米国流を取り違え。東芝の買収失敗で剥がれた「プロ経営者」のメッキ

 

この件を調べていたある関係筋が、資生堂社外取締役の経歴を見ているうちに、藤森氏がCVCの最高顧問でもあることに気づいたのだ。「利益相反ではないか」「売却の裏で藤森氏が暗躍しているのではないか」。そんな疑念を抱いたのは当然のことだ。

資生堂のサイトに掲載されている経歴を見ると、藤森氏は現在、資生堂、東芝をはじめ武田薬品やボストン・サイエンティフィック、日本オラクルでも社外取締役をつとめている。CVC最高顧問であることも記されている。

筆者は、その関係筋からの情報をもとに、さらに調べを進め、藤森氏の「利益相反」などについて問題提起する記事を書いた。

藤森氏、あろうことか、CVCキャピタル・パートナーズ日本法人の最高顧問なのである。そんな人物が相変わらず社外取締役として入る。「利益相反」ではないのか。しかも藤森氏は次期社長候補とも観測されているのだ。2024年まで任期を延ばした魚谷社長が、魚谷・藤森の長期支配体制を固めようとしているように見える。

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このメルマガ記事を契機にして、大手の日刊紙、経済誌などでも、資生堂の事業売却をめぐる藤森氏の介在が取りざたされるようになった。

そんなところに起きたのが、東芝の買収騒動だった。CVCの買収提案を呼び込んだのは元CVC会長である東芝社長と、現CVC最高顧問である東芝社外取締役。まさに自作自演の買収劇だ。資生堂の事業売却とからめ、両社の黒幕として藤森氏に焦点を当てる報道がこのところ目立っている。

さて、東芝の車谷社長と藤森氏がなぜCVCに買収を持ちかけたのか。背景にあったのは、いわゆるアクティビスト(物言う株主)との対立である。

その一つが、筆頭株主のエフィッシモ・キャピタル・マネジメント。「村上ファンド」を源流とするシンガポールの投資ファンドだ。「2020年株主総会が公正に開かれたかどうか調査せよ」という株主提案を3月18日の臨時株主総会で通し、車谷社長を追い詰めていた。

事態打開をはかるため、車谷社長と藤森氏は、CVCの赤池社長に東芝の買収と株式非公開化を検討するよう要請した。CVCの社長、元会長、最高顧問である三者が、東芝の命運を左右する密議をこらしたのである。この買収が成功すれば、アクティビストを締め出せる。ただそれだけの目的で、日本有数の企業を金融資本に売り渡そうとしたのだ。

たしかに東芝は米ウェスティングハウスを買収し、海外で原発建設を進めて巨額損失を出し、その穴埋めに6,000億円の増資を行った。引き受けた多くの株主のなかにはアクティビストが含まれるのも仕方がない。

しかし、車谷社長にアクティビストとうまく対話する器量がなかったのは致命的だった。その能力に疑問を抱いた永山議長ら取締役会メンバーは4月6日、車谷社長に辞任を勧告した。日経新聞にCVCの東芝買収提案を報じる記事が掲載されたのはその翌日のことだ。焦った車谷氏らが既成事実化をはかるためのリークとみられているが、かえって買収話の発覚で墓穴を掘り、永山議長らによって追放される羽目になった。

三井住友フィナンシャルグループ副社長から東芝社長に転じたほどの超エリートにしては、はなはだお粗末な顛末といえよう。社内ではとかく「上から目線」の言動が目立っていたらしく、エリート金融マンの限界を、はしなくも露呈したかたちだ。

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