MAG2 NEWS MENU

敗北トランプ「北朝鮮亡命説」の現実度。“12月来日”に警戒せよ

大接戦の末、第46代大統領就任が確実となったバイデン氏。しかしトランプ大統領は選挙で不正が行われたと主張し結果を受け入れず、慣例となっている敗北宣言も拒否しています。トランプ氏は今後、どこに着地点を見出すのでしょうか。今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では著者で米国在住の作家・冷泉彰彦さんが、「北朝鮮への亡命」を含めた展開され得るシナリオを考察しています。

名誉ある敗北を拒むトランプ、今後のシナリオは?

各メディアが一斉にバイデン当確を打ったのは、11月7日(土)の午前11時40分頃(米国東部時間)でしたが、その日の朝に、トランプは1つのツイートをしました。

弁護団会見、11時にフィラデルフィアのフォーシーズンズで

というのがその内容です。世界中の報道陣は一斉にフィラデルフィアを目指したのですが、やがて第2のツイートが流れました。

本日、大記者会見、11時半にフィラデルフィアのフォーシーズンズ園芸店にて

というのです。多くの報道陣は混乱し、フォーシーズンズホテルに電話をしたそうです。その答えは「当方ではそのようなご予約は承っておりません」というものでした。

フォーシーズンズホテルと言えば、国際ホテルチェーンとしては名門です。当然そこで行われるだろうと思っていた報道陣は、結局そうではないと知って、問題の園芸店に向かいました。市の中心部にあるホテルと同じ名前の園芸店ですが、場所は全く違う場末のポルノショップの隣でした。

記者会見は、その園芸店の倉庫の前で本当に行われ、大統領個人の法律顧問であるルディ・ジュリアーニが登場して、大統領選結果については「全国的に不正の証拠がある」ので何十もの訴訟を提起すると宣言したのでした。

では、どうして一流ホテルではなく、同じ名前の場末の園芸店で記者会見が行われたのでしょうか?

当初は、トランプ陣営が間違えて電話をかけたという説明がされていました。つまり、ホテルだと間違えて、園芸店に電話をして「予約」をしたので、引っ込みがつかなくなったというのです。

ですが、よく考えればそんなことはないことが分かります。場末の園芸店が、間違ってかかってきた電話に対して、「大統領の法律顧問の大規模記者会見」という要望を受けるわけがないですし、その電話の中で間違いが分かれば話は「ないこと」になるのが自然だからです。

陣営は否定していますが、どう考えても「トランプ陣営にはカネがない」のだが、「大統領がフォーシーズンズでやる」と言ってしまったので、対面を繕うためにホテルと同じ名前の園芸店に「無理に頼んでやらせてもらった」と考えるのが自然です。

訂正のツイートが大統領のメインのアカウントから出ていることを考えると、ジュリアーニなどが大統領に隠れて「カネがないので、園芸店でやった」というのではなく、そもそもカネがないのでホテルではできないことも含めて、大統領本人も知っていることだと考えられます。

会見の内容としては、ジュリアーニがいつものように強気で吠えていたようですが、取材に来た報道陣はその会見の様子に加えて、隣のポルノショップを含めた場末の園芸店の風情から「終わってる」という感じを痛感したようです。

ちなみに、別にトランプ陣営としては、カネがないことを隠しているわけではありません。公然と「訴訟費用の募金活動」を宣言しており、この会見の目的もそうでした。共和党全国委員会の周辺からは「目標額は60ミリオン(63億円)」という数字が出ています。ただ、弁護団にそれだけ払って「ドリームチーム」を編成して、裁判に勝とうというのでは必ずしもないようです。

というのは、選挙戦の終盤、かなり各州のレースが加熱したので、トランプ陣営としてはカネが尽きていたにも拘らず、借金をして運動資金にしていたのだというのです。今回の「訴訟対策募金」というのは、そのカネの相当な部分は、その借金返済に充てられる可能性があるようで、最悪の場合は63億の8割は消えるという説もあります。

ということで、園芸店での会見にしても、募金と借金の話にしても、何とも「トホホ」としか言いようのない、「終わってしまった感」満載になっているわけです。

ですが、問題はその「終わり方」が見えないということです。とにかく、本稿の時点ではトランプは、あくまで「選挙結果は盗まれた」のであり「不正な勝利」から次期大統領の座を「奪い返す」という姿勢を変えていません。

では、これからの展開にどんなシナリオがあるのでしょうか?

1)遅かれ早かれ負けを認めるという可能性は勿論あると思います。現時点では、CNNなどが、メラニアとジャレッド(クシュナー=女婿)が御大に「敗北を認めるように」と説得していると報じています。また、バイデン陣営の盛り上がりを横目に、土曜、日曜と連日ゴルフに興じているのも異様なら、その際にかぶっている白い帽子が「白旗」のように見えるという説もあります。

2)一方で、何も言わず、何もせず、従ってバイデンをホワイトハウスに招待して業務引き継ぎを行うことも何もなく、静かに1月20日に消えていくというシナリオもあります。本人がそれを望まなくても、メディアはもう「ガン無視」に近い姿勢を保っていますし、特にツイッター社は「選挙結果について虚偽情報を含むツイート」は削除するとしていますから、一方的な主張もできないわけです。ですから、静かに消えていくという可能性もあります。

3)問題は、先に述べた選挙費用の借金ではなく、その前からトランプ・オーガニゼーションが抱えていると言われる、400億の借金です。これの返済期限が迫ってきているという説があり、仮に大統領を退任するにしても、これをどう処理するかは頭の痛い問題となっているはずです。ちなみに、この借金ですが、NYタイムスの報道によれば貸しているのはドイツ銀行で、ロシアとサウジが裏書きしているというのです。ということは、仮に政治亡命するにしても、この2国は難しいことになります。

4)トランプは、選挙「不正」を告訴すると息巻いていますが、反対に大統領を退任したら自分が訴えられる可能性は大きいわけです。脱税、背任、偽証、選挙資金の違反、横領、セクハラなど、罪状は山のようにある中で、民主党内には刑事事件、民事事件のどちらも「しっかりカタをつけてもらうべき」という声が大きいのです。

5)そこで、考えられるのは亡命ですが、前述したようにサウジとロシアは難しそうです。後は、ドイツ銀行が絡んでいる中では、EU圏もダメでしょう。そうなると、例えばジョンソンの英国とかネタニヤフのイスラエルなど、トランプが在任中に良好な関係を結んだ国が対象に浮かび上がります。この両名、つまりジョンソンとネタニヤフが、真っ先にバイデンに祝意を送った背景には、「ウチは亡命を受け入れませんよ」という意思表示も入っているに違いありません。さらに言えば、菅総理も同じです。サッサとバイデンに祝電を打ったのは、トランプへの「ウチは今後の面倒は見ない」という宣言という意味合いがあると思います。

6)そうなると、一つの可能性として浮上するのは北朝鮮です。1%の可能性もないとは思いますが、亡命先として受け入れておいて身柄を人質にして今後の交渉カードにする、そんな陰謀を金正恩が考えて、それにトランプが騙されて乗るという可能性はゼロではありません。また、韓国サイドがその幇助をする可能性も全くのゼロとは言えないと思います。仮に、12月などのタイミングで、トランプが日本などの訪問を言い出したら警戒すべきです。

日本を訪問して晩餐会などの派手な席上でそっとトイレに立った後で「ドロン」というような、スパイ映画も真っ青のようなシナリオがないとも限りません。なにしろ、場末の園芸店で記者会見をやるような人々です。常識は通用しません。その場合には、菅総理は米国の政権移譲チーム、国防総省、国務省、CIAの中の「敵と通じていない個人」を峻別し、「まともな」相手方と協力して、亡命劇を未然に防ぐべきです。

これも本当に万万が一の話ですが、仮にそうしたドラマが進行した場合は、世界に公表すべきです。今後のトランプの影響力を削ぐということ、バイデン新政権に恩を売るということもありますが、日本のインテリジェンスの分野における実力を世界に見せるということは、国の安全保障の上で重要だからです。

それはともかく、仮に何らかのシナリオでトランプがアメリカ政治の舞台から退場した場合、例えば2022年の中間選挙、そして2024年の大統領選においては、共和党を率いるのはどんな政治家になるのでしょうか?

この問題は、共和党だけの問題ではなく、民主党の中で穏健派と左派がいつまで共存できるのかという問題も関わってくる話になります。こちらは、まだ次の時代を指し示す萌芽は見えていませんが、改めて別の機会に議論してみたいと思います。

image by: Christos S / Shutterstock.com

冷泉彰彦この著者の記事一覧

東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料で読んでみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 冷泉彰彦のプリンストン通信 』

【著者】 冷泉彰彦 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 第1~第4火曜日発行予定

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け