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【書評】刑事ドラマの小さな嘘。米国の警官が犯人に「武器を捨てろ」と警告しない訳

現実とかけ離れていると指摘されることが多い日本の刑事ドラマですが、その乖離具合はアメリカも同様のようです。今回の無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』で編集長の柴田忠男さんが取り上げているのは、米国の現役巡査部長がアメリカンポリスの現実を書き記した一冊。そこには我々が思いも寄らない数々の「リアル」が綴られていました。

偏屈BOOK案内:アダム・プランティンガ『アメリカンポリス400の真実!』

アメリカンポリス400の真実!
アダム・プランティンガ 著 加藤喬 訳/並木書房

サンフランシスコ市警の現役巡査部長が、13年目になる今日までの体験を語る。本を書いた動機は、ただ単に書くのが好きだということと、警官の仕事から得られる知識体系に魅了されたからだという。

警察のありのままを400件も描くが、いわゆる告発モノではない。警察を理想化するものでもない。実際、警察組織にはいくつもの欠点、偏見、手落ちがあり、それを追及するのもこの本の目的のひとつである。

警察業務は苛立たしいことが極めて多く、成功の喜びは微々たるものらしい。やり甲斐と苛酷さ、滑稽な状況と身のすくむ瞬間が交代で沸き起こるのが警官の仕事。興味津々の400件が明るいタッチで語られる。

警官にとって最悪の事態は、女性と一戦交えなければならないときだ。女性だからといって手加減すると、とんでもない目に遭う。彼女たちは目や急所も構わず攻撃してくるからで、騎士道精神はケガのもと。

警官が一般人にとって好奇心の対象であることはわかるが、たびたび聞かれる「人を撃ったことがあるか?には「ノー」の確率が高い。もし過去に引き金を引いていたとしたら……。

ほぼ間違いなく、PTSD(心的外傷後ストレス)の原因になり得る。映画の中ではヒーローが多数の敵を倒し、おもむろにタバコを吸うところだが。リアルでは強制的休職を余儀なくされ、心理カウンセリングも課される。

映画やテレビドラマの警官は、武装した犯人を前にすると、決まって「武器を捨てろ!」と警告する。プロの警官からすれば、そんな間抜けなことするな、と叫びたくなる。

あんなのみんなデタラメだ。犯人が3メートル先にいて、銃を持っている。こっちは隠れる場所もない。なにを待ってるんだ?さっさと撃て。撃つ方が先だ。撃ってから言ってやれ。「武器を捨てろ」にこだわるなら撃ってからにしろ。

至近距離で人を撃った場合、返り血や飛び散った細胞組織を全身に浴びる。その血には肝炎、エイズをはじめ血液感染する病気が伝染していないか一連の検査を受け、最終結果が出るまで数か月、ずっと恐怖と怒り、フラストレーションにさいなまれる。

「この期間、警察の仕事がこんな苦痛に見合うだけの価値があるかどうか誰しも自問する」のだそうだ。大統領を警護するシークレットサービスと一緒に仕事すると、法執行機関の序列の中で一介の警察官がいかにとるに足らない存在であるかを味わうことになる。現場警官は邪魔者に過ぎないのだ。

対狙撃チームの出番が本当に回ってきたら、警官はどう対応すべきか。シークレットサービス・エージェントが本物の親切心から警官に言った。「床に倒れ死んだふりをしていてください」。

独立記念日を祝うなんて言って、空に向けて銃を撃つバカがいる。弾丸はいずれ落下してくる。最終速度は秒速122mにもなり、人間の頭蓋骨を貫通するスピードだ。撃った本人にあたれば自業自得。それを「愚か者の自然淘汰」と呼ぶ警官もいる。

大都市で勤務する警官の離婚率は全米平均より際だって高い。8割に達するという推計もある。長時間にわたる激務、ストレス、休日出勤、怒りと敵意を生み出す不健康なライフスタイル、これらが破綻の理由だ。署内で配布される会報には、しばしば離婚弁護士の広告が掲載される。

「日本の警察400の真実!」なんて、だれか書いてくれんかね。20歳若返れたら、「犯罪社会学」ゼミ出身のわたしがやる。

編集長 柴田忠男

image by: Julian Leshay / Shutterstock.com

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