米中のデカップリングが進んでいるとされていますが、段階は次のステージへと移りつつあるようです。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者で日本国際戦略問題研究所長の津田慶治さんが、習近平国家主席が自国経済を市場経済から完全な共産党統制経済へ移行させることを決意したとして、その狙いを分析し解説。さらに中国の置かれた立場と習近平国家主席の行く末を、世界的戦略家の著書内容を引く形で詳細に記しています。
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中国経済の落とし穴
中国の市場経済社会主義から、非市場主義への転換で世界の経済状況が大きな変化をきたすことになる。その検討。
7月第5週は、中国の教育・IT企業への締め付けが明確化して、それへの懸念から米国の株価は下落したが、米国金利が低水準になり、FOMCも何事もなく通過し、4-6月期決算で企業業績は上昇で、5,500億ドル規模のインフラ投資の法案も通ることになり、株価は上昇で過去最高を更新した。
そして、現時点でFOMCは利上げができない。それは米国財務省、企業、家庭ともに膨大な債務があり、利上げすると、破綻になるからである。
しかし、住宅価格の上昇などインフレがひどくなり、米セントルイス連銀のブラード総裁はテーパリングを今秋開始することを要求しているが、FRBパウエル議長は、8月26日から始まるジャクソンホールで、今後の政策を話すとした。また、次期FRB議長との噂のブレイナード理事は、テーパリング開始基準を満たすには一段の雇用改善必要と述べている。これは、FOMCでの議論が紛糾している可能性がある。
それでも、米国株3指数ともに、最高水準にある。米国金利が低下したのは、資金が株2対債券1の割合で買われているためであり、金融機関の資金運用難が続いている。しかし、リスクオフになると、株も債券も売られることになる。
その上に、米国での懸念に人口増加が止まったことも加わるようである。
そして、バイデン大統領は、中間選挙に向けて、失業率を下げる必要があるが、まだ、失業率が高い状態が続いている。このため、子供養育支援金を配り、支持率を上げたいようである。
一方、SECが中国企業の上場審査を厳格にするとした。米中対立で、米国市場への中国企業の上場ができなくなる方向になり、中国市場への海外からの投資開放が必要になっている。
しかし、中国は経済システムを市場経済から非市場経済にシフトするようであり、海外投資家は、恐ろしいので投資できない事態になっている。
今後、日本企業の4-6月の業績発表が8月に出てくるので、その業績を見て日本の株価は動くことになる。特に注意が必要なのが、中国ビジネスの割合が大きな企業の業績見通しであろう。
中国とのビジネスでは、共産党の指示が出ると、上場廃止もあり、安定的な企業経営ができなくなるリスクが認識された。この影響を中国に進出している企業は受けることになる。
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中国の経済システム変更
トウ小平は、「韜光養晦」と言い、爪を隠し、才能を覆い隠し、時期を待つ戦略ということで中国を強国にして、それから米国と戦うとしたが、その時期が来たと習近平国家主席は判断したようである。
資本的な経済システムから新しい社会主義の形を作ろうとしている。その基盤は大多数を占める貧困層の要求に即した国の形を作り、それを共産党がコントロールすることだとした。この考え方自体は、毛沢東と同じであり、習近平は今の体制・秩序を毛沢東時代の中国共産党国家体制に戻すことを狙っている。
このため、集団指導体制から独裁体制にして、経済的な理由から反対する江沢民一派などの不満分子を徹底排除して進める必要になっているようである。
毛沢東の思想を現実的な形にしたのは習近平であると歴史に刻みたいのであろう。
このため、市場経済から完全な共産党統制経済にして、習近平に盾突く人たちを取り締まる方向で対応するようである。
もう1つ、現時点、人口減少であり、人口を増やす必要があるが、教育費が高騰していて、子供を生まないような雰囲気であり、そのため、教育費を下げる必要になっている。
教育費で一番お金がかかっているのが、塾や学習教材などであり、その費用の低減化のために、塾や教育資材の企業を非上場にして、かつ、政府の指示を徹底して低価格にさせるようである。当然、企業は、黒字化が難しくなる。
IT企業が、政府の指示を無視して米国市場へ上場するのも、取り締まる。人民元のデジタル化のために、仮想通貨を取引するIT企業を取り締まり、またIT企業には中国や他国のデータが集まり、それを米国に見られるのを恐れているようである。
このような中国共産党の意向で、企業経営に介入することで、企業利益が減少すると、上海総合指数も香港ハンセン指数も大幅な下落になり、人民元も下げた。その分、仮想通貨が上昇した。
下落が大きかったのは、教育株、ヘルスケア株であり、その他では中国の不動産開発大手の中国恒大集団の危機が深刻化で不動産株も下げた。
この下落でアルケゴスのようなファンドの破綻も心配されたが、次の日に国家ファンドが買い上げて、株価を上げた。
逆に米国は、米国内への中国企業の参入で、米国のデータが中国に取られるのを警戒している。中国企業の経営状況も水増しなど、多くの問題点があり、米国市場から中国企業を追い出し初めている。
というように、デカップリングの次の段階にきて、中国が市場経済とは違う経済システムになり、普通の意味での株式市場を有した資本主義とは違う経済システムになったようである。
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エドワード・ルトワックの『ラストエンペラー習近平』(文春新書)によると、中国が強国になればなるほど、弱くなっているという。
戦狼外交で、中国は同盟国をなくして、孤立化しているが、それは武器の数等で戦術的に強国になったかもしれないが、戦略的な意味では、弱国になってしまったことになるという。
インドの空軍機は、ロシア製戦闘機であり、キルジスに空軍基地がある。ロシアの支援がないとそのようなことはできない。これにより、ロシアは中国の真の同盟国ではないことがわかると。
中国は相手の反応(リアクション)を考えていない。特に南シナ海での強硬な対応で、弱小な周辺国は米欧日の陣営に追いやり、国内の少数民族を迫害して、国際社会から批判を受けている。
ASEANでもラオスとカンボジアしか同盟国がない。ミャンマーはロシアに支援を求めている。中国寄りの弱小国は数が少ない。
もう1つが、中国は、今までの兵器基準で軍備を整えているが、戦場の主役は交代している。特にAIとドローンであるが、この兵器より、進んだ兵器が出てくる可能性もある。その対応ができるかどうかだ。
中国は、空母を4隻も持つ予定であるが、太平洋に出ないと意味がない。この空母の補給のために、同盟国の港を確保する必要があり、そのために太平洋の諸島国に援助を行っている。しかし、覇権を求めないという言葉と矛盾することになる。
このようなことで、中国の習近平主席は、中国共産党の最後の皇帝であると論評のようだ。もし、詳しく知りたいなら、この本を買い求めてほしい。
そして、中国がどこに向かうのか、気になるところでもある。
さあ、どうなりますか?
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