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「チルい」を知らないとおじさんなのか?2021年の新語に選ばれた謎ワード

年末恒例の、今年の新語・流行語大賞も話題を集めましたね。なかでも、コロナ禍で使われ始めた『人流』『黙食』などの新しいことばが目立っていたように感じます。そんな中、朝日新聞の元校閲センター長という経歴を持つ前田さんが注目したのは、三省堂が主催する「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2021』」の大賞のことば。自身のメルマガ『前田安正の「マジ文アカデミー」』の中でそのことばに触れています。

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「チルい」ってことば、知ってますか?

先日、神戸のエレベーターの中に「黙乗にご協力ください」という張り紙があるのを見ました。コロナ禍で「3密」「人流」「黙食」「マスク会食」などという摩訶不思議なことばが、次々つくられました。

「人流」ということばを初めて聞いたときに、どういう意味なんだろうと思って辞書を引くと「同類の人。仲間」「人を評論する」と載っていました。「人の流れ」という意味は、そこには見当たりませんでした。

漢字は、その組み合わせで新しいことばを生み出すことができる、ということをリアルタイムで見せられた思いでした。

「黙食」は、コロナ禍において複数で食事をするときのエチケットのアイコンのような意味合いがあります。本来なら食事をしながら楽しむ会話を、意識的に抑え込むという意味合いが「黙」の中に含まれているように思います。

先に出した「黙乗」も「黙ってエレベーターに乗りましょう」という抑制的なメッセージです。だから今年の流行語には「黙」が中心のことばが選ばれるのではないだろうか、と思って年末恒例の流行語に関する催しを楽しみにしていました。

しかし、予想はほぼ裏切られた形でした。

リアル二刀流/ショータイム

「『現代用語の基礎知識』選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」の年間大賞は、「リアル二刀流」と「ショータイム」でした。大谷翔平選手の大リーグでの活躍は、鬱屈した時代のなかにあって、ひときわ輝く希望の光のように思えました。

MVPを始め、大リーグにある賞の11ほどを独占したのですから、大谷選手はまさにヒーローだったのです。だから鬱々とした時代を象徴することばではなく、未来への希望や誇りということばを選んだ気持ちは、素直な感覚として理解できました。

それでも「新語・流行語大賞」のなかには「うっせぇわ」「人流」「黙食」といったことばがノミネートされていました。ここには、その年に人の口の端にのぼったことばが中心に挙げられています。時の状況に大きく影響されたことばなので、将来、使われなくなる可能性もあります。

一方、三省堂が主催する「辞書を編む人が選ぶ『今年の新語2021』」は、これとはスタンスが異なっています。

将来、辞書に載せるかもしれない新語を選ぶという基準があり、辞書の著者・編者が選考しています。ここにも、「人流」「ウェビナー」「おうち○○」といった、コロナ禍の影響を受けたことばがいくつかノミネートされていました。

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「チルい」って何だ?

しかし、大賞となったのは「チルい」ということばでした。

選考結果の解説によると、もともとは「落ち着く」「くつろいで過ごす」「一息入れる」という意味の英語「chill-out(チルアウト)」が音楽関係の分野で使われていたのだそうです。それが2010年代後半から「最高にチルい時間」「チルい雰囲気」という形で、音楽以外の用法が広まったのだといいます。

ということは、4~5年ほど前から使われていたということになります。しかし、僕は、このことばを全く知りませんでした。音楽に疎いのか、ことばに疎いのか、単に鈍感なのか…。

三省堂のホームページには「今年の新語」としては2016年に初めて「チルする」(落ち着く)、「チルってる」(落ち着いている)が投稿されたとあります。時間を経て、今年「チルい」が選ばれた背景には、やはりコロナ禍で在宅時間が多くなったからかもしれません。

家でゆっくり落ち着きたい、という思いが「チルい」を広める要因になったようにも思えるのです。

「チルい」は、「チルアウト」の一部「チル」を使って、形容詞を派生させたものです。少し古いことばになりますが「ナウい」「エロい」、最近では「エモい」もその類です。

編者による語義の立て方 

三省堂の新語大賞の面白いところは、辞書の著者・編者が、大賞になったことばの語義(意味)を真剣に考え発表するところにあります。

『三省堂国語辞典』の編者・飯間浩明さんは

チル・い(形)[「チル(←chill out)」を形容詞化した語]〔俗〕気持ちがゆったりする感じだ。「最高に~曲・日曜の午後は~」〔2010年代後半に広まったことば〕

と記しています。また、『三省堂現代新国語辞典』の編者・小野正弘明治大学教授は

チル・い(形)[←chill]気持ちが落ちついてくつろげるようす。「~音楽で安らぐ・チルくロマンティックな風景」[英語chillは、もともとは、冷たさや肌寒さを意味していたが、特に、chill outと言うときなどには、俗語としての用法で、落ちついたとか、くつろいだという意味で用いられるようになり、「チルい」は、その意味を引きついだもの。(以下略)]

のように定義しています。

12月13日には、日本漢字能力検定協会主催の「今年の漢字」が発表されます。

ことばや漢字で、その年を振り返るのも楽しみの一つです。

今年の漢字に「黙」が選ばれないかなあ、と密かに、そしてしつこく思っているのですが…。

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image by: Shutterstock.com

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未來交創株式会社代表取締役/文筆家 朝日新聞 元校閲センター長・用語幹事 早稲田大学卒業、事業構想大学院大学修了 十数年にわたり、漢字や日本語に関するコラム「漢字んな話」「漢話字典」「ことばのたまゆら」を始め、時代を映すことばエッセイ「あのとき」を朝日新聞に連載。2019年に未來交創を立ち上げ、ビジネスの在り方を文章・ことばから見る新たなコンサルティングを展開。大学のキャリアセミナー、企業・自治体の広報研修に多数出講、テレビ・ラジオ・雑誌などメディアにも登場している。 《著書》 『マジ文章書けないんだけど』(21年4月現在9.4万部、大和書房)、『きっちり!恥ずかしくない!文章が書ける』(すばる舎/朝日文庫)、『漢字んな話』(三省堂)など多数。

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