天国か地獄か。希望的観測が招く菅政権「将棋倒し」Xデー

 

「多国間主義」の正しい理解

しかし、こういう言い方の中に大きな間違いがいくつか含まれている。第1に、トランプ時代の後半に米中対立が激化したのは事実だがそれを「米中覇権争い」と安易に呼ぶのは間違いである。なぜなら、16世紀のポルトガル、17世紀のオランダ、18~19世紀のイギリス、20世紀のアメリカという、圧倒的な軍事力(特に海軍力)を持つ国こそが巨大な経済力を持つことが出来たという覇権主義の時代は、資本主義がグローバル化を競い合いフロンティアを奪い合うことができた一時期のみの属性であり、「資本主義の終焉」(水野和夫)と言われる今日では、米国が最後の覇権国であるにもかかわらず未だに自分をそう納得させることが出来ずにもがき苦しむ一方、中国は台頭しつつありやがて経済力で米国を追い越そうとはしているけれども、軍事力によるフロンティア強奪という旧来の方法によってそうなる訳ではないことを十分に自覚している。

従って第2に、今日における「多国間主義」とは、2つのことを意味していて、1つには、米国が自国がもはや突出したナンバー・ワンでも特別な地位を保障されているわけでもない、十分に強大ではあるけれどもいくつもある強大国の1つ、つまりワン・ノブ・ゼムでしかないという自己認識に立って自国を運営できるようになること。もう1つは、中国に対する徒らな恐怖心、警戒心、猜疑心、嫉妬心を捨てて、21世紀の新しい国際秩序の責任ある一員として中国を敬して招き入れることである。

バイデンの多国間主義がこういうものでないとすると、それは単に、日欧など既存の“同盟国”とのみ協力して中国包囲網を形成するという、安倍晋三の知性レベルと同程度の営みになって、米国の再生に失敗することになる。1月27日のバイデン初の一般教書演説でそこが見えるはずである。

さて、そこで、本来日本は、米中間の意味のないゴタゴタを調整し、真の多国間協調主義の原理に立つ21世紀的な国際秩序の形成に貢献しなければならないが、菅の知性欠如ではそれは到底無理と言わざるを得ない。

image by: 首相官邸

高野孟この著者の記事一覧

早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。

有料メルマガ好評配信中

  初月無料お試し登録はこちらから  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 高野孟のTHE JOURNAL 』

【著者】 高野孟 【月額】 初月無料!月額880円(税込) 【発行周期】 毎週月曜日

print
いま読まれてます

  • 天国か地獄か。希望的観測が招く菅政権「将棋倒し」Xデー
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け