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損をしない障害年金。退職後と在職中、病院に行く時期でこんなにも変わる支給額

大きな病気や怪我などで収入が得られなくなった時の強い味方が障害年金という制度です。いつ起きるかわからないからこそ、備えておきたいものですが、実は障害年金を受け取るためには事前に覚えておいたほうが良いこともあります。そこで今回は、メルマガ『年金アドバイザーが教える!楽しく学ぶ公的年金講座』の著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、万が一の備えにもなる障害年金の仕組みについて解説しています。

在職中に病院行ったかそうでないかで、障害年金額がこんなに違う

長い人生において、大きな病気や怪我を負って働く事が困難になるリスクは誰にでもあります。

そのような万が一の事態になった時に非常に大きな力になるものの一つに公的年金が存在します。

公的年金というと老齢の人が貰うというイメージですが、そのような病気や怪我で働く事が困難になって収入が得られにくくなった時に障害年金という年金があります。

老齢だけでなく、病気や怪我で長い事治療が必要になってしまうとか、あるいは死亡するというのはいつ起こるのかは誰も予想できません。

なお、老齢に関してはいつまで長生きするかわからないので、どれだけ長生きしても年金を支給して保障しますねという事ですね。

よってそのようないつ起こるのかはわからないけど、起こってしまうと生活が非常に苦しくなりかねない時をカバーするために公的年金はあります。

そういうのは今までも言ってきた事なので早速本題に入りたいと思いますが、障害年金というのはその病気や怪我でいつ病院に行ったかという事で随分違う結果になります。

いつ病院に行ったかどうかで、年金額にも相当な違いが出る事があります。

特に在職中に病院に行ったか、それともそうではなかったというところが大きかったりします。

その辺の違いを考えてみましょう。

1.退職後にしばらくしてから病院に行った場合の障害年金

※ 昭和48年12月4日生まれのA夫さん(現在は48歳。令和4年中に49歳になる人)

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20歳になる平成5年12月から平成8年3月までの28ヶ月間は学生でしたが、免除もせずに保険料は未納にしていました。

卒業後の平成8年4月から令和3年5月までの302ヶ月間は厚生年金に加入しました。
なお、平成15年前後で分けずにこの間の平均給与はとりあえず50万円としておきます。

A夫さんは課長昇進後の令和2~3年あたりから在職中に遅刻や欠勤が目立つようになってきました。家庭ではなかなか眠れないという症状に悩んでいた。

本人としてはきっと怠けてしまっている…、もっと頑張らなければならないと思っていた。

欠勤などを繰り返していたため、なんだか会社に迷惑をかけるのが辛くなってきたので、令和3年5月31日をもって自己都合退職する事になる。

その後はしばらくは失業手当などを貰いながらちょっと休もうと思いましたが、失業を機に希死念慮の症状を訴える事が多くなり、会社員の妻が一旦病院に行くように促す。

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※ ちなみに、退職後の令和3年6月以降は国民年金のみの加入となり、自ら保険料を納める事になりますがA夫さんは滞納していたとします。

なお、退職後は国民年金保険料の退職特例免除で全額免除が出来るので未納を避けましょう。

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不眠や胃腸の調子の悪さもあったし、最初は内科に行ってみた(初診日令和3年8月12日)が特別異常はなかった。

内科からはもしかしたら精神疾患かもしれないという事で、心療内科のほうを受診(心療内科初診は令和3年9月10日)する事になった。

心療内科ではうつ状態として、治療を開始する(数ヶ月経ってから正式に鬱病と診断)。

投薬治療や休養をしている際に、障害年金の事を医師から教えてもらった。

「障害」年金というと、なんかこう仰々しいイメージがあったが、傷病で治療が長期化するような場合には対象になる年金である事を知る。

じゃあ請求しようと思って、年金事務所に相談に行った。

そうすると、今の鬱病による初診日はどこなのか?という事だったので、令和3年9月10日としたがその前に内科に行っていたのでその内科の初診日が必要となった。

内科の時と現在の心療内科の傷病は因果関係があるので、内科のほうが初診日(令和3年8月12日)となる。

初診日の証明は内科からの初診日証明を書いてもらうとか、その当時の領収書などの資料から初診日を特定したりする。初診日が記載されている資料は、障害年金請求時などに非常に重要なので安易に処分しないようにしましょう。

初診日が決まらないと障害年金は請求できないため、その傷病で初めて病院に行った日というのは極めて重要。

さて、次に初診日に加入してた年金は国民年金のみなのでもし貰えるなら障害基礎年金のみとなる。

そして、初診日がわかったら初診日の前々月までの年金保険料納付状況を確認。

初診日の前々月までに年金の被保険者期間があるならば、その期間の3分の2以上は納付または免除期間でなければならない。
もしくは初診日の前々月までの1年間に未納が無ければそれでもいいです。

基本的には手っ取り早く初診日の前々月までの1年間(令和2年7月~令和3年6月)に未納が無い事を確認しますが、ちょうど「令和3年6月」の1ヶ月の滞納期間が紛れてるのでそれは使えない。

なので、原則の平成5年12月から令和3年6月までの331ヶ月間のうちに、3分の2以上(66.66%)は未納とか滞納であってはいけない。

見てみると、331ヶ月のうち302ヶ月が納付だから、納付率は91.2%もあるのでクリアです。

じゃあ請求しよう!ではなく、初診日令和3年8月12日から1年6ヶ月経過した日である令和5年2月12日以降にようやく請求が可能になります。1年6ヶ月経過した日を障害認定日といいます。

傷病によっては1年6ヶ月待たない場合もあります。脚や手などを切断して、1年6ヶ月待ったところで治らないからですね。そういう場合は切断した日を障害認定日としてすぐに請求が出来たりもします。

さて…初診日から1年6ヶ月待たないといけないというのはなんだか酷な気もしますが、一過性の病気や怪我ではない事を見るためですね。

ちなみに在職中に病気や怪我で休むと健康保険から傷病手当金という給付が1年6ヶ月分出たりするので、それと重ならないようにしてるというのもあります(もちろん重なる場合もありますが…)。

初診日、保険料納付状況、障害認定日を満たした上でようやく障害年金請求の最終段階に来ます。

請求の場合は医師に診断書を書いてもらわなければいけないですが、障害認定日である令和5年2月12日から3ヶ月以内の診断書を書いてもらう必要があります。

障害認定日が来たらすぐ請求みたいなスムーズな事ってあんまりないんですが、この記事ではこのまま進みます^^;

その結果、A夫さんの障害等級は2級が認定されて国民年金から障害基礎年金2級777,800円(令和4年定額)が決定しました。

また、A夫さんには45歳の妻と3人の18歳未満の子が居たので、子の加算金223,800円(令和4年価額)×2人+74,600円=522,200円が加算。

さらに、障害年金生活者支援給付金5020円(年額60,240円)も他に支給。

そういえば過去に302ヶ月も厚生年金に加入してきてますが、厚年からの給付は一切反映されません。初診日が厚生年金加入中じゃないから。理由はそれだけですね。

よって障害年金総額は障害基礎年金2級777,800円+3人分の子の加算522,200円+給付金60,240円=1,360,240円(月額113,353円)

年金は令和5年2月12日受給権発生の、翌月分からの支払い(基本的には偶数月に前2ヶ月分を支払う)。

2.在職中に病院に行っていたら…

では、在職中の令和3年5月31日の最後の勤務時の帰りにでも、病院に行ったとしましょう。

退職日ですがこの日までは厚生年金加入中だからですね(6月1日には厚生年金資格を喪失)。

そうすると初診日(令和3年5月31日)が厚生年金加入中なので事情が変わってくる。

過去の保険料納付要件や障害認定日はクリアとして、年金額はどうなるのか。

初診日が厚生年金加入中なので、支払われる障害年金は障害厚生年金になる。

もし2級になったらいくらになるのか。45歳の妻と18歳年度末未満の子3人あり(平均給与は平成15年度前後で分けずに計算を簡易にしてます)。

・障害厚生年金2級→50万円×5.481÷1000×302ヶ月(障害認定月までの計算)=827,631円

65歳未満の生計維持してる妻が居るので配偶者加給年金223,800円が障害厚生年金に付く。

2級だから障害基礎年金2級777,800円+子の加算522,200円=1,300,000円が加算。

あと、給付金の60,240円ですね。

そうすると障害年金総額は、障害厚生年金2級827,631円+配偶者加給年金223,800円+障害基礎年金2級777,800円+3人分の子の加算522,200円+給付金60240円=2,411,671円(月額200,972円)となります。

ちなみに障害年金は非課税なので税金は一切かからない。

なお、障害厚生年金だけでなく障害基礎年金まで出る理由は、厚生年金加入中は同時に国民年金にも加入してるからです。

というわけで在職中に病院行ったのか、退職後に初めて病院行ったのかでは雲泥の差になったりするので、在職中に病院に行けるのであれば行っていたほうが良いでしょう。

会社に迷惑がかかるから…とか思って退職してから病院に行こうというのは、思わぬ損をする事にもなります。

※ 追記
障害年金は1~5年毎に年金を更新するかどうかを判断するために定期的に診断書を提出してもらいます。

今後、症状や生活状況が改善していた場合は等級が落ちて年金が減額または全額停止となる事があります。

もし、障害基礎年金2級のみの場合だった人が3級に落ちた場合は、障害年金は全額停止となり0円になります。

ところが、障害厚生年金の場合は3級まで年金があるので、3級に落ちた場合は障害厚生年金3級827,631円(月額689,692円)が支給されます。

3級は加給年金や障害基礎、子の加算などは無くなりますが障害厚生年金のみとなります。

こういう場合にも大きな違いがあるんですね…^^; この違いはやはり初診日がどこだったか?という事なのであります。

image by: Shutterstock.com

年金アドバイザーhirokiこの著者の記事一覧

佐賀県出身。1979年生まれ。佐賀大学経済学部卒業。民間企業に勤務しながら、2009年社会保険労務士試験合格。
その翌年に民間企業を退職してから年金相談の現場にて年金相談員を経て統括者を務め、相談員の指導教育に携わってきました。
年金は国民全員に直結するテーマにもかかわらず、とても難解でわかりにくい制度のためその内容や仕組みを一般の方々が学ぶ機会や知る機会がなかなかありません。
私のメルマガの場合、よく事例や数字を多用します。
なぜなら年金の用語は非常に難しく、用語や条文を並べ立ててもイメージが掴みづらいからです。
このメルマガを読んでいれば年金制度の全体の流れが掴めると同時に、事例による年金計算や考え方、年金の歴史や背景なども盛り込みますので気軽に楽しみながら読んでいただけたらと思います。

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