舌鋒鋭く日本維新の会批判を展開し、その創始者である橋下徹に名誉毀損で訴えられるも一歩も引くことのない姿勢が注目を集めている、れいわ新選組所属の衆院議員・大石あきこ氏。二人の“因縁”は、橋下氏が大阪府知事に就任した2008年にまで遡ることができるものでした。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、橋下氏からの訴えを逆利用する図太さを持つ大石氏の人となりを詳しく紹介。さらに橋下氏がかつて女性記者を逆質問で完膚なきまでに叩きのめした囲み取材の様子を誌上に再現するとともに、同氏が起こした訴訟の是非を考察しています。
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橋下徹氏に訴えられた大石あきこ氏とは何者か
大石あきこ衆院議員(れいわ新選組)の得意技といえば、日本維新の会をぶった切ることだろう。
維新副代表の吉村洋文大阪府知事のことを、「とんでもないペテン師が知事やっとんな」などとツイッターに投稿したのが代表例だ。
いやだから、吉村知事が衆議院議員だった当時、2015年10月1日にわざわざ辞める日を選んで、たった1日の退職日で文通費100万のみならず公設秘書、ほか様々もらえた公金について、さっさと領収書公開してから言え。
全然「ブーメラン反省」してへんがな。
とんでもないペテン師が知事やっとんなしかし。 https://t.co/VPELavJ52R— 大石あきこ れいわ新選組 衆議院議員 (@oishiakiko) December 8, 2021
昨年10月31日の衆院選で初当選した議員にも10月分の文通費100万円が満額支給され、それはおかしいと、吉村氏ら維新あげて見直しキャンペーンに及んだまではよかったのだが、実は吉村氏こそ、かつて衆院から大阪市長にくら替え出馬したさい、一日の在職で1か月分の文通費100万円をまるまるもらって疑問を抱かなかった人物であることが、大石氏の指摘で明らかになった。
その大石氏が、維新の創設者である橋下徹氏に名誉棄損で訴訟を起こされたのは、昨年12月17日の日刊ゲンダイに掲載されたインタビュー記事がきっかけだった。
なぜ大阪では吉村知事の人気が高いのかという問いに対し、大石氏は「テレビの影響が大きい」と断言、メディアを脅したりすかしたりして手なずけた人物として、橋下氏の名をあげた。
「橋下元知事は気に入らないマスコミをしばき、気に入らない記者は袋叩きにする、ということを丁寧にされていました。新聞社に対しても『あの記者どうにかせぇ』『あの記者やったら、おたくは外す』と。その代わり、『言うことを聞くんやったら、特別の取材をさせてやる』とか、それはやっちゃだめでしょということまで平気でやっていた。飴と鞭でマスコミをDV(ドメスティック・バイオレンス)して服従させていたわけです」
新型コロナの状況を伝える名目で吉村知事が大阪のテレビ局にしばしば出演し、タレントらと和気あいあいのトークを繰り広げたことが、視聴者にいいイメージを抱かせたのは間違いない。コロナ対策がうまくいっていないにもかかわらず、なぜか吉村知事に批判の矢が降り注ぐことはなかった。
大石氏は、メディアが維新に対して弱腰になった原因をさぐるうち、橋下氏のメディア対応に源流があると思い当たったのだろう。
この記事に対して橋下氏は「弁護士、コメンテーターとしての社会的評価を強く低下させた」と主張し今年2月、大阪地裁に訴えを起こした。
しかし、橋下氏の提訴を逆に利用する図太さが、大石氏にはあった。「#大石あきこ橋下徹に訴えられたってよ」。そんな、ハッシュタグ付きのフレーズで、Twitter投稿を繰り返し、世間にその事実を広げたのだ。
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大石氏側の弁護団に「無罪請負人」の異名を持つ弘中惇一郎弁護士が加わったのも、話題性があるからこそだろう。弘中弁護士は5月27日に開かれた第二回口頭弁論報告集会で、こう語った。
「橋下氏が府知事、市長をしていた当時に、メディアの記者を脅しあげて、それでメディアが委縮してしまった。そこにそもそもの原因があると大石さんは言った。それになぜか橋下氏がかみつき、面白いことに自分はメディアとの関係は優等生と言っている。だから、いかに橋下氏が劣等生だったかを立証すると名誉棄損は成立しなくなる。そういう構造の裁判だ」
法廷における主張で、大石氏側の弁護団は、ネット動画やTwitterなどに残る橋下氏の攻撃的な記者会見を、ターゲットとなった女性記者二人の実名とともに、証拠として示したようだ。
おそらく、2012年5月8日の囲み取材動画はそのうちの一つだろう。
毎日放送が府立高校の校長に行った「君が代の起立斉唱」アンケートの結果をもとに、同放送局の女性記者が、一律に「君が代」を歌うよう強制することについて橋下市長の考えを聞こうとしたところ、市長は質問に答えないどころか、逆に記者に対して質問をしはじめた。
橋下氏 「起立斉唱命令は誰が誰に対して出しているんですか。まず事実確認から入りましょう」
記者 「市長がよくご存じじゃないですか」
橋下 「命令は誰が出したんですか」
記者 「市長がご存じのことを私にたずねてらっしゃるわけですよね。それはおかしい」
橋下 「知らないのに質問なんかできないじゃないですか」
大阪府と大阪市では、大阪維新の会の主導で2011年、国旗国歌条例が制定され、「君が代」斉唱時に職員の起立斉唱を義務付けている。この囲み会見より少し前、大阪府立和泉高校の卒業式で校長が「君が代」斉唱の際に教職員の口元を見て歌っているかどうかをチェックしていたことが問題になっていた。
軍国教育への反省から戦後、「君が代」と「日の丸」は、いったん学校教育の場から消えたが、50年代に学習指導要領で復活した。憲法の保障する「思想・良心の自由」からみて、「君が代」を歌うよう強制することがいいのかどうか。教員の間でも意見は割れている。
何度も繰り返し「誰が命令を出したのか」と問う橋下市長に、記者は「中西教育長」「教育委員長」と答えるが、いずれも橋下氏は否定して以下のように続ける。
「誰が決定機関なんですか、そんなことも知らずに取材なんか来るんじゃないですよ。何の取材をしに来てるんですか。命令の主体を知らないのに、なんでこんな取材ができるんですか」
そして、正解を言わないまま、こんどは「じゃあ誰に対して命令を出したのか言ってください」とたたみかける。市長ペースから抜け出そうと、記者は「思想良心の自由」の問題に話を移そうとするが、市長は譲らない。
「命令の対象をまず言いなさい。答えられないんだったらここに来るな」「事実関係も知らないのに取材するなって。勉強不足なのはみんなわかっている」
剣幕はエスカレートした。だが、とどのつまりは、「教育委員会から全教員に(命令が)出されている」。ゆえに、「教育委員会に聞いたらいいじゃないか」と記者の質問から逃げるのである。それも、「教育委員会と首長の権限分配を言ってみなさい、地方教育行政法の24、25条に書いてあるから」などと高飛車に御託を並べて。
だったら、最初から「起立斉唱については、僕が命令の主体じゃないので、教育委員会に聞いてください」と言えばいいだけのこと。実りのない問答に20分も30分もかける必要はない。
その場にいた他の記者たちはどう思っただろうか。自分に重ね合わせ、こんな目にはあいたくないと感じるのが人情というものだろう。
筆者はとくに起立斉唱の問題に関心があるわけではない。この動画が、記者会見においてとかく行き過ぎになりやすい橋下氏の発言ぶりを最も端的に物語っていると思ったから取り上げたまでである。
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橋下氏は記者会見に関して基本的にオープンではあった。「囲み取材」の映像がユーチューブにアップされ、今でも自由に見ることができるのは橋下氏の方針も寄与しているに違いない。
数多くの会見動画を改めて見てみると、橋下氏はしばしば逆質問という手法によって、記者の固定観念を粉砕しようとしていた。役所とメディアが馴れ合ってきた記者クラブ制度に風穴を開けるべく、あえて喧嘩をふっかけた橋下氏の奮闘には、ある意味、敬意を表すべきであろう。
だが、やり過ぎは、逆効果も生む。橋下氏を論破できるほど迫力のある記者がいなかったのは残念だが、記者クラブに橋下氏が期待するほどの知的レベルと肝っ玉を有するメンバーがそうそういるとも思えない。しょせん、大声で威圧されれば、道理さえ引っ込める普通の人々なのだ。大石議員がこういう会見風景を見て、「メディアが委縮した」と受け取ったのも、無理からぬところがある。
かつて大阪府庁の職員だった大石氏は、府知事に就任直後の朝礼で職員に檄を飛ばした橋下氏に対し、「ちょっと待ってください。どれだけサービス残業やっていると思っているんですか」と噛みついた。そのシーンは再三、テレビで放映されたので、記憶にある方も多いだろう。
昨年の衆院選でれいわ新選組から立候補、初当選を果たし政界にデビューしたが、橋下氏にすれば天敵のような存在に違いない。
それゆえ、橋下氏や維新に対する大石氏の意見はとりわけ手厳しいわけで、その分は割り引いて見ておくべきだろう。
たとえば、橋下氏が新聞社に「言うことを聞くんやったら、特別の取材をさせてやる」などと言っていたという大石発言。関係者から聞いたのかもしれないが、真偽を確認するのは難しい。
橋下氏は2月20日のTwitter投稿で「僕が自分に都合の良いメディアに利益供与し、不都合なメディアには不利益を与えていたというメディア人はいないと確信している」と否定しており、橋下氏側は今後の公判でこの点を突いてくるだろう。
メディア人で僕を嫌う人は多いだろう。喧嘩ばかりだったから。しかし、僕が自分に都合の良いメディアに利益供与し、不都合なメディアには不利益を与えていたというメディア人はいないと確信している。あくまでも公正に対応。質問がなくなるまで答えていたから。大石氏の国会議員の資質を問うのみ。
— 橋下徹 (@hashimoto_lo) February 20, 2022
だが、総じて言うなら、大石議員の発言はあくまで、橋下氏のメディア対応とその影響についての見方と評価を示したものと受け取れる。橋下氏はそれを誹謗中傷と感じ、訴えを起こしたのだろうが、少なくとも大石氏の見方が根も葉もないとまでは言えないのではないか。
最近、松井大阪市長がタレントの水道橋博士さんのTwitter投稿に激怒して訴えたこともあり、訴訟で脅すのは維新の体質そのもの、などという声が上がっている。うっかり批判もできないほど怖い存在と見られるのは、維新にとっても好ましいことではないだろう。
人の世に争いごとはつきものだが、昨今の世知辛さはひとしお身にしみる。「ソショウガアレバツマラナイカラヤメロトイヒ」(宮澤賢治)。そう諭してくれる大人も政界には見あたらない。
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image by: 大石あきこ - Home | Facebook