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遅きに失して真実に迫れず。中国の思惑通りなWHO「武漢調査」

武漢入りから2週間の隔離期間を経て始まったやはり2週間のWHOの調査が終了。調査団の会見は、武漢ウイルス研究所からのウイルス流出説を否定し、海鮮卸売市場も発生源ではないと、中国側の主張をなぞるだけでした。メルマガ『uttiiの電子版ウォッチ DELUXE』著者でジャーナリストの内田誠さんは、今回の調査の重要な舞台の1つ「武漢ウイルス研究所」に関する新聞記事を昨年4月まで遡って検証。同研究所の実習生が感染した疑惑の説明はなく、調査中発せられた「多くの疑問」も明らかにされず、会見に同席した中国のガードの堅さを窺わせています。

新聞各紙は「武漢ウイルス研究所」でどんな記事を掲載してきたのか?

きょうは《毎日》から。WHOの調査団が会見を開き、武漢ウイルス研究所からのウイルス流出説を事実上否定しました。各紙書いていますが、「武漢ウイルス研究所」でどんな記事が掲載されてきたのか、毎度のことで申し訳ないですが、《東京》の検索機能で探してみました。

昨年の4月以降、8件にヒット。今日の《毎日》の記事を入れれば9件ということになります。まずは《毎日》4面記事の見出しと【セブンNEWS】第4項目の再掲から。

研究所起源は否定的
武漢調査終了 WHO会見

中国・武漢で新型コロナウイルスの起源について調べていた世界保健機関の調査団は、約2週間の調査を終えて会見。米国トランプ前政権が唱えていた武漢ウイルス研究所からのウイルス流出疑惑につき、「可能性は極めて低い」として今後の調査対象から外すことに。

会見は中国側と合同で行われ、WHOの専門家、ペンエンバレク氏は「実験室の事故によってウイルスが流出した可能性は極めて低い」と述べた。一方で、「武漢市以前の感染経路や人とウイルスを結びつける動物の絞り込みには至らなかった」とも。

最初に集団感染が確認された「華南海鮮卸売市場」は、初期のクラスターの1つではあるが、同時期に市場以外でも小規模な感染が起きていたとした。

●uttiiの眼

ウイルスの型などから、武漢ウイルス研究所も、華南海鮮卸売市場も「発生源」ではないということになった。またコウモリからどんな動物を経て人間に感染したのかについても結論は出なかった。要は、何も分からなかったということに近い。同席した中国側は、「中国以外で調査する必要性を強調し、「輸入冷凍食品などを介してウイルスが外国から流入した可能性」を指摘したというから、中国側はこの調査と会見を通じて実現しようとしていた目的を果たしたことになるのだろう。

それでも、この結果に対する責任の半分は中国側にあると言わざるを得ない。調査開始が大幅に遅れたことで、発生から1年後にようやく実現した今回調査の有効性には、最初から疑問が投げかけられていた。

【サーチ&リサーチ】

2020年4月20日付
米トランプ前政権が調査に乗り出していることについて、ワシントン・ポスト紙(電子版)が報じたことがニュースになっている。

「在中国米大使館の職員らが2018年1月、同研究所を複数回訪れ、米国務省に公電2通を送っていた。同紙が入手した最初の公電は、研究所側が、コウモリを使ってコロナウイルスについて調べている研究室で安全な作業に必要な熟練の技術者が圧倒的に不足しており、米国の大学や機関に支援を求めていると明記していた」と。

また、FOXニュースは「複数の情報源の話として、新型ウイルスは同研究所内のコウモリから所員に感染し、武漢市内に広まった」と報じたという。

*翌日、ホワイトハウスでのトランプ大統領記者会見で、FOXニュースの記者が自社の報道をなぞる形で質問。「米国政府は、コロナウイルスは自然発生したものではあるものの、武漢のウイルス研究所から流出したものと強く信じているということです。一人の実習生が安全の手順をおろそかにした結果、感染し、彼女からボーイフレンドに感染させその後、武漢の魚市場へ感染を広げたということですが、大統領はこの情報を当局者からお聞きになっていますか?」と聞いている。トランプ氏は曖昧な答えに終始している。

2020年4月23日付
WHOの報道官は、新型コロナウイルスは「研究所などで人為的に操作や作製されたものではなく、動物が起源であることをあらゆる根拠が示している」と言明。

*ここは論点がずれている。トランプ政権からもウイルスが「人為的に操作や作製された」との説は出ていない。WHOが否定したのはウイルスに関する「陰謀説」で、武漢ウイルス研究所から女性実習生が流出させてしまったというFOXニュースが伝えた説の否定ではない点に注意。

2020年5月20日付
「中国科学院武漢ウイルス研究所の王延軼所長は、同研究所から新型コロナウイルスが漏えいしたとの見方は「でっち上げだ」と否定し、研究所が初めて新型コロナウイルスを扱ったのは前年の12月30日だったと証言。

*そして、今年1月半ばに武漢入りしたWHOの調査団が2週間の隔離を経て調査を開始した。

2021年1月31日付
中国側主導で決められた日程に従って調査が始まったが、「調査を巡っては、中国政府が受け入れを遅らせたとしてWHOのトップが非難。中国は、感染を世界に広めたとの責任追及の動きに神経をとがらせている」としている。

2021年2月4日付
調査団が武漢ウイルス研究所を訪問。「調査団は研究所に3時間半滞在。調査団員のピーター・ダジャック氏は同日夕、ツイッターに、コウモリに由来するウイルス研究で知られる石正麗(せきせいれい)氏らと面談し「率直で開かれた議論を行い、重要な問題について質疑した」と投稿。同じくデンマーク出身のテア・フィッシャー氏は、研究所を立ち去る車内から、成果を聞いた報道陣に「非常に興味深い。多くの疑問がある」と声を上げた」という。そして、調査終了後の記者会見、と続く。

●uttiiの眼

2月4日付の記事には、少々思わせぶりな記述も混じっているが、会見で報告された事柄のなかには「多くの疑問」は反映されていなかったようだ。それが「中国側同席」の効果であったのかどうかも分からないが、帰国後に個々の調査団メンバーから具体的な「疑問」が開陳される可能性があるのかもしれない。

【あとがき】
以上、いかがでしたでしょうか。少なくとも公式には「ウイルス人工操作・作成」説を口にしていなかったトランプ氏。それでも、新型コロナウイルスを「チャイナ・ウイルス」と呼ぶことによって、コアな支持層の一部は「陰謀論」が脳裏に浮かぶ仕掛けになっていたのではないでしょうか。

ところが、新型コロナウイルス肺炎が猖獗を極めたのは、中国ではなく米国だった。その意味では、「チャイナ・ウイルス」どころか、紛う事なき「アメリカン・ウイルス」だったということになりそうです。もちろん“起源”については別途、追究が必要ですが。

image by:askarim / Shutterstock.com

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ニュースステーションを皮切りにテレビの世界に入って34年。サンデープロジェクト(テレビ朝日)で数々の取材とリポートに携わり、スーパーニュース・アンカー(関西テレビ)や吉田照美ソコダイジナトコ(文化放送)でコメンテーター、J-WAVEのジャム・ザ・ワールドではナビゲーターを務めた。ネット上のメディア、『デモクラTV』の創立メンバーで、自身が司会を務める「デモくらジオ」(金曜夜8時から10時。「ヴィンテージ・ジャズをアナログ・プレーヤーで聴きながら、リラックスして一週間を振り返る名物プログラム」)は番組開始以来、放送300回を超えた。

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【著者】 内田誠 【月額】 月額330円(税込) 【発行周期】 週1回程度

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