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“菅総理”リーク情報と13年前のウソ。自分の歴史まで修正する安倍の虚言癖

8月28日に行われた会見で、総理大臣辞任の意を固めた理由を「13年前の辞任時と同じ潰瘍性大腸炎の悪化」とした安倍首相。マスコミ各社も同様に報道していますが、事実とは大きく異なっているようです。今回のメルマガ『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、第一次政権を「投げ出す」際に安倍首相自身が語った辞任の理由と、批判を受けた後に行った姑息な「歴史修正」の手口を紹介するとともに、先日の辞任会見に対して鋭い批判を展開。さらに「ポスト安倍」が菅義偉官房長官に決定したウラ事情を、官邸に太いパイプを持つ知人記者からのリーク情報をもとに分析しています。

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前回、8月26日に配信した第84号の「今週の前口上(「60兆円 世界にばらまき 成果ゼロ。安倍首相の負の遺産で日本は終わるのか?」)」では、「負のレガシーだらけの安倍政権」と題して、連続在職日数が憲政史上最長を達成した安倍晋三首相が、これまでの2,799日で何を成し遂げたのが、徹底検証しました。しかし、その2日後の28日、安倍首相は記者会見で辞任の意向を固めたと発表しました。そのため今回は、前回の続きのような「前口上」になってしまいますが、最後まで読んでほしいと思います。

さて、世の中は冷たいもので、安倍首相が辞任を発表した直後から、新聞各紙もテレビのワイドショーも「ポスト安倍」一色となり、まだ現職の安倍首相は「過去の人」になってしまいました。まるで「今も安倍晋三が首相である」ということなど忘れ去られてしまったかのようです。とは言え、『きっこのメルマガ』としても「ポスト安倍」の話題に触れないわけには行きませんので、今回は、まずは8月28日の辞任会見の内容にフルパワーでツッコミを入れさせていただき、最後に「ポスト安倍」にもサラッと触れたいと思います。

今回の安倍首相の会見内容がすべて事実だとすれば、安倍首相は自身の連続在職日数が憲政史上最長になった8月24日に、誰にも相談せずに自分1人で辞任を決めたそうです。しかし、毎度のことながら安倍首相の会見は嘘だらけなので、この説明をそのまま鵜呑みにはできません。安倍首相は今回、自身の健康問題について、まずは次のように述べました。

「13年前、私の持病である潰瘍性大腸炎が悪化をし、わずか1年で突然総理の職を辞することとなり、国民の皆様には大変なご迷惑をお掛けしました」

今回、マスコミの報道も「13年前の第1次安倍政権の時と同じく、今回も潰瘍性大腸炎で~」というものでした。でも、安倍首相が2007年9月に政権を丸投げした時、安倍首相は病気だなんて一言も言っていません。あたしはリアルタイムで会見を見ていましたが、安倍首相は「民主党の小沢(一郎)代表が党首討論に応じてくれないので、このままでは国会を運営できない。だから私は辞任する」と説明しました。これはちゃんと映像記録に残っています。

当事、辞任会見の直後から「無責任だ!」「丸投げだ!」「民主党のせいにするな!」という批判が相次ぎました。すると安倍首相は、自民党の広報紙である産経新聞を使って「独占インタビュー」という形で「実は潰瘍性大腸炎という難病で、それが辞任の理由だった」と報じさせたのです。突然の辞任で国会を2カ月も空転させてしまうのは「民主党が原因だ!」「小沢一郎のせいだ!」と言っておきながら、批判されたとたんに「実は難病だった」だなんて、何という卑怯な「後出しじゃんけん」なのでしょうか?

百歩ゆずって、正式な会見をひらき、まずは「民主党の小沢代表が党首討論に応じてくれないから」と言ったのは嘘だったと認めて民主党と国民に謝罪し、その上で本当の理由を説明していたら、あたしも納得したでしょう。しかし、安倍首相は特定の新聞にだけこっそりと報じさせたのです。そんなものは到底受け入れられません。仮にも一国の首相が辞任するというのに、まるでケータイで「今日で仕事やめま~す」と職場にメールするような軽薄さです。

それなのに、今では「難病が原因で仕方なく辞任した」ということが、あたかも「正式発表された内容」であるかのように独り歩きしているのです。そして、本人までもが平然と口にしているのです。さすがは歴史修正主義者ですね。もちろん、難病はお気の毒だと思いますし、早く良くなってほしいと思います。しかし、安倍首相が難病であることと、嘘の理由で国民を欺いて政権を丸投げし、後からこっそり修正した事実とは別の話です。ま、13年前のことをいつまでも言っていても先へ進まないので、この辺にしておきますが、続いて安倍首相は、次のように述べました。

「その後、幸い、新しい薬が効いて、体調が万全となり、そして国民の皆様からご支持をいただき、再び総理大臣の重責を担うこととなりました。この8年近くの間、しっかりと持病をコントロールしながら、何ら支障なく総理大臣の仕事に毎日全力投球することができました」

はぁ?「毎日全力投球することができました」って、何の冗談なのでしょうか?8月24日の会見でも「日々全身全霊を傾けてまいりました」などと言っていましたが、8年近くもの間、日々全身全霊を傾け、毎日全力投球して来たと言うのであれば、その結果、安倍首相はいったい何を成し遂げたと言うのでしょうか?安倍首相自身、ことあるごとに「政治は結果だ」と言って来ましたが、今回の会見で自身の政治的成果について、どのように述べたのか見てみましょう。

「この7年8カ月、様々な課題にチャレンジしてまいりました。残された課題も残念ながら多々ありますが、同時に、様々な課題に挑戦する中で、達成できたこと、実践できたこともあります」

今回、安倍首相はこのように述べましたが、その「達成できたこと」や「実践できたこと」について、具体的にはまったく触れませんでした。自画自賛が大好きな安倍首相ですから、もしも誰もが納得できる成果を挙げていたのなら、こちらから聞かなくてもペラペラと連呼していたでしょう。結局のところ、これと言った成果など何ひとつ挙げられなかったので、具体的に言うことができなかったのです。

「拉致問題をこの手で解決できなかったことは、痛恨の極みであります。ロシアとの平和条約、また、憲法改正、志半ばで職を去ることは、断腸の思いであります」

またまた出ました「痛恨の極み」と「断腸の思い」、この人が使うと白々しく聞こえる不思議な呪文ですね。こうした言葉は、普通、生涯に一度か二度しか使わない言葉ですが、安倍首相は今年だけでも「断腸の思い」を四度も使っています。本当に「口先だけの人物」「言葉が軽い人物」だということがよく分かりますね。それに、以前も指摘しましたが、これらの言葉は安倍首相が使うべき言葉ではありません。

拉致問題にしても北方領土問題にしても、第1次政権も入れると9年近く「やってるふり」をするだけで実際には何もせず、1ミリも前に進められなかったどころか大きく後退させた安倍首相。拉致問題と北方領土問題に関して「痛恨の極み」「断腸の思い」と言ってよいのは、それぞれの問題の被害者たちであって、安倍首相は本来「言われる側」なのです。

ま、それはさておき、先ほどの「具体来な成果」についてですが、これは質疑応答の中で、読売新聞の記者の質問に対して、次のように答えています。

「総理は結果を出すことに全身全霊を挙げて来ましたが、在任中に成し遂げて来たことの中で、ご自身の政権のレガシーだと思われるものは何でしょうか?」

「レガシーというお尋ねでございますが、これはまさに国民の皆様がご判断いただくのかなと。また歴史が判断してくれるのかと思いますが、7年8カ月前、政権が発足した際には、まず『東北の復興なくして日本の再生なし』『東北の復興に全力をあげる』ということで取り組んでまいりました。また、経済においては働きたい人が働くことができる、働く場を作る、それを大きな政策課題として掲げて、20年続いたデフレに三本の矢で挑み、400万人を超える雇用を作り出すことができました。成長の果実を生かしまして、保育の拡充、また、幼児教育・保育の無償化等を行いました。高等教育の無償化も含めてですね。そして働き方改革や一億総活躍社会に向けて大きく一歩踏み出すことができたと思っております」

まず、「東北の復興に取り組んで来た」というのは「成し遂げたこと」でもなければ「レガシー」でもありませんよね。未だに4万人を超える避難者がいて、福島第1原発の放射能汚染水は今も太平洋に流出し続けているのですから、「東北の復興」は完全に「途中で丸投げ」ということです。

また「400万人を超える雇用を作り出すことができました」というのは、一応は「成果」かもしれませんが、その中身はと言えば、正規雇用を減らして非正規雇用を大量に増やしただけです。都市部での「ネットカフェ難民」を急増させた原因でもあり、こんなものを喜んでいるのは、人材派遣大手「パソナ」の会長の竹中平蔵氏くらいでしょう。

幼児教育・保育の無償化についても、子育て世帯に限定した世論調査では「(無償化より)待機児童の解消を優先すべき」と「(無償化より)保育士の賃金アップや労働環境の改善を優先すべき」が過半数を超えています。安倍首相は政権発足直後の2013年に「2017年までの待機児童ゼロ」を公約に掲げましたが、まったく改善されないまま2017年が迫って来たら、急に「2020年まで」と3年も先送りしました。そして、今は2020年ですが、まだ待機児童は何万人もいます。幼児教育・保育の無償化も重要な政策だと思いますが、まずは保育園に行きたくても行けない待機児童を何とかするのが先ではないでしょうか?

そして、最後の「働き方改革や一億総活躍社会に向けて大きく一歩踏み出すことができたと思っております」というのも、単なる自画自賛の自己満足であって、とても「成し遂げたこと」とは言えませんよね。8年近くも政権の座にいながら、こんなことくらいしか自慢できないなんて、やはり安倍首相は無能で無策だったのですね…と思っていたら、この後、とんでもないことを言い出しました。

「また、外交、安全保障におきましては、集団的自衛権にかかる安全法制の制定をいたしました。助け合うことができる同盟は、強固なものとなったと思います。米国の大統領の広島訪問がその中で実現できたのでございますが、こうした日米同盟を基軸として地球儀を俯瞰する外交を展開する中において、例えばTPP、あるいはEUのEPA、日米の貿易交渉もそうですが日本が中心となって自由で公正な経済圏を作り出すことができたと思っております」

国会での審議も経ずに閣議決定だけで憲法解釈を180度変え、自衛隊を戦闘地域へ派遣して既成事実づくりをし、そこから戦争に参加するめの悪法を強行採決。こんなものを自慢するなんて、開いた口がふさがりません。挙句の果てには、オバマ大統領の広島訪問がこの悪法のお陰だなんて、支離滅裂にもホドがあります。

また、安倍首相はTPPやEPAを「成果」として挙げた一方で、トランプ大統領に完全に押し切られてしまった日米二国間FTAについては触れもしませんでした。日米二国間FTAが締結した時、トランプ大統領は「アメリカの大勝利だ!」とツイートしましたが、安倍首相は「ウィンウィンだ」と強弁しました。「ウィンウィンだ」が事実なら、TPPとEPAだけでなく日米二国間FTAも「成果」として挙げればいいじゃないですか?

…そんなわけで、あまり細かくツッコミを入れていると長くなり過ぎてしまうので、大幅に端折って、最後に西日本新聞の女性記者と安倍首相のやり取りを取り上げます。

「歴代最長の政権の中で、多くの成果を残された一方で、森友学園問題や加計学園問題、桜を見る会の問題など国民から厳しい批判に晒されたこともあったと思います。コロナ対策でも、政権に対する批判が厳しいと感じられることも多かったと思うんですが、こうしたことに共通するのは、政権の私物化という批判ではないかと思います。こうした指摘は、国民側の誤解なんでしょうか?それについて、総理がどう考えられるのか、これまでご自身が振り返って、もし反省すべき点があったとしたら、それを教えて下さい」

「政権の私物化はですね、あってはならないことでありますし、私は政権を私物化したというつもりはまったくありませんし、私物化もしておりません。まさに国家国民のために全力を尽くして来たつもりでございます。その中で、様々なご批判もいただきました。ご説明もさせていただきました。その説明ぶりについてはですね、反省するべき点もあるかもしれないし、そういう誤解を受けたのであれば、そのことについても反省しないといけないと思いますが、私物化したことはないということは、申し上げたいと思います」

これは会見の映像を文字起こししたものなので、安倍首相は一字一句、この通りに発言しています。言っちゃ悪いと思いますが、この人、どうしてこんなに日本語がおかしいのでしょうか?「私は政権を私物化したというつもりはまったくありませんし、私物化もしておりません」って、あまりにもバカすぎます。

ところで、先ほど紹介した読売新聞の記者の質問に対する安倍首相の答弁の冒頭部分を読み直してみてください。これまでの成果の中のレガシーを問われた安倍首相は「レガシーというお尋ねでございますが、これはまさに国民の皆様がご判断いただくのかなと。また歴史が判断してくれるのかと思いますが…」と述べています。

そう、政治家に対する評価は、プラスの評価でもマイナスの評価でも、本人が決めることではなく、あたしたち国民が決めること、後から歴史が決めることなのです。それなのに、国民からの「政治の私物化」という批判について質問された安倍首相は、ムッとした表情で「私は政権を私物化したというつもりはまったくありませんし、私物化もしておりません」と述べたのです。

森友学園問題にしても、加計学園問題にしも、桜を見る会問題にしても、どこからどう見ても「政治の私物化」以外の何ものでもありません。それなのに、よくもまあヌケヌケとこんな言い訳ができたものです。さらには、自分は「国家国民のために全力を尽くして来た」などと言い切り、「政治の私物化だ!」という国民の批判を「誤解」だと抜かしたのです。厚顔無恥とはこのことです。

…そんなわけで、恒例のツッコミはこのくらいにして、最後にサラッと「ポスト安倍」について触れますが、あたしが何よりもおかしいと思ったのは、このタイミングで「ポスト安倍」を選任するという異常な流れに、誰も疑問を持たないという点です。首相が病気などで職務の遂行ができなくなった場合は「副総理がその任を引き継ぐ」という規定があるのですから、総裁選など行なわずに、自動的に麻生太郎副総理が首相を引き継ぐのが普通です。

今回の総裁選は「なるべく政治空白を作らないめ」などとモットモらしい理由をつけて、全国の自民党員の投票を行なわない流れになっています。もちろんこれは「石破茂排除」の一環ですが、本当に「なるべく政治空白を作らないめ」と思っているのなら、総裁選など行なわずに通例に従って麻生太郎副総理にバトンタッチすれば良いだけの話なのです。

それでも強引に総裁選を行なおうとしているのは、水面下で決まっている「菅義偉総裁」、そして「菅義偉首相」というシナリオが、いかに民主的に選出されたのかという演出のためなのです。今回、選任される次期総裁は、自民党の看板として来年9月までに総選挙を戦わなければなりません。それなのに、通例に従って麻生太郎氏を後継者にしたら、自民党にとっての悪夢、2009年の「下野(げや)」が繰り返される恐れがあるのです。

今回、安倍首相は「8月24日に辞任を決めた」と述べましたが、実際には7月下旬から辞任を想定しての後継人事に動いていたと見られています。安倍首相も当初は、副総理である麻生太郎氏に「自分にもしものことがあった場合の引き継ぎ」を打診したようで、それが8月7日だと言われています。8月6日と9日は広島と長崎での原爆慰霊祭があるため、無理をして7日に時間を作ったようです。

8月7日、数日ぶりに午前中から官邸に向かった安倍首相は、わずか9分間の閣議後、麻生太郎氏とだけ長時間の面会をしているのですが、この時に安倍首相は自身の状況を伝えた上で首相の引き継ぎを打診したそうです。しかし、総選挙の重責を担うことを嫌った麻生太郎氏は、年齢などを理由に断ったそうです。

そして「終戦記念日」の8月15日、この日は午前から千鳥ケ淵戦没者墓苑や全国戦没者追悼式など、安倍首相はとても忙しく疲れも溜まっていたようですが、午後、渋谷区富ケ谷の私邸に戻ってから、麻生太郎氏を私邸に招き、午後2時半から3時半頃まで1時間ほど密談をしています。私邸でも、食事会などで複数人を招いて数時間を過ごすということはたまにありましたが、何かの打ち合わせをするために相手を私邸に招くというのは、異例中の異例です。

こうした流れの中で、麻生太郎氏の代わりに菅義偉官房長官を後継者にすること、そのために総裁選を演出すること、石破茂排除のために党員投票を行なわないことなどが打ち合わせされたと見られています。

そして、8月28日の午前、安倍首相はわずか14分の閣議の後、麻生氏、財務省の太田充事務次官、矢野康治主計局長と面会したのですが、13分ほどして太田氏と矢野氏を部屋から出し、麻生氏と2人だけで35分間、面会を続けました。ここで最終的な打ち合わせがされたと見られています。そして、この日の午後5時から辞任会見が行なわれました。

すべて「だそうです」「と見られています」という書き方で申し訳ありませんが、ここに書いた内容は、官邸に太いパイプを持つ知り合いの記者からの伝聞なので、このような書き方をしました。そもそもは安倍首相と麻生太郎氏の2人だけの面会での話ですが、全体の流れは側近などから周囲に漏れていたため、一部には割りと早い段階から「後継者は菅義偉官房長官」という情報が流れていたそうです。ジャーナリストの田原総一朗氏は、まだ菅義偉氏の名前が出る前に、ラジオで「次は菅さんです」と躊躇なく断言していました。

(『きっこのメルマガ』2020年9月2日号より一部抜粋)

image by: 首相官邸

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