あまり意識されている方は多くないかもしれませんが、日本には複数の種類の年金が存在します。では、それらを同時に貰えることはあるのでしょうか?そんな疑問に詳しく答えてくれるのがメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』。著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、複数受給について事例を交えて解説しています。
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昔はいろんな年金を貰えたのに複数受給禁止となったが、例外的に複数貰えてる事例。
1.昭和61年3月31日までの制度は複数の年金が貰えてたのに、突然昭和61年4月から禁止されてしまった。
年金には3つの種類が用意されており、老齢、障害、死亡という人生において起こると所得が得られにくくなるリスクを保障しています。
老齢になると働くのが困難になりますし、障害を負ってしまうとそれも所得が得られにくくなります。一家の大黒柱が亡くなると、その人の収入に頼っていた家族の所得がガクンと減る事になります。
年金というと老後に貰うものという認識が強いですが、比較的若い人も受給していたりします。それこそ未成年の子ですら受給者だったりするので、年金というのはかなり幅広い人に関係するものですね。
若い時に障害を負ったら障害年金を受給し、老齢になったら老齢の年金を受給し、配偶者が亡くなったら遺族年金を受給し…というようなパターンは意外とあるものです。
1人の人の人生において複数の年金の受給権が発生する事になってしまう事もありますが、年金というのは原則として1つの種類しか貰う事が出来ません。
どうして複数の年金を貰ってはいけないのでしょうか?
それは、どの種類の年金も一人の生活保障をするものだからです。
例えば障害を負って所得が得られなくなり、その後に障害年金を受給する事になりました。
さらに老後を迎えて老齢の年金受給権が発生しましたので、老齢で所得が得られにくい人の生活保障をします…となるとどうでしょうか。
障害で全く所得を得られないけども、障害年金が生活保障してくれるから助かってる人が老齢になったからって更に所得が得られにくくなってしまった!だからもっと年金受給させなきゃ!…という事にはならないですよね。
もちろん多少は影響するかもしれませんが、例えば働けない人が障害年金で生活保障されてるのに更に老齢になったからって老齢の年金で生活保障をしましょうとなるとどう考えても過剰な給付となってしまいかねません。
現在の日本は少子高齢化が止まらない中で、できるだけ給付が増大しすぎないように抑制されています。
給付を抑制する事で、年金受給者を支えている現役世代の人の保険料負担が大きくなりすぎないようになっています。
なお、現在の年金制度は平成16年改正により、保険料負担の上限を設けた上で、その入ってくる収入の中で給付をやりくりするようになっているのでこれ以上保険料負担の割合が増加する事は今のところありません。
支え手である現役世代の負担能力も考えて、年金受給者の年金が過剰にならないように配慮されているわけです。
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ちなみに年金制度が新制度になった昭和61年4月1日より前の年金制度は、複数の種類の年金が貰えるという事がありました。重複して受給できるケースもあったわけです。
新制度の前は違う種類の年金を貰うというのも存在しました。特に共済年金が貰える人は、重複して国の年金も貰うようなケースがありました。
ところが、昭和40年代まではひたすら年金額を引き上げていった弊害で、いざ昭和48年の石油危機という大きな不況が襲い掛かってきた時に、昭和50年代になると年金額は抑制していかなければならないようになりました。
昭和50年代になると国の財政は赤字に転落したので、なんとかして無駄を削減しなければならない状況になりました。
この辺の経緯は今までも話してきた事なのでこの記事では割愛しますが、複数の年金を貰うというやり方もその時に見直される事になりました。
昭和61年4月1日の新年金制度になると「1人が貰う年金は1つの年金!(一人一年金の原則)」が徹底され、複数の種類の年金を貰うという事が出来なくなりました。
それまでは重複してもらえる年金があったりしたので、例えば厚生年金からの障害年金と国民年金からの老齢年金が同時受給できたりしました。
今の制度は障害厚年と国民年金からの老齢基礎年金は同時受給は不可ですよね。
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※参考
昭和61年3月まで旧時代の厚生年金からの障害年金受給者は国民年金に強制加入ではなく、任意加入扱いでした。
旧時代は「厚生年金制度から年金貰えるなら、国民年金に無理やり加入させなくてもいいよね」という考え方だったからです。
任意加入しなければカラ期間。
しかしながら国民年金に任意加入して保険料を払えば将来は国民年金が貰えるので、受給してる厚生年金からの障害年金受給者の人が積極的に任意加入していたりしました。
なお、旧時代の国年は老齢年金と呼び、新時代の国年からは老齢基礎年金と呼びます。
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そのため昭和61年3月までの制度の時は障害厚年受給者の人が、老齢の年金である国民年金も将来は受給するためにせっせと保険料を納めていた事がありました。
しかし、昭和61年4月からは法律が変わって突然に障害厚年と国民年金からの基礎年金は同時受給が不可になり、それまで頑張って国民年金保険料を納めていた人は期待を裏切られたわけですね。
突然、2つの年金は受給出来ませーん!ってなったので、今まで任意加入してでも国民年金払ってきた意味が薄れてしまいました^^;(もちろん障害年金は一生貰う年金ではない事も多いので、国年を支払っておく事は意味がある事ですけどね)
だからそれを慮ってか、今まで支払った国民年金保険料を返すという措置が設けられました(当時、特別一時金という)。
こういうエピソードもあったわけです。
ただし、老齢の年金の種類(老齢厚生、老齢基礎、退職年金等)、障害の年金の種類(障害厚年、障害基礎)、遺族年金(遺族厚生、遺族基礎)の種類などの同じ種類の年金は同時に受給する事が出来ます。
さて、現在は複数の種類の年金を貰うのはもちろん不可ですが、そうじゃない事もあります。
今回は障害年金と遺族年金と老齢の年金の3つを貰える人の事例で見ていきましょう。
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2.昭和61年3月までに厚生年金からの障害年金を受給するようになった。
〇昭和26年8月生まれのA子さんは現在は71歳です。
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20歳になる昭和46年8月時点では定時制の学校に通っており、昭和47年3月までの8ヶ月間は国民年金に強制加入でしたので納付。昼間学生以外は国民年金は強制加入でした。
昭和47年4月からは厚生年金に加入しており、その後の昭和51年2月中に発病した傷病により働く事がなかなか難しくなり、昭和52年7月中に厚生年金から障害年金を受給する事になりました。
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※参考
昭和61年3月までの障害年金は初診日ではなく、基本的に発病日を基準にしていました。新年金制度以降は初診日に統一。
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年金額は2級の約80万円を受給。
病気はこれ以上治る見込みがなかったので、永久に障害年金を受給する事になりました。(この障害年金は以下、旧障害年金という。昭和61年3月31日以前に受給権発生だから)
なお、厚生年金からの旧障害年金を受給する事になったので昭和52年7月からは国民年金保険料を支払う必要は無くなりました。
昭和52年12月までの6ヶ月間は何も国民年金に加入していませんでしたが、将来の事も考えて国民年金に任意加入する事にしました。少しでも老後の年金を増やすためですね。
昭和53年1月から昭和61年3月までの99ヶ月任意加入。
昭和61年4月からはそれまで任意加入だった人も、強制加入扱いとなり国民年金保険料の支払い義務が生じました。
ただし、A子さんは2級障害年金受給者だったので、強制になったと言っても法律上当然に国民年金保険料全額免除となる(免除の部分は追納して将来の老齢基礎年金を増やす事もできる)。
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更にA子さんが驚愕だったのは、それまで厚生年金からの旧障害年金と国民年金の同時受給可能だったのが不可となった事でした。
同時受給を期待して任意加入して国民年金の保険料支払っていたのに…という、不満に対応するために国は特別一時金という制度を設けました。
それにより、今まで支払った任意加入分の国民年金保険料を返してもらうための特別一時金請求をして99ヶ月分の一時金を受給しました。
そのため、99ヶ月はカラ期間となる。
その後はA子さんは60歳になった時に老齢厚生年金の受給権が発生しましたが、複数の年金を同時に受給する事は不可なので旧障害年金とどちらか有利なほうの選択となります。
65歳以降は「旧障害年金」と、「老齢厚生年金+老齢基礎年金」のどちらかを選択して受給します。
(年金計算は省きます)
3.障害年金と遺族年金、老齢の年金の3種類を同時受給
〇昭和22年4月15日生まれのB子さんは現在は75歳です。
20歳になる昭和42年4月時点では短期大学に通っており、昭和43年3月までの12ヶ月間は任意加入でしたが加入しなかったのでカラ期間となりました。
昭和43年4月から昭和57年11月までの176ヶ月間は厚生年金に加入する。
なお、この間の平均給与は23万円とします。
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(『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年7月20日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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