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「56」「63」「82」。参議院選挙における与党3つの勝敗ラインとは

545名の候補者により125議席を巡り争われている、第26回参議院議員通常選挙。7月10日に投開票が行われるこの選挙については、「無風」「与党圧勝」などと報じられていますが、我々有権者はどのように投票行動を取り、どんなポイントに注目すべきなのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、衆院選とは異なる参院選の仕組みと、与党の3つの勝敗ラインを解説。さらに海外紙が伝えた「日本の民主主義のレベル」を紹介するとともに、現職議員が居座る弊害を論じています。

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参院選までまもなく 選挙の仕組みと投票方法 世界で相次ぐ政治変動と日本のゆくえは?

7月10日の参院選の投開票まで、あと2日。大手のメディアなどの序盤の情勢調査では「与党圧勝」の予測がほとんどだ。

自民党と連立を組む公明党の山口那津男代表は自信と余裕をにじませる一方、対する野党は第一党の座を、立憲民主党の泉健太代表をはじめ、日本維新の会の松井一郎代表が競り合っている。

続き、日本共産党の志位和夫委員長、国民民主党の玉木雄一郎代表は、独自の立場で組織固めを行っていく(*1)。

れいわ新選組の山本太郎代表、社民党の福島瑞穂党首、NHK党の立花孝志党首が国政政党としての生き残りをかける。

参議院議員の任期は6年で、3年ごとに議員の半数が改選される。これは、議院の継続性を保つとともに、国会の機能の空白を防ぐことを目的とする(*2)。

参議院は、衆議院のように解散はない。2018年の公職選挙法の改正により、翌2019年の参議院選挙から定数が「3」増えて、「245」になった。

参議院選挙は3年ごとに半数が改選されるため、今回の選挙でも「3」増える。よって、合計「6」増の「248」となる。定数が増えた理由は、選挙区では1票の格差を是正するため。

議員1人あたりの有権者が最も多い埼玉選挙区で改選議席が「1」増えた。比例代表議席でも、今回の改選で「2」増える。結果、今回の参院選では改選数は248の半数となる、選挙区74・比例代表50の124議席を争う。

また、神奈川県選挙区で欠員となっている、非改選の1議席の選挙も同時に選ばれることになるため、125人が選出される。

目次

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選挙の仕組み

私たち有権者は、投票所において「選挙区」と「比例代表」の2種類の投票を行う。このうちの選挙区については、投票用紙に候補者の名前を書いて1票を投じる。

選挙区は、原則、都道府県単位だ。しかし1票の格差を是正するために、前々回の6年前の2016年の選挙から、「島根と鳥取」「徳島と高知」とをそれぞれ一つの選挙区とする「合区」が実施され、選挙区の数は45となった。

改選される議席の数は、定数1の1人区が32、2人区4、3人区4、4人区4、そして最も多いのが東京選挙区の6人区。

比例代表については、投票用紙に政党や政治団体の名前、あるいは候補者の個人名のいずれかを書いて投票。改選される議席数は50。

比例代表の場合、政党名と個人名の票の合計が、政党の得票数となり、その得票数に応じ、「ドント式」と呼ばれる計算方法で議席が配分される。

各政党の各議席のなかで、どの候補者が当選するかは、原則、個人名に投票が多い順番で決まる。

参議院の選挙は衆議院選挙と異なり、比例代表の候補者の名簿に順位がつけられていない。これを「非拘束名簿式」という。

しかしながら、前回の選挙から候補者個人の得票に関係なく、あらかじめ政党が決めた順位に従って優先的に当選者が決まる「特定枠」が設定された。

「非拘束名簿式」とは、参議院の比例代表は、各党が獲得した議席の枠の中で、名簿にある候補者は獲得した個人名による票の多い順に当選する仕組みのこと。

しかし「特定枠」が、この非拘束の候補者の名簿とは切り離し、政党が「優先的に当選者となるべき候補者」に順位をつけた名簿をつくる。

この特定枠の候補は、個人名の得票に関係なく、名簿の順番通りに当選者が決まる。

ただ、この特定枠を実際に使うかどうかは、あるいは使う場合、何人に適用するかについては、各政党が自由に決めることができる。

前回の2019年選挙時には、3つの政党・政治団体から合計5人が特定枠として立候補、そのうち4人が当選した。

しかし、この特定枠の候補者は選挙事務所を設けたり、選挙カーを使ったりするなど、個人としての選挙運動はできない(*3)。この特定枠に候補者の名前が書かれた場合には、その政党の有効票となる。

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与党3つの勝敗ライン 「56」「63」「82」

今回の選挙において、自民党と公明党の与党が見据えるのは、非改選議席を合わせた過半数の「56」議席だ。

さらに、今回改選される125議席のうち、過半数の「63」議席を与党、あるいは自民単独で確保できるのかも争点となる。

そして、改憲勢力が、3分の2を維持するための「82」の議席を獲得できるかも焦点に。参議院の定数は、今回3議席増えた248となり、その過半数は125。

自民党と公明党は、まず「非改選を含めた与党で過半数」を勝敗ラインに据えた。

すでに自民党は非改選で55、公明党は14の計69議席を保持しており、今回、自公合わせて56議席を獲得すれば、目標の過半数に届く。

また、今回の選挙で13議席まで減らしても、目標ラインに到達でき、低いハードルともいえ、万が一苦戦した場合も想定した形となった(4)。

他方、今回争われる125議席のうち、過半数の63議席を自公で獲得するためには、現有議席から6議席減までにとどめなくてはならない。

最大の注目となるのは、自民党単独で過半数に到達できるかで、それには現有議席の55から8議席、積み増しをする必要がある。

ここまで議席を獲得すると、自民党が「有権者の信任を得たことを意味し」(西日本新聞6月22日付朝刊)、岸田首相の求心力が高まり、今後の政権運営は安定するだろう。

対する野党はどうか。立憲民主党は、

「野党による改選過半数」(泉健太代表)

を目指すという。すなわち野党全体で、63議席に確保を目指す。

岸田首相は、任期中の憲法改正を掲げている。現在、参議院は自公と日本維新の会、国民民主党を合わせた改選勢力は、すでに3分の2を越えている。今回の選挙で、新たな定数248で改憲に必要な3分の2のラインは166議席。

以上の4党に加え、与党系無所属の橋本聖子氏を加えた非改選議席がすでに84あり、あと82議席あれば、ここまで到達する。そのため、今回の選挙のゆくえ次第では、改憲案の発議に向けた議論が加速する可能性も。

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世界で相次ぐ政治変動 対して日本は?

昨今の国際情勢を受け、世界各国では政治変動が相次いでいる。たとえば、フランスやドイツ、イギリス、南米のコロンビアなどだ。

6月19日に行われたフランスの総選挙(下院・国民議会選、定数577)の決選投票では、マクロン大統領率いる「共和国前進」を軸とする中道の与党連合が過半数(289)を大幅に下回る敗北を喫した。

一方、左右両極の勢力が大きく躍進する。与党連合は、前回(350議席)から100議席以上減らした。

イギリスでは、2つの選挙区で6月23日、保守党現職の辞任と収監による下院議会の補欠選挙があり、双方で与党である保守党が敗北した。

ジョンソン首相は新型コロナウイルスの感染拡大抑止のためのロックダウン期間中に首相官邸で飲酒をともなうパーティーを繰り返していたことが判明、昨年末から批判の嵐だ。

ドイツでは、西部のノルトライン・ウェストファーレン州で5月15日に投開票された州議会選挙で、ショルツ首相の所属する中道左派のドイツ社会民主党(SPD)が敗北。物価高をめぐる市民の不満の高まりや、ウクライナ情勢への対応の混乱が背景にあるようだ(*5)。

政治変動は先進国以外にも波及。南米のコロンビアで6月19日、大統領選挙の決選投票が行われ、元左翼ゲリラで首都であるボゴダの市長も務めた左派のグスタボ・ペトロ上院議員(62)が勝利を収めた。

結果、コロンビアで初めて左派政権が誕生することとなった。

日本はどうか。昨年の衆議院総選挙終了時、ニューヨーク・タイムズはこう書いている。

「最初から結果が見えている選挙」というと、ロシアやイラン、香港などを思い浮かべる人が多いと思う。

 

しかし、議会制民主主義を採用し、世界第3位の経済大国である日本では、1955年以来、4年間を除いてずっと同じ政党が政権を握っている。

(大門小百合、2021年10月22日(*6))

日本の民主主義はロシアやイランレベルだそうだ。自民党政権が長期に続いた結果として、我々は確かに安定を手にした。しかし、「安定」と「成長」とは、明らかに違う。

さらに現職の政治家が居座ることの弊害は大きい。新規参入が進まず、とくにこのことは女性議員の参入を拒む要因ともなる。

■引用・参考文献

(*1)泉宏「与党圧勝予測の参院選で注目、生き残る党首は誰?」東洋経済ONLINE 2022年6月28日、

(*2)「参議院選挙の仕組み」NHK 選挙WEB 2022年6月15日

(*3)「特定枠とは・合区とは」NHK 選挙WEB 2022年6月15日

(*4)西日本新聞6月22日付朝刊

(*5)「ドイツ最大州でも選挙敗北 ショルツ与党に打撃」日本経済新聞 2022年5月16日

(*6)大門小百合「日本の政治は「ロシアやイラン」並み…世界のメディアは総裁選・衆院選をどう報じているか」PRESIDENT Online 2021年10月22日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年7月2日号より一部抜粋)

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image by: Ned Snowman / Shutterstock.com

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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