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資生堂に異変。米国仕込の「プロ経営者」が日本の老舗企業を食い物にしている?

日本を代表する老舗大企業の資生堂に、ある異変が起きているようです。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では元全国紙社会部記者の新 恭さんが、社員にボーナスが支給されぬ中で5億円もの報酬を得ている魚谷雅彦社長と、その知己である藤森義明社外取締役の不可解な動きを紹介。さらに彼ら2人をはじめとしたアメリカ仕込みを謳う「プロ経営者」の事業運営の実力に疑問を呈しています。

老舗大企業「資生堂」を私物化する、魚谷・藤森という「プロ経営者」たち

「社長の報酬は5億円、なのに社員のボーナスはゼロ」。資生堂関係者から怒りとも嘆きともつかない声が筆者のもとに届いた。

インバウンドの恩恵に浴し、好調な売上をキープしてきた資生堂も、新型コロナの直撃で昨年12月期の決算は116億円の赤字となった。この苦境のさなか、魚谷雅彦社長は年5億円を懐に入れて平然としている。今年3月の決算賞与をあてにしていた社員の気持ちもよくわかる。

そんなおり、かつて日本マクドナルドやベネッセを率いた原田泳幸氏が妻への暴力事件で警視庁に逮捕されたというニュースが流れた。夫婦仲がどうだったかは知らぬが、「プロ経営者」としてもてはやされ、テレビにたびたび登場していた原田氏が警察沙汰になるというのは、ちょっとした衝撃である。

この事件で原田氏は台湾発のお茶専門店を運営する「ゴンチャジャパン」の会長を辞任した。「プロ経営者」としての再起は並大抵のことではないだろう。

「プロ経営者」といえば、資生堂の魚谷社長も著名度においては原田氏にひけをとらない。2年ほどアメリカの大学に留学してMBAを取得し、日本コカ・コーラ社長、アスクル社外取締役…と何社も渡り歩いて、2014年4月、資生堂社長のポストにたどり着いた。2019年9月の取締役会で、社長に再任されたが、任期はなんと2024年まで。上限6年までの社長任期を一気に5年延ばしたのだ。

魚谷社長の経営手腕は日経などマスメディアや株主、アナリストに高く評価されている。社長に就任して以来、資生堂の業績は好調、株価も上昇し続けたのは確かだ。しかし、売り上げ増の内容を見ると、中国市場における販売拡大、インバウンド消費、50万人に及ぶ在日中国人(留学生など)の代理購入によるものが大半である。政府の積極的な観光振興策もあって、たまたま上昇トレンドの波に乗れた側面も否定できない。

実は最近、資生堂はおかしな動きをしているのである。キーパーソンはもう一人の「プロ経営者」だ。

アジア人初の米GEシニア・バイス・プレジデントという華々しい経歴をひっさげて、LIXILの会長などをつとめてきた藤森義明氏。LIXIL時代から魚谷氏と仲がよく、その縁もあって、資生堂の社外取締役をつとめていたのだが、3月25日の株主総会に提案される社外取締役候補に引き続きその藤森氏の名が入っているのだ。なぜそれが問題かを説明しよう。

今年1月末、ヘアケアの「TSUBAKI」、ボディケアの「SEA BREEZE」、メンズブランド「uno」など日用品事業を欧州系投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズに1,600億円で売却するというニュースが、資生堂社内を震撼させた。

いずれも有名俳優やモデルをCMに起用し知名度のあるブランドで、安定した利益をあげている。なのに、これらをCVCに売却、その子会社が設立する新会社に事業を譲渡するというのだ。資生堂はCVC子会社の株式の35%を持つ形になるが、経営への発言力はゼロに等しい。「資生堂は大丈夫か」という声が上がるのも当然だろう。

実はこの藤森氏、あろうことか、CVCキャピタル・パートナーズ日本法人の最高顧問なのである。そんな人物が相変わらず社外取締役として入る。「利益相反」ではないのか。しかも藤森氏は次期社長候補とも観測されているのだ。

2024年まで任期を延ばした魚谷社長が、魚谷・藤森の長期支配体制を固めようとしているように見える。それにしても、こんな人事を批判覚悟で実行しようとする背景には何があるのだろうか。

結論から言うと、株価維持になりふり構わぬ魚谷社長の経営姿勢をめぐり、魚谷氏が外部から招いた幹部社員とプロパー社員の分断が深まっているのだ。

2018年までの12年間、資生堂の社外取締役を務めた早稲田大学名誉教授、上村達男氏は魚谷氏を社長に推薦した1人だが、昨今の魚谷社長の経営姿勢については憂慮しているようだ。2月2日の東洋経済オンラインに掲載された記事の一節。

上村氏は何を憂えているのか。魚谷氏に対しては経営者としていいイメージを持ったまま、資生堂の社外取締役を退任した。その後、直接の接点は持っていないが、関係者から伝えられる情報や公表情報から資生堂の動きを見ていると、「最近漏れ聞く魚谷さんはかつてのイメージと違う人のように感じる」

上村氏がとりわけ「根深い問題」と指摘するのは、昨年11月に起きた騒動だ。

11月10日、資生堂公式サイトに、ネット通販「ワタシ+」で、主力ブランド「SHISEIDO」の化粧水などのセットを希望小売価格の平均30%オフ(卸価格と同額)で販売するというお知らせが掲載された。しかも、セールのスタートは翌日の11日からだった。

化粧品専門店の多くは中小零細の個人事業主である。ただでさえ、ドラッグストアやスーパーの低価格路線に脅かされているというのに、メーカーである資生堂本社までもが、安売りに乗り出すとなれば、黙って見過ごすわけにはいかない。

複数の化粧品メーカーのブランドを扱っていても、専門店における資生堂のウエートは大きい。「対面形式によるカウンセリング販売」を基本とする資生堂の方針を忠実に守り、資生堂ブランドを本社とともに育ててきたという意識が強いのも専門店のオーナーたちである。

資生堂本社の窓口には抗議の電話が殺到した。専門店の経営者たちが「どういうことなのか」と回答を求めると、窓口の社員は「公式見解を出すまで、いま少しご猶予を」とオロオロするばかり。それもそのはず、異例のネット値引き販売は、魚谷社長と、外部から魚谷社長が引き抜いたごく一部の幹部やマネージャーたちが決めたことで、ほとんどの社員は事情をよく呑み込めていないのだ。

昨年11月、資生堂は最終220億円の赤字見通しを発表していた。しかし、本決算ではさらに下方修正される可能性があり、200億円近いコストを発生させないため、過剰在庫をマーケットで可能な限り処分する必要に迫られた。異例のバーゲンセールを魚谷社長が決断した主な理由はそれだ。

全国の専門店から湧き起るごうごうたる非難に、魚谷社長は「お詫び文」を出すとともに、11月30日でのセール打ち切りを約束した。「社内での協議が不足し、専門店への影響に配慮できなかった」という趣旨の文面だったが、短期の効率と数値を追う魚谷社長に対する不信は、資生堂が培ってきた販売精神を重んじる社員たちの間にざわざわと広がった。

日本コカコーラ時代に自分の会社を立ち上げ、当時の部下であった女性を、資生堂の人事部長に据えるなど、次々と幹部クラスやマネージャーを外部から招へいした魚谷体制は、もともと社員分断的な側面をはらんでいたのだが、この一件により社内の亀裂はより深まった。

このような状況下、おそらく、魚谷氏は藤森氏という強力な味方を必要としているのだろう。アメリカ仕込みという面で、米GEシニア・バイス・プレジデントまでつとめた藤森氏は魚谷氏の上を行く。2011年8月、LIXILの社長になり、就任時3%にすぎなかった海外売上高比率を、30%近くにまで高めた手腕はGE流の「選択と集中」と評価されたものである。

ところが、子会社にした中国企業ジョウユウの不正会計、破産で、660億円をこえる巨額の損失を抱え、社長を退任した。M&Aによる成長戦略を好む「プロ経営者」らしい躓きだった。

藤森氏はともかく、「プロ経営者」の多くは、外資系の日本法人のトップをつとめたというだけで、グローバル視点の経営術を身につけているかのごとく、思われている。

魚谷氏が「プロ経営者」と呼ばれる足がかりとなった日本コカ・コーラにしても、米国に本拠を置く「ザ コカ・コーラ カンパニー」の日本法人だ。

原田泳幸氏の場合もしかりで、アップル日本法人のトップから鳴り物入りでマクドナルドのCEOになった。一時は会社を立て直したかに見えたが、東日本大震災後の業績悪化を押しとどめることができず、ベネッセコーポレーションに移った。ベネッセでも個人情報流出事件に見舞われて決算が赤字に転落、社業回復の糸口を見いだせないまま同社を去っていた。栄光に挫折はつきものとはいえ、身につまされる。

米国系企業の日本法人は、米国の本社からみれば支店であり、彼らは支店長に過ぎない。米国流を少しかじっているだけで、中間管理職をいきなり日本の大会社の社長にするのだから、日本企業の人材不足もよほど深刻とみえる。

元通産官僚、一柳良雄氏が主宰する経営者養成の「一柳塾」をめぐる狭い人間関係が、「プロ経営者」派遣の装置になっている現実も、日本企業の人材発掘力を貧困にしている原因の一つでもあろう。

魚谷氏は「一柳塾」で講師仲間だった前田新造・資生堂前社長やアスクル創業者、岩田彰一郎氏の知遇を得て、資生堂への切符を手にした。2011年に日本コカ・コーラを退職、13年に資生堂顧問として迎えられ、その翌年には社長になっている。大企業の経営実績などない男が、いきなり天下の資生堂のトップに就く理由は、前田前社長らと仲良くなった、ただそれだけである。講師としていかに立派な経営論を弁じても、いわば絵空事にすぎない。

むしろ、外部からやってきて、伝統的な社風や販売ポリシーを全否定するかのような経営を進めた結果、プロパー社員や専門店オーナーの不信を招き、外から見るよりはるかに内部が傷んでいるのが現実ではないか。これを創業者の孫にあたる元会長の福原義春氏はどのようにとらえているであろうか。

経団連を見れば分かるように、この国の経営者が時代の変化についていけているとは思えない。しかし、アメリカ仕込みのプロ経営者なら課題を解決してくれるというのは幻想だ。株主価値重視とか何とか御託を並べ、とどのつまりは、中国の巨大マーケットとEコマース頼みで目先の利益を追うのがオチ。根本を練り直す長期戦略はあとまわしということになる。

おりから米アップル社が自動車生産に乗り出すという話題がマスメディアをにぎわしている。本社は工場を持たず、商品の設計やデザインに集中、部品製造や組み立ては海外のメーカーに依頼する「水平分業」が、iPhoneと同様、自動車でも進められることになるのだろう。トヨタが実験都市をつくろうとしているのは強い危機感のあらわれだ。

日本の大企業が、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、すなわちGAFAに太刀打ちできないのは、社員個々の力を引き出す仕組みになってないからではないか。会社のピラミッドのてっぺんだけがお仕着せの米国式マネジメントに置き換わっても、下部組織に自由闊達な気風がなく、若い社員のアイデアが生かせないようでは、社内からクリエイティブな人材が育つはずがない。

image by: BGStock72 / Shutterstock.com

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