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アパレルのプロが大胆提案「武道カジュアル」に大きな可能性を感じたワケ

農業や漁業の世界では、生産者が発信メディアを持つことで、消費者へ直接良い物を届けられる時代になりました。アパレルファッションの世界でも縫製メーカーなどが立ち上げた「ファクトリーブランド」が注目されるようになっています。今回のメルマガ『j-fashion journal』では、著者でファッションコンサルの坂口昌章さんが、「ファクトリーブランド」として成功するための3条件を整理。その条件に見事に当てはまる「武道着メーカー」を例に、“武道カジュアル”で勝負する「ファクトリーブランド」の立ち上げを思い描いています。

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武道カジュアルの提案

1.ファクトリーブランドの条件

私は仕事柄、様々なテキスタイルメーカーや縫製メーカーの人と会う。そうした中で、「このメーカーにファクトリーブランドを提案したい」と思うことがある。もちろん、思わないことの方が多いのだが。どんな時に提案したいと思うのかを整理してみた。

第1の条件は、素材と縫製加工のマッチングが出来ていること。あるカットソー工場は、度詰めの天竺や裏毛使いを使い、ビンテージ風の製品を得意としていた。吊りの丸編み機を持っている編み立ての工場と太いパイプがある。ここまで特徴があれば、独自の製品をファクトリーブランドとして販売するのは容易である。通常のカットソー工場は、問屋から生地を仕入れる。どこにでもある定番の素材しか入手できないのでは、ブランドの差別化は難しい。どんなにきれいに縫製ができるメーカーでも、素材に特徴がなければ、製品の差別化はできないからだ。

第2の条件は、独自のストーリーがあること。特殊なミシン、特殊な技術、工場や経営者の歴史、工場のある地域の風土や歴史、文化等を編集して、ブランドストーリーが組み立てられるかが重要になる。例えば、クラウドファンディングにせよ、カタログ通販にせよ、ストーリーに説得力がないと、プロジェクトとして成立しない。ストーリーが描ける材料が揃っているかが重要なポイントになる。

第3の条件は、サプライチェーンの独自性。工場内の技術だけでなく、刺繍や捺染等の後加工業者とのパイプがあるか。あるいは、個性的な付属メーカーと付き合いがあるか。魅力ある製品とは、いくつかの魅力が組み合わさることで構成されている。その魅力を重ねるのは、他社との連携である。

2.武道着メーカーの可能性

先日、武道着と武道具のメーカーを展示会で見かけた。武道着メーカーなので、剣道着、柔道着、空手着などを作っている。つまり、それらの実用的な丈夫な生地は調達できるということだ。

武道着専業のメーカーなので、一般のアパレル製品は作ったことがない。作ったことがないことに価値がある。もし、一般のカジュアル製品を作れば、初めて作ったことになる。

なぜ、一般向けのカジュアルアイテムを作るのか。そこにストーリーがある。そのストーリー作りがブランド開発の企画である。例えば、これまでは武道を行う者が、武道を行う場面で着用するのが武道着だった。その他の人は着用しないし、武道の稽古や試合以外で武道着を着用することはない。

しかし、武道を習得した者が普段着として着用するものを作ってもいいのではないか。あるいは、武道に憧れている人、武道を習おうと思っている人、武道の現役から引退した人などが、武道をしている気分になれる服があってもいいのではないか。生産者側からすれば「新たな市場創造」であり、消費者側からすれば、「日本の伝統を踏まえた日本独自の日常着が欲しい」ということになる。

武道着メーカーが武道着の仕事だけで満足するのではなく、新たな分野に挑戦するのなら、これまで扱ってきた商品の周辺から開発することを勧めたい。そう考えていくと、提案せずにはいられなくなる。

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3.クラウドファンディングを前提にする

クラウドファンディングのリードは以下でどうだろう。
コンセプトは「武道家の普段着」。普段着だが、背筋を正すことを忘れない。西欧風の生活をしていても日本の心を忘れない。過度な装飾を排し、あくまで「質実剛健」を重視した「日本の普段着」。これまで武道具一筋のメーカーが、デザイナーの○○氏とのコラボレーションにより初めて普段着に挑戦します。

ブランド名は「?印?着(ここでは秘密)」。?は、目立たないが戦いの中で身を守る重要なもの。?をシンボルにすることで、武道家の心と心身を守護するという機能を表現しています。?着、??着の省略であり、アウトドアで着用する普段着を表しています。

4.工場が取り組みやすい商品開発

商品開発コンセプトは、社内の資産を最大限に生かすこと。利益が見込めない段階で過大な投資は行わず、まず、試作品を作ってクラウドファンディングでテストマーケティングを行う。クラウドファンディングは前払いで受注生産が可能なので、メーカーにとってはリスクがほとんどない。また、通常流れている素材を使えば、新たな素材開発、素材調達は必要ない。

縫製仕様も社内の設備で可能なものとする。その上で、もし可能ならば後加工の工場との連携を考える。例えば製品染めの工場、製品洗いの工場、捺染、刺繍の工場等。

商品開発には優先順位をつけて行う。最初は、既存の武道着の簡単なアレンジでできることを行う。丈や幅を変える。紐を加える。在庫の中で生地を交換する。ステッチを変える等々。

第2は、洋服の立体的なパターンを取り入れる。仕様はなるべく変えない。あくまで質実剛健な構造とする。ここまでは武道着の縫製工場内で行う。第3は、他の縫製工場とのコラボレーションにより、より立体的で本格的な洋服を作る。その場合も、まずは武道着の生地を使う。

以上のような開発手法により、試作したサンプルを次々とクラウドファンディングにかけて市場ニーズを把握しながら商品開発を進めていく。

通常は、商品開発コンセプトを決めずに、いきなり商品コンセプトを立案し、デザイナーの指示通りに試作を進めていく。デザイナーは工場の設備や工程、技術等を理解せずに、個人の嗜好を優先することも多いので、そうなると互いに不満が溜まり、最終的にプロジェクトは崩壊してしまう。そこで、工場がどのように開発を進めればいいのか。どの範囲の仕事になるのかを十分に説明する必要があるだろう。

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■編集後記「締めの都々逸」

「頼まれないのに 提案続け なぜやらないと 憤慨す」

還暦を過ぎてもやりたい仕事だけやりたい。自分で可能性を感じる企画を自分で組み立てて、頼まれもしないのに提案する。でも、企画書を作ってプレゼンまですることで、その企画は自分の中にと蓄積されるんですね。その時はボツになっても、その企画が10年後に生きるかもしれません。

実際、構想10年くらいでようやくスタートできるという企画も少なくないのです。でも、お金になるのは更に何年も掛かったりします。ですから、割りに合わない仕事です。

割に合うのは、サラリーマンのように時間を売る仕事ですよね。安定しますから。でも、やりたくない。なぜなら、面白くないから。そんなこんなで、不安定ですが、お金がないこと以外はストレスのない暮らしを続けています。さて、今回の企画は受け入れられるのでしょうか?(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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