依然として出口が見えないロシアによるウクライナ侵攻。世界はウクライナを支持する人たちが大半ですが、戦争を仕掛けたロシア内部でも、どうやら大きな“波乱”が起きているようです。今回のメルマガ『パリ大学博士・世川祐多のフランスよもやま話』では歴史学者で日仏交流に情熱を注ぐ世川祐多さんが、ロシアで相次ぐ密告をとりあげ、戦争における正義について語っています。
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戦争と正義 ロシアで相次ぐ「密告」
ロシアで密告が相次いでいるという。
そして、戦争反対を唱えたり、プーチンに異を唱えたり、平和を謳うロシアの人々が、失職したり社会から爪弾きにされている。
残念なことである。
戦争には常に大義名分としての正義が掲げられるが、各人の信じる正義が違うから、そこに問題が生まれる。
プーチンの戦争に疑問を持つロシア人たちや平和主義者にとっては、この戦争への反対が正義である。
しかし、NATOにロシアの存立が脅かされていると感じ、ロシアの興廃はこの一戦にありと信じていて、心からプーチンを支持している人やロシア国粋党からすれば、この国威をかけた戦争に反対する人を官憲に密告することが正義になる。
天変地異であれば、惑える人たちを助け寄り添い、絆や連帯を深めることが正義になり、その正義は一つである。
しかし、戦争では、人々の考える正義が二項対立になり、それが思想的敵対を生む。
その思想は行動に向かうことも多い。
国営テレビの局員が、放送に乱入し戦争反対のプラカードを掲げる。戦争反対のデモをする、街頭に無言で立ち戦争反対の意思表示を示す。
反プーチンの人間に暴行を加えたり、反戦の言動をする者を密告する。プーチン支持を叫ぶ。
両方とも正義に基づく行動である。
オードリー・ヘップバーンは、戦時中にユダヤ人を助ける活動に従事していたとされるが、それが彼女にとっての正義であった。
反対に、ナチスにユダヤ人の居場所を密告し、突き出すことが正義であると考えていた人もたくさんいた。
戦争と正義、戦争における正義。難儀なことである。
妹尾河童の『少年H』でも読み返してみたい。
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