世界を“麻薬漬け”にする中国。菅総理は対中依存から脱却できるか?

 

本気で中国と対峙しているのはアメリカだけ

日々メディアで描かれ、私も何度も書いた【米中対立激化の構造】は、実際ふたを開けてみると、【本気で中国と全面的に対峙しているのはトランプ大統領のアメリカ合衆国だけである】という構図に辿り着きます。

例えば、アメリカ合衆国と長年にわたり共通の方針を取ってきたEUでは、【すでに固定化した対中依存の経済モデル】が中国への毅然とした態度を封じています。

COVID-19を受けて中国への依存を見直し、域内での戦略物資の生産・調達へとシフトを目指す方針を打ち出していますが、コスト・規模などから困難であることが分かってきており、これまでに長い間に作ってきた構造を変えることは容易ではないと思われます。

また、拡大によって顕在化してきた【北のEU(北欧諸国、ベネルクス、フランス、ドイツ)】と【南・東のEU(ギリシャ、イタリア、スペイン、ポルトガル、中東欧諸国)】の間にある複次的な亀裂が存在し、中国に対する方針もすでに一枚岩ではないという現実が生まれています。

そこには、コロナ時に助けを求めても独仏から無視されたという遺恨と、そこに迅速に救いの手を差し伸べたのが中国だったという現実があり、意図したかどうかは別として、中国による外交的な切り崩しが功を奏していると言えます。

結果、アメリカが求めるような徹底した対中批判と制裁の発動の輪には加わることが出来ず、米・欧間の分離・分裂が起きています。

そこにトランプ政権が打ち出した欧州(特にドイツ)駐留米軍の削減方針が追い打ちをかけており、今や、表面的には欧州各国も中国批判をし、特に新疆ウイグル自治区やチベット自治区などにおける中国政府による弾圧という人権問題を盾に中国を遠ざけようとする努力は見えますが、域内でも温度差がありますし、ましてやアメリカとは全くトーンの違った口先だけの批判となっています。

日本やオーストラリア、ニュージーランド、カナダなども中国の人権問題や香港国家治安維持法などに対して批判はするものの、アメリカが唱える制裁は見送るというように、外交と経済を切り離した“ゆるい”対応に終始しています。

これも、【アメリカに合わせて批判はするが、制裁には加わることが出来ない対中依存が進んだ経済構造】ゆえの結果と言えるでしょう。新政権が発足した日本には、ぜひ尖閣問題については毅然とした態度で臨んでほしいと切に願いますが。

東南アジア諸国、アフリカ諸国、中東アラブ諸国などにおける途上国における中国の影響力の浸透は想像を絶するレベルにあります。

一帯一路、石油ベースのエネルギー戦略、戦略物資とワクチンの優先供給などの“ネタ”を巧みに用い、すでに【成長における中国依存が高まり、国家の収益維持・拡大には中国が欠かせない】という状況が作り出され、さらには一帯一路政策を通じた“累積債務による足かせ”をつけるという強権的な一面と、【困ったときの中国による迅速な対応】という“アメ”を用い、「質は日米欧には劣るが、すぐに供給してくれるのはありがたい」という心理状況を作り出してコントロールを強めていきます。

ある国の高官の言葉を借りれば、「中国の拡大に懸念は大きくなる一方だが、口ばかりのアメリカや先進国とは違って、中国はすぐに来てくれる」という内容からも分かるように、すでに中国の対外戦略は、エントリー時のBusiness is businessで内政不干渉をうたっていたレベルから、外交・政治などにも広がる【国際舞台での中国支持】というレベルにまで浸透していることが分かります。

例えば、メディアなどで明らかな中国の人権侵害として報じられる新疆ウイグル自治区での再教育施設については、アラブ諸国はその政策への全面的な支持を与え、国連などの場で「収容施設とイスラム教弾圧は、必要な反テロ・脱急進化対策であり、幸福と満足感、安心感をもたらしている」と称賛して、中国を国際舞台において守っています。私が違和感を持つのは、新疆ウイグル自治区のウイグル人は基本的にイスラム教徒(アラブ諸国にとっては同胞)であるにもかかわらず、イスラム教徒への“迫害”を称賛しているという点です。

アメリカが仲介をしてイスラエルとの国交正常化を図っているUAEやバーレーン、エジプト、クウェート、イラクなどもその称賛の輪に加わっています。つまり、極端な言い方をすれば、彼らは米中双方を利益に応じて上手に使い分けていると言えますが、国際情勢という観点からは、中国よりと見たほうがいいかもしれません。

国際情勢の裏側、即使えるプロの交渉術、Q&Aなど記事で紹介した以外の内容もたっぷりの島田久仁彦さんメルマガの無料お試し読みはコチラ

print
いま読まれてます

  • 世界を“麻薬漬け”にする中国。菅総理は対中依存から脱却できるか?
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け