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日本にとって最悪のシナリオ。中国経済をどん底に叩き落とす「民主化」の罠

米中の外交問題が長年くすぶる中、米国はトランプ氏からジョー・バイデン氏へと大統領が交代したことで、今後の先行きはさらに不透明になりました。中国は、このまま強大な軍事力を持ちながら、経済的にも米国を脅かすほどの発展を遂げていくのでしょうか? 今回のメルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』では米国在住作家の冷泉彰彦さんが、中国経済の未来として想定される「3つのシナリオ」を考察しながら、日本にとっての最悪パターンを紹介し、警戒を促しています。

中国の経済社会は、ソフトランディング可能なのか?

「日米2+2」「日韓2+2」に続いて3月17~18日に行われた、米中外交トップ会談に関しては、冒頭に激しい応酬のパフォーマンスがあったものの、その後、メディアをシャットアウトして後は、延々と懸案事項について意見交換がされたそうです。

まあ、しっかりと相違点を確認するということであれば、十分に意味があるという評価は可能です。また、米中は「厳しい関係からスタートした方が上手くいく(クリントン、ブッシュなど)」のであって、「最初から関係が良好だと(オバマ、トランプ)後で関係が悪化する」という「法則」を考えれば、悪い動きではないなどの見方もあります。

その一方で、2021年の現在においては、米中関係というのはそう簡単には行かないというのが、アメリカの外交コミュニティの中での合意事項だという話もあります。つまり、90年代以降の「米中蜜月」的な関係とは、環境が異なるし、そんな良好な関係にはもう戻れないという、悲観論で引っ張るという考え方です。

代表的なものは、その直後にバイデン政権の「インド太平洋調整官」に就任したカート・キャンベル氏が1月上旬に雑誌『フォーリン・アフェアーズ』に発表した「アメリカはどうやって新アジア秩序に貢献するか(バランスと正当性を再建する戦略)」という論文です。

 キャンベル氏の考え方は4点に集約できます。

  1. トランプ時代に米中の軍事バランスは崩れたので再建する。
  2. トランプ時代には米国側として自由、民主、人権の正当で押す姿勢が崩れたので、これも再建する。
  3. 問題は米中の経済関係が相互の利害になっていることだが、これは仕方がない。
  4. もう1つの問題は中国が専横的になっていることだが、これも変えようがない。

ということで、とにかく経済関係については、先端技術などで安全保障の脅威にならない限りは「ウィン・ウィン関係」を目指すし、「新X論文」のように習近平が悪いとか、トランプ(ペンス)のように共産党が悪いとも言わない、つまり相手は今の相手として、徹底的に原則論とバランス確保をやるというストーリーです。

このストーリーについては、バイデンのアメリカは相当に強く覚悟して決めているようです。今回の「2+2」でもそうですし、アラスカでの「丁々発止」で見られたブリンケン国務長官の姿勢にもそれは明らかです。

では、このバイデン対中外交は機能するのでしょうか?

短期的には機能するでしょう。先端技術における特にハード面でのアメリカの優位性喪失とか、習近平への劇場型権力集中体制など、色々な難しさはあるものの、当面は「経済のウィン・ウィン関係」というのは成立するだろうし、「価値観における舌戦」も過去ずっとやってきた演目だからです。軍事バランスも最後にはお互いがコストダウンのために軍縮テーブルにつくまで、とりあえず発火させずにバランスを取ることは不可能ではないと考えられるからです。

問題は中長期です。

その先の中国がどう振る舞って行くのか、特に2025年以降、2050年までといった時間軸を考えた場合に3つのシナリオを想定しておく必要があると思います。

1つ目は、このまま経済、技術、軍事の各方面で中国が成長を続け、堂々たる先進国となり、人民元が基軸通貨になり、小米や華為などのOSを搭載したスマホ(またはその代替のウェアラブルとか人体埋め込みとか)が世界を席巻し、中国式の社会統制で環境や感染症のコントロールを世界規模で実施するところまで、中国が成長するというシナリオです。

私はその可能性はほとんどゼロであると考えています。政治も、企業も、そして軍隊もそうですが、規模が大きくなると強い理念で統御していないと、大規模化した権力はかならず腐敗します。公私混同が起こり、それが見逃されると現場の士気は下がり、やがて組織には「ほころび」が生まれて、全体がゆっくり崩壊に向かうということがまず起きるでしょう。

また、政治を上位にして、経済の方はある点を越えた(例えばアリババ)規模となって、政治にとって脅威となるようだと処分されるとなれば、当然、そのような規模に接近した企業は、政府との癒着を図るか、あるいは国外に脱出を図ることになります。安定的に成長を続けることはできないでしょう。

何よりも、世界を支配するまでの巨大な経済、先進的な技術、効果的な軍事力を実現するには、様々な「問題解決」を積み重ねて行く必要があります。そこで、中国のような「大きすぎる組織、弱すぎる理念、本音むき出しの政治闘争」という風土をそのままに進むと、結局のところは「個別の問題解決にあたって最適解が出ない」ということが繰り返されます。

コロナの初動で隠蔽が行われたというのは良い例で、隠蔽した勢力が悪いのではありません。そうではなくて、一番上は「最善手」を望んでいても、よほど気をつけていないと、2番目以下は「耳の痛い情報をスムーズに通す」ことができないために、結局組織全体は遠回りをする、その繰り返しになります。そうしたシステムでは世界支配などできるわけがありません。

もう少し別の角度から考えると、例えば中国発のGAFAが世界を仕切って行くには、相当に高度な知的能力のある企画レベルのエンジニア、そしてプログラムの書けるエグゼクティブレベルの集団などが活性化していないと不可能です。ですが、その集団が、結局のところ為政者の批判は許されないとか、それもトップ自身は良くても、ナンバーツー以下は無能で、しかも無能なくせに絶対服従を要求してくるような環境では、思い切り能力を発揮できる環境にはならないと思われます。

そもそも、モノではなく、ソフトと信用が重要になってくる21世紀においては、結局、世界的に通用するビジネスは英語になるわけで、中国も勝って行くためには、事実上公用語は英語にシフトする必要があります。ですが、そうなると、やはり自由とか民主主義のカルチャーも流入してしまうわけで、寡頭政治の維持は難しくなるでしょう。

2番目は、反対にどこかで国家が崩壊して、ソフトランディングではなく、ハードランディングになるというシナリオです。こちらは可能性としてはあります。怖い話ですが、可能性としてはあるので、一つ一つの可能性を潰して行くということになります。

例えば、内政が行き詰まった場合に、国民の目を「逸らせる」ために、東シナ海、南シナ海、カシミール、沿海州などで非常にアグレッシブな行動を取ってくる、その可能性は数年というスパンでは低くても、5年とか10年のレンジでは十分にあると思わなくてはなりません。

一方で、国内における分裂の動きも、平和裏に行われれば「統治しやすいサイズの国家に分断」された方が、住民も為政者も楽かとも思いますが、平和的に「三国鼎立へ向かう」とか「各自治区が独自性を強化」というのは非常に難しいと思います。仮に分裂の動きが出れば内戦となる可能性があり、そうなれば東アジア全体の経済と社会が大きな影響を受けます。

例えばですが、宇宙開発とか軍拡、あるいは一帯一路などに「リータンのない消費」を続けた結果、旧ソ連のように連邦政府が自壊というのも、ちょっと難しいように思われます。ソ連と比べると、食糧自給率がまだあるので、そう簡単には国家破産にはならないからです。

例えばですが、急速な民主化に走って、準備不足のままに複数政党制や公選制を実施した場合には、右派ポピュリズムの政党が国を支配して、例えばプーチンのロシア、ペロニスタのアルゼンチン、エジプトの同胞団政権などのように、全く最善手ではない結果がでて、ほぼハードランディングになっていく可能性もあります。日本にとっては、もしかすると最悪シナリオかもしれません。

というわけで、事実上はこの第1のシナリオと、第2のシナリオの中間で行くことになるのだと思います。第3のシナリオということでは、ある意味でズブズブでグタグタなシナリオなのですが、これしかありません。

  1. 規模が大きすぎて100%の民主化は無理。だが、成熟した主要都市では政治の公開性を高めないと秩序は保てないので、情報統制の範囲は徐々に緩める方向。
  2. 米中、日中の経済的な国際分業は今後も継続。
  3. 軍事冒険主義は、どこかでコストがオーバーとなって、相互に軍縮を望む時点が来る。そこを早めに持ってくるかが焦点。それまでは、現状の国境線、航行の自由をどう死守してゆくかがポイント。
  4. 結局は日本と同じように、中進国である間は成長できるが、本物の先進国に入ろうとすると、自分の文化や文明を変えられないことで挫折するということになる可能性が大きい。

そう考えると、改めてバイデン政権の中国外交というのは、非常に重要な問題であることが分かります。「中国の覇権完成」でもなく、また「中国崩壊」でもない、その中間のあるゾーンを、お互いにバランスを取りながら進ませるということで、結局はキャンベル論文のようなアプローチが出てくるのは、一定の必然ということになります。

この後、4月中旬には菅総理が訪米して日米首脳会談も行われる予定です。米中を考え、その上での日米、日中の関係に注視して行かねばならないと思います。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より一部抜粋)

image by: Naresh777 / Shutterstock.com

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東京都生まれ。東京大学文学部卒業、コロンビア大学大学院卒。1993年より米国在住。メールマガジンJMM(村上龍編集長)に「FROM911、USAレポート」を寄稿。米国と日本を行き来する冷泉さんだからこその鋭い記事が人気のメルマガは第1~第4火曜日配信。

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