アフガン首都は陥落寸前。それでも米国がタリバン勢力を殲滅せぬ無責任

 

ロシアについては、アフガニスタンが位置する中央アジアは地政学的に自国の勢力圏であるという意識が強く、プーチン大統領の下で再興を期する大ロシア帝国にとってとても大事な地域との位置づけがなされており、アフガニスタンはその核になる国との認識だと聞きました。アメリカが確実にアフガニスタンから撤退することが分かった今、ロシアは自らの勢力圏にアフガニスタンを含む“スタン系の国々”を組み込むという構想を本格化する見込みです。

ゆえに、すでに触れたとおり、タリバン勢力が勢いを増す中、中国と組んでタリバンに肩入れし、その支配地域拡大を容認しているようです。もちろん、絶対条件として【ロシアに刃を向けるな】というものを課していますが。

では、スタン系の皆さんはどうでしょうか。いまでも独裁政権が多い中、その後ろ盾になっているのはロシアですが、ここ数年、中国勢の進出も目まぐるしく、ロシアと中国の微妙なテンションを感じつつも、これまで以上に国家資本主義陣営の中核メンバー入りに傾いているようです。スタン系の国々の中にもアメリカや欧州諸国への傾倒を示す動きがありましたが、先月開催されたアフガニスタン支援のための中央アジア・南アジア会議(@ウズベキスタン)や中ロが主催する上海会議などの結束の再強化を受け、中ロ側の仲間に戻り、その結束を強めています。

これらの会議に参加し、アフガニスタンの未来を語ったのは現政権のガニ大統領ですが、スタン系の国々にとっても、実際にはアフガニスタンの統治者は誰でもよく、大事なことはアフガニスタンの情勢の安定と治安維持によって、麻薬の自国への流入と過激派組織の自国への流入を食い止めることという共通の目的が存在します。

中ロと同じく、アフガニスタンでのタリバン勢力の復興の様子を見て、表立っては支持の声を出しませんが、タリバンの侵攻を容認する選択をしているように見受けられます。それは同時に、アフガニスタンの混乱がもたらす難民の流入を食い止めるという目的にもかなうとの理解です。

アフガニスタン難民問題については、私は、タリバン支配が戻ったら、かつての悪夢を思い出したアフガニスタン人が難民として周辺国に押し寄せるのではないかと懸念していますし、その懸念は周辺国にもシェアされているように感じますが、今はアメリカがいなくなったアフガニスタンの安定を確保し、そのうえで一大勢力圏を形成することに重点が置かれているように感じられます。そのうえで一つの共同体となった中央アジアと南アジアが、“難民”をグループとして受け入れできるかどうかが焦点となるでしょう。

もしすでに中ロとスタン系がタリバン支配を容認していて、一大勢力圏を形成することをにらんでいるなら、アフガニスタンと中央アジアは、中ロに代表されるレッドチーム(国家資本主義経済圏および共産・社会主義圏)になるということを意味します。

その可能性を理解したうえで、アメリカのバイデン政権は今月末の全面撤退を実行するのでしょうか?そして、タリバンにお墨付きを暗に与えることにするのでしょうか?それも「アメリカにちょっかいをかけるな」というアメリカファーストな思惑で。

もしそうだとしたら、個人的には、バイデン大統領が選挙戦でさんざん批判したトランプ政権のAmerica Firstと変わらないどころか、より露骨な自国中心主義外交に思えるのですが、どうでしょうか。

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