天国か地獄か。希望的観測が招く菅政権「将棋倒し」Xデー

 

剣呑さを増す安倍と菅の関係

正面でのコロナ禍対応だけでも潰れそうな菅にとって、もう1つの難問は背面での安倍晋三前首相との暗闘である。菅を後継指名したのは自分だと安倍は思っていて、それは何よりもサクラ疑惑をはじめ数々の薄汚いスキャンダルをこのまま蓋をしてくれるのは長く官房長官として仕えてくれた忠臣=菅しかありえないという打算に発したことである。

その安倍の上から目線の傲慢が、11月11日の「私なら1月解散」という、現職総理に対してこれ以上の無礼はないとも言える軽口になって表れ、菅はおそらくプッツンしたことだろう〔注〕。元々菅は安倍の言うなりになるつもりはなく、むしろ安倍傀儡のように思われるのが嫌だから、ことさらに安倍離れを演じようとしてきた。それがこの安倍暴言でプッツンし、サクラ疑惑での検察による安倍事情聴取、弁明記者会見、国会招致を止めようともしない官邸の態度となって発現したのだろう。

こうなると、安倍自身をはじめその応援団の右翼どもはいきり立って菅潰しを企てるだろう。すでにその兆候は、安倍熱烈支持の一部右翼雑誌には現れていて、狂ったような安倍礼讃が繰り広げられている。このため、菅を「安倍に忠実でない」という角度から批判して引き下ろそうとする力も働くことになろう(図4)。

〔注〕本誌は一貫して、首相が好きな時に衆議院を解散できるとする、憲法第7条4項の曲解に基づく「伝家の宝刀」論を廃棄すべきだと主張してきた。

バイデンは米国を救えるか

さて、1月には米国でバイデン政権がスタートする。トランプがブチ壊したすべてを修復するのは容易なことではないが、少しずつでも米国の内外政が正常な状態を取り戻せるよう取り組むしかない。対外政策で言えば、温暖化防止のパリ協定への復帰、世界保健機関(WHO)への復帰、イラン核合意へも復帰、世界貿易機関(WTO)や北大西洋条約(NATO)への嫌がらせの撤回、ロシアとの新戦略兵器削減条約の延長などが「正常化」の中身で、それを通じてトランプの「米国第一主義」という名の単なる我が儘路線から撤収して「多国間主義」の同盟国重視路線を追求することになろう。

問題は中国との関係がどうなるかである。日本でほとんど常識のように行き渡っている見解によれば、そのように日欧など同盟国と協調したり国際機関を尊重したりする多国間主義には転換するが、中国に対してはその主義は適用されず、トランプ時代と変わらぬ厳しい態度が続くものとされている。

例えば、日本経済新聞12月25日付「大機小機」欄は「バイデン政権でも変わらないのは、米中の覇権争いだろう。とりわけ米欧連携を背景に、人権問題で対中姿勢を強化することになる」と述べている。あるいは、バイデン政権の環境政策を論じた朝日新聞12月25日付の山内竜介記者の解説は、バイデンによって「“脱炭素”に向けた多国間協力の機運が高まる」けれども、「一方、主導権争いや取り組み方針などを巡って溝が出来れば、米中対立の新たな火種につながる」と述べている。

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