「リーダーシップとは何か」、「リーダーたることの条件とは何か」を知ることがビジネスで成功する一つの大きな鍵となります。そこで、今回のメルマガ『戦略経営の「よもやま話」』では、著者の浅井良一さんがドラッカーの言葉からビジネス上の「リーダー」について詳しく語っています。
経営者の仕事 傑物を使いこなしたり
ドラッカーは“リーダーシップ”について興味深いことを言っています。
“リーダーシップ”は、資質とは関係ない。カリスマ性とはさらに関係ない。その本質は“行動”である。それは“手段”である。何のための“リーダーシップ”かが問題である。
だと教えます。
話が飛びますが、中国の前漢朝の創始者となった「劉邦」が語ったとされる「勝者の“器”」についての言葉をあげます。
帷幄のなかに謀をめぐらし、勝ちを千里の外に決するは、われ“張良”にかなわじ。政務の充実、兵糧の調達、補給路の確保につきては、われ“蕭何”にかなわず。百万の兵を手足のごとく操り勝ちを収むるにつきては、われは“韓信”にかなわじ。ともに傑物なり。しかれどもその傑物を使いこなしたり。これぞ、われ天下を得たり理なり。
「劉邦」の本性たるや見てくれは“龍顔”で大人の風はあったけれど、知性なく酒飲みで女好きで侠客の親分のような人物で、しかし、二つの桁違いの良質があった「常に“大度”」があった。一つは、部下の意見を“よく聞き”それを採用して行動をおこした。二つ目は、戦利品のたぐいを“私せず”大盤振る舞いをした。
ドラッカーは、リーダーたることの要件を3つ上げています。
1.リーダーシップを“仕事”として見ることである
リーダーシップの効果的な基礎とは、
(1)組織の使命を考え抜き、それを
(2)目に見える形で明確に定義し確立することである。
リーダーとは、
(1)目標を定め
(2)優先順位を決め
(3)基準を定め、それを
(4)維持するものである
2.リーダーシップを地位や特権ではなく“責任”と見ることである
優れたリーダーは常に厳しい。ことがうまくいかないとき、何ごともだいたいうまくいかないものだが、その失敗を人のせいにしない。
「自らが最終責任を負うべき」ことを知っているがゆえに、部下を恐れない。強い部下を求める。部下を激励し、前進させ、誇りとする。部下の失敗に最終的な責任をもつがゆえに、部下の成功を脅威とせず、むしろ自らの成功と捉える。
3.“信頼”が得られることである
信頼が得られないかぎり、従う者はいない。そもそもリーダーに関する唯一の定義は、つき従う者がいるということである。
信頼するということは、リーダーの言うことが真意で確信がもてることである。それは“真摯さ”というものに対する確信である。
「公言する信念とその行動は一致」しなければならない。明らかになっていることとして、賢さに支えられるものではない。一貫性に支えられるものである。
そのためのリーダーシップを発揮すべき経営者つまりトップマネジメントの“役割”について、より詳しく示すとこんなものがあるとします。
1.事業の“目的を考える”役割がある
「われわれの事業は何か。何であるべきか」を考えなければならない。この役割から
(1)目標の設定
(2)戦略計画の策定
(3)明日のための意思決定
という役割が派生する。
2.“基準を設定”する役割
組織全体の規範を定める役割。目標と実績との違いに取り組まなければならない。ビジョンと価値基準を設定しなければならない。
3.“組織をつくり上げ、それを維持する”役割がある
組織の「精神をつくり上げなければならない」。“トップマネジメントの行動、価値観、信条”は、組織にとっての“基準になり、組織全体の精神”を決める。加えて“組織構造を設計”しなければならない。
もとより一人でなす必要はなく「われわれの事業は何か。何であるべきか」や“価値観”については一人が決めなければならないけれど、その他については「劉邦」のように“傑物”の言わんとするところをよく聞き、判断して立案すればよいと言えます。実行については、基準を決め適格者に委任すればよいと言えます。
さらに言うと“成果を実現”させるためには、劉邦のように「傑物をはじめとして、すべての“人の強み”を活用」することです。そこのところをドラッカーは以下のように言っています。
成果をあげるためには、“人の強み”を生かさなければならない。利用できる限りの“あらゆる強みを総動員”しなければならない。”強みこそ機会である”、強みを生かすことは組織の特有の機能である。
組織の役割は、一人ひとりの強みを、共同の事業のための建築用のブロックとして使うところにある。
人に成果をあげさせるためには、一つの重要な分野における“卓越性”を求めなければならない。人の卓越性は、一つの分野、あるいはわずかな分野において実現されるのみである。
またいつものように松下幸之助さんを引き合いに出すのですが、
「天は二物を与えず」と言うが、逆に「なるほど、天は二物を与えないが、しかし一物は与えてくれる」ということが言えると思う。その与えられた一つのものを、大事にして育て上げることである。
すべての人を自分より偉いと思って仕事をすれば、必ずうまくいくし、とてつもなく大きな仕事ができるものだ。
なすべきことをなす勇気と、人の声に私心なく耳を傾ける謙虚さがあれば、知恵はこんこんと湧き出てくるものです。
他人はすべて自分よりもアカンと思うよりも、自分よりエライのだ自分にないものをもっているのだ、と思うほうが結局はトクである。
私には3つの財産がある。それは学校へ行かなかったこと。健康に優れなかったこと。そして、決断に弱かったことだ。だから、人が教えてくれたり、助けてくれたりして成功した。
けれど「決心することが、社長と大将の仕事である」とも言います。
経営者が成果を実現するために必要なのは“カリスマ”や専門的な能力ではなくて、経営者としての責任感、使命感、熱意、考え方です。自分より優れた能力を持つ部下を育てて活かすのが経営者の仕事です。
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