トルコに対しては厳しい姿勢か
では、他の地域はどうでしょうか?対アフリカ、対ラテンアメリカ諸国の政策は、トランプ政権の米・メキシコ国境の壁政策以外は、さほど変わらないかと思います。どちらにも中国の影、ロシアの影がちらつくという緊張感は満載ですが、主戦場にはならないと思われます。
とはいえ、東アフリカで悪化の一途を辿る安定(例:エジプトとエチオピア政府との間でのルネッサンスダム問題、ケニアとソマリアの断交問題、エチオピアでのTPLF問題、二つのスーダン…)については、バイデン政権としてはしっかりとグリップし、有事の際にはアメリカが収めにかかるという姿勢を明確にしておく必要があるかと考えています。
直接的な関与はなくとも、一応、アメリカのテロリズムに対するグローバル戦略の重要拠点となるエリアには変わりはなく、かつ中東諸国の安定を見守るセンターともなるため、誰の目からもcredibleなコミットメントが必要だと考えています。
中東地域については、バイデン政権は大きな問いにぶつかることになるかと思います。
トランプ大統領が政権末期にイスラエルとアラブ諸国との間の融和を進め、すでにUAE、バーレーン、スーダン、モロッコとの国交樹立を仲介しましたし、駐イスラエル米大使館を首都テルアビブからエルサレムに移転したという“現状”は継続を余儀なくされていると思われます。
エルサレム問題については、バイデン大統領の支持基盤においても対ユダヤ人への配慮が重要になっていますので、直接的に良いとも悪いとも触れないまま、現状が維持されるものと見ています。
またイスラエルとアラブ諸国との間の国交樹立についても、それをキャンセルするような動きは取れず、こちらも「対イラン包囲網(そして対トルコ包囲網)」として機能することを認識しつつ、バイデン大統領としては特段、自らコメントはしていません。
現状を維持することで、バイデン大統領の腹の内を探り、警戒心を高めているイスラエルやサウジアラビア王国、他のアラブ諸国からのbacklashを回避するのだと考えます。
イランとの関係改善とイラン核合意への復帰を目指す米バイデン政権ですが、適度な圧力をイランにかけ続けるという意味でも、先ほどのイスラエルとアラブの結託というstatus quoについては尊重するものと思います。もちろん、これはイラン指導部との綱引きという様相も呈していますが…。
同じ中東地域でも、バイデン政権はトルコに対しては厳しい姿勢で臨むのではないかと思います。
大統領選時から、バイデン大統領はトルコの自由奔放で同盟国の結束を乱すような行いを批判し、エルドアン大統領を独裁者とまでこき下ろしていましたが、原理原則を重んじるバイデン氏としては、アメリカや欧州各国とNATOを通じた同盟国でありつつ、ロシアから武器を購入して配備するという(バイデン大統領から見て)暴挙に出たことは許しがたいようです。
NATOの同盟強化にトルコを再度組み込み、対ロシア最前線基地としての立場と機能を回復・強化するためにも、バイデン大統領のトルコとエルドアン大統領に対する“風当たり”は強くなると見ています。
それに対して必ずしもwelcomeな姿勢を見せていないエルドアン大統領ですが、今後、EUやロシア、他の中東諸国、そしてイスラエルといった多面的なフロントで緊張を高めているトルコの苦境を脱するために「いかにバイデン大統領を使うのか」という策を練っていると聞きます。
アジアと欧州の要に位置し、かつ中東諸国に対してもグリップが聞く位置にいるトルコをどのように陣営に引き戻すことが出来るかが、バイデン政権にとっての中東・欧州・西アジア戦略の成否を決めるといっても過言ではないと思います。
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