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アパレルも「デジタル化」の時代。小売店の役割は物販から“体験”へ

ファッションのトレンドの発信源はSNSやウエブメディアに移り、有名ファッション誌の休刊も相次ぐなど、アパレル業界を取り巻く環境は大きく変わっています。この時代にあって、製造から宣伝、販売までアパレルトータルでのデジタルトランスフォーメーション(DX)がどうあるべきか考察するのは、メルマガ『j-fashion journal』著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さん。業界にとって永遠の課題とも思われた在庫問題の解消の道筋や、小売店や販売員のあり方の変化について論じ、大きな可能性を見い出しています。

アパレルDXについて考える

1.クラウド上で仕入れ、販売する

アパレルビジネスはデジタル化によって、どのように変容していくのか。もし、しがらみも既得権も考慮せずに、理想的なビジネスモデルを考えるとしたら、何ができるのか。それについて考えたい。

アパレルビジネスとは、生地や付属等の原材料を仕入れ、アパレル製品に加工し、それを販売するビジネスである。製造卸、あるいは製造小売り。現在は、ブランド企画製造小売とでも言おうか。現在は、グローバルSPAがアパレル産業の主力となっている。自社ブランドを開発し、商品を企画し、直接工場から商品を調達して、世界中の店舗で販売している。

アパレルビジネスは柔軟である。グローバルな大企業から個人まで、様々な規模でビジネスを展開することが可能だ。例えば、縫製工場でも、小売店でも、テキスタイルメーカーでも、アパレルビジネスをコントロールすることはできる。もちろん、個人でも可能だ。誰がリスクテイクして、ビジネスをコントロールするかの制約はない。

もし、生地や付属のデータベースがクラウド上に存在し、それを1着分単位で仕入れることができたら、縫製工場は無駄な在庫を持たずに、一着ずつ生産することができる。同様に、アパレル製品がクラウド上に登録され、自由に小売店が仕入れることができれば、無駄な製品在庫を防ぐことができる。更に、顧客が直接購入すれば、店頭在庫の無駄がなくなる。予約販売のように一定のリードタイムが確保できれば、更に無駄を減らすことができるだろう。

2.クラウド上にパターンデータを公開する

クラウド上には様々なデータが公開されている。3Dプリンターが普及したのも、クラウド上に3Dデータが公開されていたからだろう。画像データ、音楽データ等、様々なデータがクラウド上で公開され、無償あるいは有償で提供されている。

アパレルCADがあるのだから、アパレルのパターンデータもクラウドにありそうなものだが、現段階ではほとんど存在しない。そもそもアパレルのパターンはアパレル企業のノウハウの結晶であり、それを公開することはあり得ないのだ。したがって、欧米等ではパターンを外注することもほとんどない。

しかし、日本にはアパレルCADを使ったパターンメーキング、グレーディング業務を行う企業が存在する。と言っても、パターンメーキングはクライアントからの受注業務であり、所有権を持っているわけではない。したがって、クラウド上に公開できるオリジナルのパターンも存在しなかったのだ。

そこで、私が「トレンド情報に基づくオリジナルパターンの作成と販売」を提案し、現在ではネット上で販売するようになった。まだまだ普及していないが、パターンが入手できるならば、縫製工場は生地を選ぶだけでアパレル製品を作れることになる。

こうなるとデザイナーの業務内容も変わってくるだろう。ブランドを維持するためのテーマ設定、そして、テキスタイルや付属の選択、パターンと生地とのマッチングが重要になる。これまでのデザイナーはスタイル画を描くのが仕事だと思われてきたが、今後は市場予測、ブランド価値を維持するためのテーマ設定やイメージ戦略等が求められるようになるだろう。

3.展示会DXを考える

これまでのアパレルのコレクションや展示会はB2Bだった。アパレル企業が、プレスと小売店のバイヤーに見せるための展示会だ。顧客はブランドの情報を雑誌等から入手し、商品は小売店の店頭から入手した。しかし、ファッション情報は、雑誌よりもインスタグラム等のSNSで入手する顧客が増えている。

そうなると、むしろインフルエンサーを招待し、自分で服を選んでもらい、プロのスタイリスト、ヘア&メイクアーティスト、フォトグラファー等でチームを作り、インフルエンサーをモデルにした1枚の写真を作るイベントを展示会と考えた方が良いのかもしれない。そのメーキング動画を配信するのも面白いし、そこでできた写真をアート作品として販売してもいい。その写真をネット上に上げ、そこから商品購入してもらったら、インフルエンサーに報酬を支払うことにすれば、インフルエンサーの新しいビジネスモデルになる。

そして、B2B、B2Cという区別も必要ないのかもしれない。というより、商品を届けるだけならB2Cでいいし、小売店を通すなら、それで付加価値が上がるか、顧客満足が上がるかが問われるのだ。

これまでの展示会は完成した商品を販売することが目的だった。しかし、商品の販売だけならネットで完結する。わざわざ人を集めて、商品を紹介するならば、それを着用してもらうことが重要だと思うのだ。つまり、リアルな展示会は商品の着用イベントとなり、販売はネット上の展示会というように分ければ良い。

ネット上の展示会であれば、完成品だけを展示するのではなく、デザイン画、1次サンプル、2次サンプル等をアップし、そこでの議論も公開してしまう。それで、顧客からの意見も募集する。これができれば、人気のない商品はボツにできるし、人気のある商品は予約注文を取ることもできるだろう。

情報公開は一般公開でもいいし、ある程度の制限を加えてもいい。例えば、年齢別に顧客の意見を聞いていくのも面白いし、サイズ別の顧客の意見を聞いても良いのではないか。クラウドファンディング型のオンライン展示会があってもいい。生産ロットに達したら生産開始となるのだ。

4.ファッション体験DX

店頭販売とネット販売の違いとは何だろう。そして、DXにより、小売店はどのように変容していくのだろう。商品を購入するだけならネットで十分だ。もちろん、ネットでは素材の感触を確認したり、試着して着心地をチェックすることはできないが、写真で想像することはできる。動画ならシワを確認できるので、尚、分かりやすい。

アパレル製品を着用して、SNSに上げて、「いいね!」をもらう。多くの人は、それを目的としているのではないか。もし、そうならば、小売店は良い写真が撮れるスタジオになるべきだ。そして、販売員はスタイリスト、ヘア&メイク等を担当する。あるいは、インフルエンサーになることが求められているだろう。そうなれば、接客はしなくてもいい。商品が欲しければ、店頭に端末をおいて、そこから注文してもらえばいい。

店頭では、顧客参加型の撮影イベントを行う。それが仕事になる。その体験が楽しければ、わざわざ店まで出かける意義がある。あるいは、小売店では小売店限定モデルを販売する。あるいは、オーダーメイドでも良い。いずれにしても、ネットではできないサービスを行うことだ。そうなると、店の立地、面積、サービス内容も変わってくるだろう。商品を並べるのではなく、写真の背景となるようなショップ。カフェやメイクスタジオを併設するのも良いだろう。小売店の役割は物販から体験へと移行していくのである。

編集後記「締めの都々逸」

「誰も変化を 望んじゃいない それでも主役は 入れ代わる」

DXって言っても、いろいろな次元があると思います。便利なアプリを使えば、DXなのか。それとも、ビジネスモデルそのものが変容するのがDXなのか。多分、既得権のある企業は変容できないと思います。変容できるのは、起業家だけかもしれません。

常に起業家精神を持ちたいと思っていますが、そうなると経済的に安定しないんですよね。それでも、成長の可能性はないけど安全な道と、可能性はあるけど全く先が読めない道があるとしたら、後者を選びたい。進んでリスクを取るような人生を送りたいと考えています。家族には申し訳ないんですが。(坂口昌章)

image by: Shutterstock.com

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