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全ての仕事に当てはまる。元自衛隊教官の流儀「正早安楽」とは

生きていく上で重要な指針を与えてくれるのが「人生の師匠」という存在ですが、iU情報経営イノベーション専門職大学の教授を務められている久米信行さんの「スキーと人生の師匠」は、ユニークな経歴をお持ちの方のようです。久米さんは自身のメルマガ『久米信行ゼミ「オトナのための学び道楽」』に今回、そんな師匠の前職と類まれなるスキーの指導力を詳細に記すとともに、あらゆる仕事に通用する「正早安楽」の教えを紹介しています。

久保教官の教え。正早安楽に動く。そして生きる

みなさんには、何かのスポーツと人生とを同時に教わった師匠がいますか?

それも親子して生涯にわたって教えを授かる師匠がいますか?

先週末、志賀高原スキー場で、御年80歳の久保光俊(くぼ みつとし)教官による最後の特別講座、通称「クボゲリ最終期」に長男と参加してきました。

久保教官の驚くべきキャリア

なぜ久保先生ではなく教官と呼ばれているかというと、スキー教師になる前に、陸上自衛隊・北部方面隊・当期戦技教育隊で教官をされていたからです。加えて、なぜ講座名が「クボゲリ」かというと、教官が厳冬の北海道・ニセコをスキーで駆け巡り雪洞にこもって耐え抜いたり、白装束でヘリから降下して銃を連射するゲリラを育成していたからです。

自衛隊時代の久保教官の雄姿

久保教官のプロフィールを見ると、きっとみなさん驚かれるでしょう。

元・陸上自衛隊冬季戦技教育隊戦闘戦技教育室室長。1968年、レンジャー・遊撃の教育を受け首席で卒業。その後、冬季戦技教育隊の助教に抜擢され、経験を積んで教官となる。1994年、退官(3等陸佐)。この間、レンジャー、遊撃、スキーの指導者と手塩にかけて育てた学生は1,000人を超え、伝説の教官として今なお語り継がれている。

久保教官の自衛隊時代の経験や教えをまとめたビジネス書『リーダーのための自衛隊ゲリラ式ビジネス戦闘術』は、私にとって大切な経営バイブルのひとつです。想定を超える極限状態での戦闘は、まるで私たち中小企業の経営の様にも見えたからです。

■『リーダーのための自衛隊ゲリラ式ビジネス戦闘術

クボチビはスキー大好きキッズを育てる魔法

と言っても、私たちが「クボゲリ」で習うのは、もちろん銃ではなく、戦闘術 でもなく、スキーです。

今回は、22歳になる長男と一緒に参加しました。実は、息子たち二人こそ、久保教官の門下です。二人とも、まだ小学生になるかならないかの幼い時から「クボチビ」と呼ばれる特別講座で、久保教官に鍛えられたからです。

そのレッスンは独特です。よくあるように、先生が見本を見せて、ひとりずつ滑らせてという手取り足取りのレッスンではないのです。

カッコなどどうでもいいから、とにかく滑る滑る滑る。低学年も含む小学生たち10人ほどが、教官の後を一列になってすごいスピードでゲレンデを滑り降りる姿は圧巻です。誰もが目を見張り、度肝を抜かれるのです。何しろ、オトナもビビるようなコブだらけの急斜面にも、子どもたちは前を滑る仲間に負けじとぶつかりそうな勢いで飛び込んでいくのです。子供特有のライバル心も手伝って、スピードや斜面への恐怖もなんのその、気が付けば、どんな斜面でも滑れるようになってしまいました。

時には、ゲレンデ横の林に入り込み、ゲリラよろしく雪洞を掘っては、中に入って遊んだりもしたようです。それが、クボチビ流の休憩タイム。おそらく、子どもたちのはしゃぐ姿を見ながら、久保教官は自衛隊時代には決して見せなかったはずの笑顔を浮かべていたことでしょう。

そんな特別なレッスンを毎年受けているうちに、クボチビ門下の子供たちはみるみる上達していきます。

スキーには時間もお金もかかりますし、家族して教室に通うとなればなおさらです。わが家でも、スキーに行くのは年に1度、多くて2度。滑走日数は、せいぜい年に数日程度でした。それでも何年かするうちに、クボチビ門下生の多くはSIAジュニアのゴールドやセミゴールド検定に合格するまで上達したのです。

高校時代にはスキー民宿の辛い住み込みバイトをしながら、大学時代にはスキークラブでしごかれながら、やっとこさ上達した私から見ると、久保教官はまるで魔法使いのようにも思えるのです。

実は、久保教官と私は、もともと不思議な縁でつながっていました。教官が所属するスキー教室、スキーエストの前身ナイスクの一教室、湯ノ丸教室で、私は学生時代にインストラクターの見習いをしていたことがあったのです。教室が違うため、教官と面識はありませんでしたが、2泊3日や3泊4日の合宿制で、受講生がみるみる上達するのを体感していました。私もイントラ見習い研修を重ね、先輩から教えを受けながら、初めてスキーを履く生徒さんが、3日後にはリフトに乗り滑って降りられるまでレッスンをしていたのです。

そんな経験 もあったので、長男が5~6歳になった時、ちょっと悩んだのです。私ががんばれば、子供たちにスキーを教えることもできるかもしれない。その方が安上がりだし、子どもとのコミュニケーションにもなる。そんな早合点をして、最初は親子レッスンに挑戦いたしました。

しかし、それは間違いでした。マンガ『巨人の星』で息子をしごくスパルタ親父星一徹のようにイライラして怒鳴ってしまいがちなのです。あのまま、私がコーチを続けていたら、きっと息子たちは二人ともスキーを、さらには私を嫌いになっていたことでしょう。元来、親は思い入れが強すぎて、自分の子供をうまく教育できないように神様が創ったのではないでしょうか。

今思えば、なんと浅はかだった私。はやく、自分の限界に気づいてよかった。やっぱり、プロに任せようと、ジュニアのレッスンがある古巣ナイスクの門を叩き、ありがたいことに久保教官に出会った のです。

久保教官の滑りをクボチビたちはワンライン(一列)で追いかけます。

独自のレッスンで、子どもたちを瞬く間にスキー好きにしてしまう久保教官。とてもかないません。教官のおかげで、子どもたちは、仲間と楽しく滑りながら上達していったのです。

こうして、二十歳過ぎても、子供たちがスキーを続けてくれて、いい年した親の趣味につきあってくれるのですから、こんな幸せなことはありません。

今回、久保教官は、レッスン中に「私の目標は、家族みんなが滑れるようになって家族スキーが楽しめるようになること」とおっしゃっていました。まさにわが家では、そんな夢のようなことが実現したのです。なんと感謝すればよいでしょう。

クボゲリで親子がスキーに熱中して上達

久保教官に習ったのは、子どもたちだけではありません。私も鍛えられたのです。もともと、大学時代にSAJの1級を取得し、一応インストラクターの見習いまでしていた私は、もうスキーを習わなくてもよいかと思っていたのです。今考えれば、あんなにヘタクソだったのに、なんと不遜なことでしょう。

しかし、子どもたちがみるみる上達していくのを見て、私も再びスキーを究めたくなってきました。スキー教室の夜のミーティングでは、教官が撮ってくれた子供たちの滑りのビデオを一緒に見るのです。まず、子供たちの上達スピードに圧倒されて焦ってきます。ビデオを見ながら、教官は子どもたちにアドバイスをすると同時に、親たちにも解説をしてくれます。それが、わかりやすくて勉強になるのです。

ですから、スキーエストで子どもを教官に預けている親御さんの多くは、自分たちもレッスンに参加していました。そこでの私たちの滑りを、ひそかに教官も見てくれていたこともあり、こっそりレッスンの時間外に教えてくれたこともありました。また、今回のようにクボゲリに参加して、教官の後を遅れないように滑る機会もありました。

そんな時は、いつも教官の滑りに驚かされる のです。

80歳になっても力強い久保教官の滑り

60代、70代と年を重ねても、若々しい滑りは変わらず、まったく年齢を感じさせないのです。20歳以上も若い私がついていけないほど速いのですが、それでいて、余計な力がまったく入っていないように見えるのです

毎回、教官が制作してくれる滑りのビデオは我が家の宝物です。

それに比べて、教官がビデオ撮影してくれた私の滑りを見ますと、要らないところに要らない力が入って、無理、無駄、ムラのオンパレード。見ているだけで疲れてしまいます。いつになったら、教官の境地に達することができるやら。それでも、教官のちょっとした一言、二言で今回も滑りが変わったから不思議です。

久保教官「正早安楽」の教えはスキーから人生まで役立つ

変わったのは滑りだけではありません。

今回のクボゲリに参加するにあたって、もう一度、久保教官の著書『リーダーのための自衛隊ゲリラ式ビジネス戦闘術』を読み返してみました。

この本が出版された12年前に、いただいたサインとメッセージが、表紙をめくったところに書かれていました。

この「正早安楽(せいそうあんらく)」の意味が、今回、あらためて教官と一緒に滑って、やっとわかったような気がします。

この本から「正早安楽」の説明部分を引用してみましょう。

「正早安楽」は仕事をするうえで、常に問題意識をもって改善目標にするべき4つのポイントだ。

 

「正」は、正・誤の判定のことである。間違いが生ずると、トラブルや事故に見舞われる可能性がある。また、結果的に「正」であっても、偶然に恵まれている場合があるので、本当に正しかったのかどうか検証する必要がある。

 

「早」は、もっと早くできないかと、早さを追求することである。早くできない要因を改善する必要がある。

 

「安」は、費用対効果、リスク対効果を重視することで、もっと「安価」でできないかを追求することである。「お金がかかるからやらない」「危険があるからやらない」といった一面的で効果に目を向けない消極的な考え方が先行すると、改善できなくなる。

 

「楽」はもっとラクにできないかを追求することである。これは「楽」の中のラクではなく、苦しみの中にラク」を見出すことである。

これを久保教官流のスキーに当てはめるなら、

たとえ恐ろしい急斜面であっても

「正」理にかなった体の動かし方で
「早」素早いタイミングで次のターンに入り
「安」最小限の力を使いながら
「楽」急斜面でもラクに滑る

ということでしょう。

ターン前半から、誰よりも素早く谷側に重心移動して、次の外スキーに乗り込む教官の滑り

見るからに怖い急斜面では、ついつい恐怖心からスキー板や体を大きく回し過ぎるなど理不尽な動きをしてしまいます。しかもタイミングが遅れてしまいがちで、何もかも後手後手に回るのです。そのため、余計な力がいる上、あわてて余裕なく滑るので心まで疲れてしまうのです(それは私です)。

むしろ、怖くても谷側に自ら飛び込んで重心を移動し、ターン前半から中盤に少しだけ力を入れれば、スキーの板は勝手に回り、安楽に次のターンに入れるというから不思議です。もちろんスピードは出ますが、逆に安定して怖くなくなり、むしろ心の余裕ができてラクになるというのです。

だからこそ、久保教官は、80歳になっても、急斜面をスピードを落とさずラクそうに滑って疲れないのです。

教官の流儀「正早安楽」は、スキーだけではなく、どんな仕事にもあてはまりそうです。

たとえば、これからDX(デジタルトランスフォーメーション)革命到来という、誰もが目もくらむ急斜面の前に立たされるような状況で、待ったなしの新規事業や業務改革に挑むなら

「正」理にかなった企画・仕事のやり方で
「早」誰よりもはやく提案・着手することで
「安」コストもリスク負担も少なく
「楽」逆境でもラクに仕事ができ成果が得られる

のではないでしょうか?

きっと、これから人生100年時代を迎えても、いくつになっても「正早安楽」の精神で、予期せぬ新たな状況に「正」しく「早」く「安」く「楽」しく対応できる人は、久保教官のように生涯現役で楽しめる ことでしょう。

久保教官は人生100年時代のお手本

リフトで、教官と隣合わせになった時、こんな嬉しい一言 をいただきました。

「久米さん、あと20年はスキーを楽しめるよ」

80歳でも楽しそうに滑る久保教官を見ていると、還暦目前の私も、まだまだひよっこのような気分になるから 不思議です。

自分よりも20歳以上も年上で、カッコイイと憧れる師匠に恵まれたおかげで、くたびれかけたわが心のエンジンのトルクと馬力がよみがえってきました。滑りも考え方もちょっとアグレッシブになりました。ありがたいことです。

まだまだ教官と一緒に滑りたいので、おそるおそる「本当にやめてしまうのですか?」と尋ねました。おそらく、同じ質問を多くの教官ファンからされているはずです。

答えは「来年からは、リクエストに応じて、みんなで現地集合して滑るような同好会をやりたい」とのこと。

よかった。

またお会いできる。

また教えてもらえる。

教官に習って、いつか私も、たとえ引退すると宣言しても、教え子から続けてほしいと請われるような教師になろうと決意したのです。

image by: Shutterstock.com

久米信行この著者の記事一覧

1963年東京墨田区出身。87年慶応大経済卒。イマジニア新卒一期で飛込営業と株式投資ゲーム開発。88年日興證券でAI相続診断システム開発研修統括。91年家業の国産Tシャツメーカー久米繊維工業入社。94年三代目社長就任(現相談役)。97年日経インターネットアワード、05年経産省IT経営百選、09年東商勇気ある経営大賞等受賞。10年APEC中小企業サミット日本代表。20年開学の新大学iUでは起業家教育・地域創生担当教授。明治大、多摩大の授業や企業団体研修に即した25万部超の「すぐやる技術」シリーズ等著書15冊。内外情勢調査会等で毎年数千人に講師。東京商工会議所墨田支部副会長、墨田区観光協会理事、墨田区文化振興財団 評議員として地元振興。新日本フィルハーモニー交響楽団・NBS日本舞台芸術振興会・日本吟剣詩舞振興会 各評議員として文化芸術振興。

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