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アフガンで評価されたオランダ軍方式は「日本の陸自が手本」の意外

アフガニスタン情勢の変化によって、これまでの各国の活動を振り返る企画が増え、亡くなった中村哲医師の活動を改めて讃えるものが増えているようです。中村氏の活動を評価しつつも、自衛隊派遣に反対した姿勢は疑問とするのは、メルマガ『NEWSを疑え!』を主宰する軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんは、アフガニスタンで活動した各国の軍隊の中でオランダ軍の死者が少なく評価された例を上げ、そのオランダが参考にしたのがイラクでの陸上自衛隊の取り組み方だった可能性が高いと言及。マスコミは一面だけを見ず、多角的に「平和構築の在り方」を検証すべきと訴えています。

暴力の連鎖を断つということ

政権崩壊とタリバン支配の復活を受けて、日本国内では2019年12月4日にアフガニスタンで殺害された医師・中村哲さんの偉業を讃え、その「平和主義」を高く評価するマスコミ報道が目につくようになりました。

10月2日付けの毎日新聞は、作家の澤地久枝さんのインタビューを掲載、「自衛隊派遣は有害無益」との中村哲さんの言葉を紹介しています。これは2001年10月13日の衆議院「国際テロリズムの防止及び我が国の協力支援活動等に関する特別委員会」での発言で、中村さんを讃える人たちは「ヤジにもめげなかった」と言っていますが、中村さんはヤジにたじろいで後ずさりしたとき、テーブルの上の水をひっくり返したほどで、とても驚いた様子でした。

中村さんは「どういう形であれ、軍事組織をアフガニスタンに出せば暴力の連鎖を生む」と発言しました。それに対して、同じ参考人として出席した私は「暴力の連鎖を断ち切るためには高速道路の中央分離帯のような考え方で一定の強制力を備えた軍事組織を投入することが必要で、それによる安全地帯を作ることが第一、その次に中村さんたちの井戸掘りがくる。それが物事の順序というものではないか」と指摘しました。民主主義によってコントロールされた軍事組織を使って暴力を排除する考え方です。中村さんは下を向いて答えませんでしたが、それが残念でなりません。

私はアフガンでの中村さんの活動を評価する立場ですが、物事の順序だけは踏まえて欲しかったと思っています。平和構築について方法論の違いはあっても対立があってはならないのです。違う斜面から平和という頂上を目指しているのですから、軍事組織が防風林や中央分離帯として暴力の連鎖を抑え込み、安全地帯を作り出すことについては理解して欲しかったと思っています。

米国をはじめ各国がアフガンやイラクで成功しなかったのは事実ですが、その一方、イラクに派遣された自衛隊が外国のモデルとなるような活動をしたことはあまり知られていません。中村さんにはその活動をイラクで見て欲しかった。そして考えを変えて欲しかったと思っています。

ここで思い出されるのは、同じ国際治安支援部隊(ISAF)としてアフガニスタンに派遣されたオランダ軍について、オランダ政府当局が他国に比較して戦死者が少ないことについて胸を張っていることを紹介した毎日新聞の記事(2009年5月14日付)です。

アフガン国際部隊 犠牲少ないオランダ軍方式
「アフガニスタンに展開する北大西洋条約機構(NATO)の国際治安支援部隊(ISAF) で、オランダ軍の取り組みが注目を集めている。住民の暮らし改善に力を注ぎ、双方の犠牲者を抑えている。『オランダ・モデル』はブッシュ前米政権から『戦わない軍』と批判されたが、対話を掲げるオバマ政権には一転『成功例』と評価されている。

 

オランダは06年夏から南部ウルズガン州に約1800人を派兵している。同州はカンダハル州、 ヘルマンド州と並び反政府武装組織タリバーンの勢力が強く、最高指導者オマール師の出身地。しかし、2年半余りでオランダ軍の死者は19人。同期間の死者数で比べ、ヘルマンドに約 8300人を送る英軍(140人以上)やカンダハルに約2800人を出すカナダ軍(約100人)より際だって少ない。

 

有力者と信頼感
最大の理由は軍事行動より住民との相互理解に力を入れる点だ。国防省のリートディック作戦本部長は『敵は住民の中にもいる。直接戦えば敵意を持たれて、タリバーンに協力されてしまう』と話す。

 

地元の有力者との信頼関係を元に民生支援に力を注ぐ。『目標は住民自身による復興の手助け』と、外務省のアフガン担当コーディネーター、サストロウィヨト氏。地元の協力を得て、就学する子供は1万数千人から約5万人に、医師は2人から31人に増えた。

 

兵士は『オランダ・モデル』を理解するため事前に半年の訓練を受ける。責任者のセンツ少佐は『住民に敬意を払い、敵にも中立に振る舞うよう訓練する』と強調する。

 

オランダ・ヘルダーラント州の軍演習場。今年4月、200人以上が仕上げの演習に励んでいた。その1人の男性兵(36)は地元警察の助言役として7月に赴く。『アフガンも、助言役になるのも初めて』。警察の組織や現状だけでなく、現地の文化や宗教を学ぶ。

 

クリントン米国務長官は3月末、ハーグでのアフガン支援会議で『オランダは注目すべき成功を収めている。我々の新戦略はこの考えの上に築いた』と持ち上げた。(後略)」

当時の主な国のアフガニスタン派兵数と死者数は次の通りで、オランダ軍の死者が少ないのは一目瞭然です。

オランダ:派兵数、約1800人・死者数、19人(06年~) ウルズガン州
米国:派兵数、約4万・死者数、683人(01年~)
カナダ:派兵数、約2800人・死者数、118人(02年~) カンダハル
英国:派兵数、約8300人・死者数、158人(02年~) ヘルマンド

この記事を読んだとき、私は「オランダ方式」などではなく「日本方式」だと呟きました。それというのも、2004年1月9日~2006年9月9日の2年8ヵ月間のイラク復興支援に派遣された陸上自衛隊は、自らを守るにも不十分な編成装備しか許されないという逆境を克服するため、現地住民との信頼関係の構築を最優先し、無事、任務を達成することができたことを知っていたからです。

役割分担として陸上自衛隊の安全をも図る治安維持任務に当たっていたオランダ軍は、陸上自衛隊が実行した住民との信頼関係構築の有効性に注目し、日本方式をアフガニスタンで実行に移したと思われるからです。

むろん、オランダ軍にも戦死者は出ています。それでもオランダ当局が「オランダ方式」として自信を持って語るのは、やり方しだいでは住民と信頼関係を構築し、損害を減らすことができることを証明できたからにほかなりません。

マスコミは、中村哲さんを讃える声をあたかも天の声のように一方的に伝えるのではなく、平和構築の在り方という角度から客観的な検証を行わなければ公器としての資格を失うことを忘れてはなりません。(小川和久)

image by: Shutterstock.com

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地方新聞記者、週刊誌記者などを経て、日本初の軍事アナリストとして独立。国家安全保障に関する官邸機能強化会議議員、、内閣官房危機管理研究会主査などを歴任。一流ビジネスマンとして世界を相手に勝とうとすれば、メルマガが扱っている分野は外せない。

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