左右され、そこで計画段階で全員の知恵を集めて徹底的に考え抜き、ムダを排除したのです。

他にもこんな事例もあります。毎年新入社員が入ってくると、製造、販売の実習を行うのですが、エアコンの最需要期に増産体制に入り、新入社員に協力してもらうことにして、実習生だけでラインを組んでみたところ、自分たちだけでラインを動かさなければならないという責任感が生れ、全力を出したのです。それだけに、生産目標達成の喜びはひとしおだったのだといいます。

前回の一節を再掲します。

社長になる前のエアコン事業部長時代から、山下さんは日々の思いを大学ノートに綴っていたそうで、そこにこう書いています。「BSやPLはいずれも過去の業績の表示であって、会社の未来価値を示すものではない。未来は永久に未知の世界である。会社の将来性に対してアテになるのは資本金や資産価値ではない。“人間だけ”だ」。

ここで、また付け足しになるのですが、松下幸之助さんはこんなことを言っています(松下さんは“衆知による経営”を非常に重視されています)。

「よい人を得、育てることを強く願い、そのことをなによりも優先して取り組んできた。創業して10年ほど経った頃から『松下電器は物をつくる前に人をつくる会社である』と言い続けてきたが、それもそのような理由からであった」

「“素直な心”は、何ものにもとらわれず、物事をありのままに見ることのできる心である。したがって素直な心になれば物事の実相が見える。それに基づいて、何をなすべきか、何をなさざるべきかということも分かってくる。なすべきを行ない、なすべからざるを行なわない“真実の勇気”もそこからわいてくる」

「世の為、人の為になり、ひいては自分の為になるということをやったら、必ず成就します。無理に売るな。客の好むものも売るな。客のためになるものを売れ」

image by: cowardlion / Shutterstock.com

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戦略経営のためには、各業務部門のシステム化が必要です。またその各部門のシステムを、ミッションの実現のために有機的に結合させていかなければなりません。それと同時に正しい戦略経営の知識と知恵を身につけなければなりません。ここでは、よもやま話として基本的なマネジメントの話も併せて紹介します。

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【著者】 浅井良一 【発行周期】 ほぼ週刊

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