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池田教授が警戒。コロナ禍で家に引き篭もる高齢者に「要介護」の危険性

新型コロナウイルスの感染を警戒して外出を控え、親族や知り合いと直接会うことも控えるお年寄り。これによって心身の衰えが急激に進み、自立と要介護の中間とされる「フレイル」になる人が増えると心配されています。そうした事態を回避するには、一人でも適度に体を動かせる楽しみを見つけること。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、CX系「ホンマでっか!?TV」でおなじみの池田教授が、コロナ禍の高齢者の健康問題について綴り、自身にとっては野菜を育てる庭仕事が「フレイル」予防になっていると伝えています。

コロナ禍を乗り切る方途は庭仕事

老人は新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいということなので、家に籠っている人も多いと思う。感染しても症状が出ない不顕性の高齢者も2割程度はいるようなので、重症化する人と不顕性の人では何らかの遺伝的な違いやエピジェネティックな違いがあると思われるが、それが何であるかはよくわかっていない。リスクの多寡が分かれば、それなりに対処の仕方もあると思うが、今のところ、すべての高齢者は重症化するリスクが高いという前提で対応するほかないので、活動を制限せざるを得ない高齢者の中にはフレイルになる人も出てくるということだ。

フレイルとはFrailty(脆弱)の日本語訳で、高齢化社会にとって重要な概念であるとして、2014年に日本老年医学界が提唱したもので、自立と要介護の中間に位置する状態のことだ。生活の質によっては、自立に戻ることも可能だが、要介護になってしまうこともあるというクリティカルな状況のことだ。

重力に逆らって体を動かすことと、他人と会話をしたり一人であっても何らかの生産的なことを考えたりすることは、身心を健康に保つためになくてはならないことである。例えば、体力のある若い人でも重度の骨折をしてベッドで1か月ほど寝たきりになっていると筋力が低下する。宇宙飛行士のような鍛え上げた人でも無重力状態で長いこと暮らしていると、重力のある地球に帰って来た後は、暫くの間苦労する。ましてや体力のない老人であれば、余程頑張ってリハビリしないと寝たきりになりかねない。

そういうことが分かっているので、整形外科では骨折が治るまで待たずに、無理やりにでも動かすことを奨励しているところが多い。コロナ禍で、外出もしないで、家に籠っているとどうしても運動不足になり、そのうち歩くのがおっくうになり、さらに運動不足になって、ロコモティブシンドロームになり、フレイルに落ち込む人が出てくる。出かけなければならない用事があれば、いやでも動かざるを得ず、結果的にフレイルの予防になっているわけだ。

定年になって隠居を決め込んでいる人は、特段の出かける用事もないが、自治体がサービスでやっている体操教室とか、あるいは友達と楽しんでやっているゲートボールとか、散策クラブとか、その気になれば、体を動かす機会はいくらでもある。しかし、新型コロナの蔓延を恐れてこういったイベントは次々に中止になって、体を動かす機会はめっきり減った。もちろん自分一人で、フィットネスに励んだり、ランニングをしたりすることもできるのだが、普通の人は、気の置けない友達とたわいのないおしゃべりをしながら運動もするから続けられるのであって、一人で続けるのは根性がいる。

これは体の問題であるが、もっと大きな問題は、コロナ禍になって鬱の老人が増えてきたことだ。人が生きるのに最も重要なのは承認欲求だと私は思う。SNSに投稿して「いいね」が付くと嬉しいのは多少とも承認欲求が満たされるからである。知らない人から「いいね」と言われても嬉しいのだから、よく知っている人や敬愛している人から認められれば、これは大きな生きがいとなる。コロナで、会合も会食もままならないと、承認欲求が充分に満たされずに、文字通り欲求不満になる。電話や、ZOOMといったコミュニケーションのツールはあるが、対面で話をするのに比べれば、コミュニケーションの密度は落ちる。

例えば、ボランティアで地域活動のリーダー役をしていて、それが生きがいだった人が、コロナ禍で、集会はNGということになって、生きる楽しみが減ったという話は良く聞く。ボランティアは他人のためではなく実は自分の楽しみでやっていたのだということがよく分かる。だからいけないと言っているわけではないが。

コロナ禍の中でもフレイルにならない人は、自分一人で、楽しいことを見つけて、身心が衰えない程度の活動をしている人である。他人と一緒でも楽しいが、自分一人でも結構楽しめる趣味がある人は、他人の存在を当てにしている人より生き延びる力は強い。私事で恐縮だが、私は他人とあまり会わなくとも、一人で楽しめる趣味がいくつかあって、ある程度、体も頭も使うので、フレイルにならないで済むと思う。尤も未来のことはわからないので、偉そうなことは言わない方がいいんだけれどね。

新型コロナウイルスが流行り始めたころは、暇になって嬉しいとばかりに、毎日、溜まりに溜まった虫の標本を整理していた。これは基本的にデスクワークなので、体力はあまり使わない。但し、虫の名前を調べるのに日本語の文献ばかりでなく外国語(と言っても英語以外はほとんど読めないけどね)の文献にも目を通すので、頭も結構使うのだ。それとは別に、原稿書きもしなくちゃならないので、こっちのほうも多少は頭を使う。

半年ほど、毎日虫の整理ばかりしていたが、さすがに飽きると同時に体を動かさないものだから、体力が弱ってくるのが自分でもわかってきた。あまつさえ、秋の終わりごろから、膝痛が出て、2か月ばかり軽くびっこを引きながら歩いていた。これは困ったと思ったが、脚を冷やさないようにして、ダマシダマシ軽い運動をしているうちに治ってしまった。

医者には行かなかった。私の膝痛は病気というより老化なので、医者に行ってもお金と時間の無駄なのだ。これは前の膝痛で経験済みだ。自分で治す方が早い。どうやって治すかって?それは自分で考えてくれ。えっ、金払ってメルマガ読んでいるんだから少しは教えろって。貴方には役に立たないかもしれませんが、私的には、なるべく痛くないようにできるだけたくさん動かすことに尽きますね。

膝痛が出たのは、全く動かないで、虫の標本ばかり作っていた祟りかもしれないと思って、もう少し体を動かして、かつ面白い遊びはないかとつらつら考えた。そこで、思いついたのが庭仕事である。夏に、キュウリとナスとミニトマトを作っていた(半ばほったらかしであまり生らなかった)庭の一角の畑の雑草を抜いて耕して、新しい土と肥料と苦土石灰を入れて、畝を作ってコマツナとホウレンソウとカラシナの種をまいた。暫くすると、新芽が出てきて、時々間引きをしていた。自作のスプラウトである。間引くのも結構な運動になる。自分で作ったスプラウトはスーパーで買うのより心なしか美味しい気がする。

冬に作る野菜のいいところは害虫がほとんどつかないことだ。私は殺虫剤を撒かないので、夏の作物は害虫の餌になってしまう。自宅で作る冬野菜は完全無農薬で、虫食いの痕もない。今はほぼ全部収穫して、取り残したコマツナが菜の花を咲かせている。もう少ししたらこれも全部引き抜いて、新しく土を入れて、畝を作り今度は何を作ろうか思案中である。培養土を買ったり、肥料を買ったりして作るより、スーパーで買ってきた方が安くつくことは間違いないが、体を動かすためにやっていると思えば、ジムに行くより安い。それで、フレイルになるのを防げれば言うことなしだ。

image by: Shutterstock.com

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