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中国&イタリアとの差別化を図れ。日本製の靴は世界でまだまだ売れる

素材も技術も決して世界に引けを取らないと言われながら、海外でのシェアをなかなか伸ばせないでいる国内革靴業界。問題の根本はどこにあるのでしょうか。今回のメルマガ『j-fashion journal』ではファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんが、アパレルとの比較でその要因を解説するとともに、現状を打破する方法を考察。世界展開のカギとして、「差別化」と「マニアックな展開」を挙げています。

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日本の靴業界の課題について

1.ヴィーガニズムへの対応

靴や鞄に加工される皮革(レザー)は、食肉の副産物でもある。したがって、ほとんどの皮革は、家畜が原料である。牛肉、羊肉、馬肉、豚肉だけを食べて、その皮を捨てるのは勿体ないので、靴や鞄という生活に役立つ商品に加工しているのだ。そして、革なめしや革靴生産の技術は、歴史的な文化であり、人類の財産とも言えるだろう。

ところが、家畜を飼育すること自体に反対し、「人間は動物から搾取せずに生きるべきだ」というヴィーガニズムという考え方が出てきた。

ベジタリアンは肉は食べないが、卵や牛乳、チーズ等は食べるのに対し、ヴィーガンは、卵や乳製品を含む全ての動物性食品を拒否し、皮革やウールの使用も否定している。

ヴィーガンの中には、単に動物性食品を食べないという人もいれば、動物の商品化や動物製品を拒否する人、畜産業が環境を破壊し持続可能ではないと考える人もいる。

現段階では、ヴィーガンの人口は決して多くはないが、私は皮革関連の業者もヴィーガンに向き合う必要があるのではないか、と考えている。

なぜなら、我々は毛皮業界の事例を知っているからだ。ヨーロッパでは、室内でイブニングドレスを着ている場合、外出する時にはその上に毛皮のコートを着るのが常識だった。もちろん、ファッション業界もその常識通りに毛皮を扱っていた。

しかし、1980年に「動物の倫理的扱いを求める人々の会(PETA)」が発足してから、ファッション業界の常識は徐々に否定されるようになった。

PETAは、反毛皮運動の一環としてアメリカ、ヨーロッパの何百ものファッションショーにメンバーを送り込み、ランウェイに赤い塗料を投げ込み、ランウェイで毛皮反対のメッセージが書かれたバナーを広げたのである。また、セレブやスーパーモデルは裸でポーズを取り「毛皮を着るぐらいなら裸になる」(I’d Rather Go Naked than Wear Fur)キャンペーンを展開した。

こうしたキャンペーンは着実に成果を上げた。ファッションデザイナーやブランド企業が次々と毛皮を使わないことを宣言し、それがトレンドにもなったのである。

同じことが皮革業界に起こらないという保証はない。その前に、自らヴィーガン対策を行うべきだと思うのだ。

2.海外展示会への出展は有効か

日本のメーカーが考えていること。自社の技術レベルは高いはずだ。自社のことが海外には知られていない。海外の展示会に出て、取引先に知ってもらえば仕事が来るのではないか。

そう考えて、海外の展示会に出展する。多くの場合、「素晴らしいですね」と褒められる。しかし、具体的な商談になると、「価格が合わない」と言われる。更には納期が合わない、生産能力が足りない等の理由で本格的な受注には至らない。試験的な発注があれば良い方だ。それでも、補助金で出展しているので困らない。海外の展示会に出展したことで、国内の商談に有利になればいいと思っていることが多い。

例えば、アパレルや靴の場合は、体型や足型が日本人と欧米人は大きく異なる。タオル等では、製品サイズの規格が日本とは異なる。

気候風土も異なれば、人種も宗教も異なる。売れるデザインもカラーも異なるのだ。

欧米のメーカーが日本市場に参入する場合、最低でも3年程度はリサーチを行う。そして、日本の商慣習、日本市場の規模や特性、業界の規模や競合他社の状況等を詳細に調べ上げるのである。

そして、可能性があれば、現地法人、つまり日本に法人を設立し、日本人をスカウトする。それで初めて、市場に参入できるのだ。

最初に見本市や展示会に出展し、それが契機となってビジネスで成功する例はほとんどない。なぜなら、輸入品を扱う日本の専門店等は世界中をリサーチしているし、売れそうだと思えば、広く知れ渡らないうちに、自分から先方のメーカーに交渉に行く。

見本市や展示会に出展するということは、広く情報を公開することに等しい。小売店のバイヤーにすれば、誰もがアクセスできる情報には価値がないと考えるのだ。

したがって、トランクに見本をつめて、直接、飛び込みで営業をかける方がはるかに効果的である。

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3.中国製、イタリア製との差別化

中国は世界の工場、イタリアは世界の一流品の工場である。日本市場も欧米市場もこの二つの世界の工場に支配されている。

その中に日本メーカーが切り込んでいくには、中国とイタリアと差別化を図らなければならない。

この状況はアパレル業界と似ている。洋服も革靴もルーツは欧州であり、日本のメーカーは欧州の技術を導入し、欧州の製品に追いつこうと努力してきた。欧州は先生なのだ。

また、中国メーカーには日本企業が技術指導を行ってきた。現在では、日本より最新の機械が導入され、日本よりも若い社員が働いている。日本と遜色のない製品が日本より安く生産できるのである。

アパレルを事例にすれば、大手百貨店アパレルは中国市場に進出したものの、ほぼ全てが撤退している。欧州市場に向けては、欧州のメゾンを買収することで対応しようとしたが、投資家以上の役割を果たしていない。

欧州市場、中国市場共に進出に成功したのは、世界的に通用するデザイナーズブランドとユニクロだけである。

デザイナーズブランドは、日本文化を背景にした独自の世界観と圧倒的な個性によって、欧州とは異なるステイタスを表現している。

ユニクロの強みは、日本の繊維産業の強みである合繊メーカー、デニムメーカー、繊維機械メーカーの協力を得て、独自素材や独自技術の開発に成功し、中国製との差別化に成功したことである。加えて、これも日本の強みである品質管理力、物流や店舗等の運営力により、中国メーカーの追随を許していない。

靴業界にも同じことが言えるのではないか。差別化のポイントは、デザインと素材である。例えば、日本の合繊技術、整理加工技術を活かした新たな人造皮革と日本のタンナーの技術を組み合わせて、これまでにない素材を開発できれば、大きな差別化ポイントになる。

あるいは、日本人デザイナーによる欧州にはない東洋の感性を活かした靴も差別化になるだろう。

4.メーカー直販のビジネスモデル

次にメーカー直販のビジネスモデルについて考えたい。

靴業界には、タンナー、皮革問屋、靴メーカー、靴問屋、小売店という流通段階がある。

ネットを使えば、各段階で直販モデルを構築することが可能だ。タンナーが皮革を直販。皮革問屋が皮革を直販。靴メーカーが靴を直販、靴問屋が靴を直販など。

更に言えば、外国企業も直販モデルで販売できる。海外のタンナー、海外の靴メーカーが日本向けに直販することも可能だ。あるいは、日本のネットショップが輸入品を扱う場合もある。

課題は継続性だ。短期的なビジネスなら良いかもしれないが、ネットが炎上したり、価格競争に陥るというリスクもある。また、既存の流通を飛び越えることで、逆に取引を切られるかもしれない。

メーカーがネットで直販する場合、既存のビジネスとバッティングしないような設定をしてから始めることをお勧めしたい。例えば、以下のような設定が考えられる。

第1は、完全に既存流通からネット直販に切り換えること。

第2は、ネット直販限定モデルを販売すること。

第3は、クラウドファンディングのように、期間限定、数量限定で販売する。新商品のテストマーケティングのようなケースである。

第4は、ネット限定のブランドを販売すること。

第5は、直営店とネット販売の組合せである。ユニクロのように全ての販売ルートを自社でコントロールするケースである。

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5.靴デザイナーの育成が鍵

海外市場に出るのも、ネット直販を進めるにも、最終的にはイタリア製と中国製との競合に勝たなければならない。

既に、ヨーロッバ発のトレンド追随のモノ作りでは、中国に勝てない。中国メーカーは、定期的に欧州に出張し、展示会や市場をリサーチし、大量のサンプルを購入しているのだ。

人件費の高い日本製の商品が勝負するには、コピーではなく日本オリジナルの商品でなければならない。それには、靴デザイナーの存在が欠かせないだろう。

靴デザイナーの育成として、国際的な靴デザインコンテストを提案したい。国際的なコンテストが難しければ、日本国内限定でも良い。

コンテストで重要なのは、賞金ではなくステイタスである。ステイタスは審査員で決まる。これまでも様々なコンテストは存在したが、実際にビジネスに直結したものは少ない。

例えば、コンテストの優勝者は、自分のコレクションを発表することができる。WEBに掲載し、パンフレットを作成し、世界の靴に関するメディアやキーマンに送付する。

コレクション制作には国内メーカーが協力する。そして、海外の展示会で作品を発表し、国内の百貨店等でポップアップショップを展開する。

この一連のイベントにより、靴メーカーはデザイナーとの仕事を経験し、コレクションに協力したメーカーの名前は世界中に広がるだろう。

コレクション発表後、靴メーカーとブランドライセンス契約することができれば、双方にとってメリットが生じる。

靴デザイナーを業界全体で育成し、有名にすることは、靴デザイナーという職業に夢を与えることにもなる。

6.日本独自の靴素材の開発

日本の製造業の強みは、機械と素材と加工技術にある。冒頭で述べたヴィーガン対応もにらみながら、日本オリジナルの靴素材ができれば、大きな差別化ポイントとなる。

ここで重要なことは、あくまで革靴製法に適した素材であることと、高級品の素材になり得ること。

日本はマイクロファイバーの技術、不織布の技術、製紙の技術、印刷の技術、樹脂加工の技術、接着技術、織物の整理加工技術、ゴムやシリコンの技術等に優れている。

皮革を更に加工することも可能だろうし、皮革以外のテキスタイルをタンナーで加工することも考えられる。あるいは、リアルレザーと織物やニットとのコンビネーションなど。

革靴業界の人はリアルレザー以外は邪道だと思うだろうが、バッグの世界では既にラグジュアリーブランドでも織物が使われている。

但し、素材開発には時間も費用も掛かる。長期的なプロジェクトとして、「ヴィーガン対応靴素材開発」「サスティナブル靴素材開発」「ハイテク靴素材開発」等のようにテーマを決めて取り組んでいくのも良いと思う。

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編集後記「締めの都々逸」

「背広革靴 帽子を被り 昭和の男は どこに行く」

背広と革靴は、昭和のサラリーマンのシンボルでした。今でも、基本的にはサラリーマンの制服ですが、カジュアルウェアにスニーカーで働く人が確実に増えています。そうなっているのに、革靴業界の人は革靴のことばかり考えています。

百貨店と映画館も昭和を象徴しています。映画館はシネコンになって一度は息を吹き返しましたが、ジワジワとサブスクのネット動画に押されています。百貨店はシネコンにはなれず、多分フェイドアウトしていくと思います。

新聞社、テレビ局、出版社も衰退していくのでしょうね。

衰退していく業態はマニアックになるしかないと思います。マニア向けの革靴と背広。マニアックな百貨店、映画館。マニアックな新聞、テレビ、出版社。規模を小さくすれば、生きていけます。でも、自分はビッグだと誤解して、その姿勢を改められないと滅びていくような気がします。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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