電通「1強」体制の象徴 オリンピックのスポンサー体制の原則「1業種1社」をぶち壊す
高橋容疑者は五輪・パラリンピックの「スポンサー集め」にも関与していたが、その手法からして異例。
これまでの大会の原則は1業者1社。しかしながら、東京大会では、同じ業種の複数社が併存できる仕組みをよしとし、IOC(国際オリンピック)の了承を取り付けた(*6)。
「例えば、電機業界でもNECは「顔、指紋認証などの安全技術」、富士通は「データを扱うサーバー」と契約カテゴリーを分け、ともに国内最高位の協賛社に。
最終的に、国内スポンサー収入で史上最高の約3,700億円を生み出した」(西日本新聞2022年8月16日付朝刊)
五輪・パラリンピックにかかわらず、海外の広告代理店業では1業種1社が基本。
たとえば一つの代理店がトヨタの広告を扱うならば、日産の広告は扱わないという慣習がある。それは、代理店を通じて同業他社に情報が漏れないことを防ぐため。
ところが、日本の広告業界ではそのような、海外では当たり前の商習慣が徹底されず、結果、電通という巨大ブラック・ガリバー企業を生み出すようになった。
東京大会では、電通をめぐるさまざまな不祥事が浮き彫りに。エンブレムの選定では専門家任せの密室選考が問題の一因に。
開閉式の演出を担った電通出身の佐々木宏氏は、女性タレントを侮辱する内容の演出を提案してことが発覚、辞任した。
そもそも五輪の開催費用は“奉仕”の精神のもと開催費用は自国負担が大原則 マーケティングの結果、「電通の、電通による、電通のためのオリンピックに」に
基本的にオリンピックというものは、「開催費用の自国持ち出し」が原則だという説もある(*7)。
五輪・パラリンピックの開催国(ホスト国)は、自らの利益を度外視したうえで、オリンピック憲章に則ったオリンピズムの精神への支持を明確にし、そのうえで開催費用を自国が持ち出す。これが開催国の務めだという。
オリンピック憲章は、冒頭で精神と肉体のバランス、平和主義、差別の撤廃などを謳う。それは、オリンピズムとはなにかを明示したもの。
この考えに賛同したうえで、オリンピズムの精神をさらに発展させることための“覚悟”のある都市だけが、五輪の開催国のなる資格を持つことができるとする。
1960年代以降、オリンピックは常に“政治化”された。1968年のメキシコシティ大会では黒人差別を訴える場に、1972年のミュンヘン大会では、イスラエル選手団に対するテロ事件が、1980年のモスクワ大会では西側諸国がボイコットするにいたった。
それとともに、五輪も「冬の時代」へ。1976年の夏季大会では、大幅な赤字を出し、その後も夏季・冬季大会ともに立候補都市が1~2都市という時代が続く。
それを打開するための手段がオリンピックの“商業化”であった。その指南役が高橋容疑者であり、電通であったのだ。
■引用・参考文献
(*1)西日本新聞 8月18日付朝刊
(*2)西日本新聞 8月18日付朝刊
(*3)西日本新聞 8月18日付朝刊
(*4)最上和喜、飯田憲、加藤佑輔、北村秀徳、遠山和宏、小林悠太、田原和宏「『W杯は俺が呼んだ』 剛腕元五輪組織委理事、原点は『ペレ』興行」毎日新聞 2022年8月19日
(*5)毎日新聞 2022年8月19日
(*6)西日本新聞2022年8月16日付朝刊
(*7)「間違いだらけの2020年東京五輪」ビデオニュース・ドットコム 2016年9月3日
(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年8月27日号より一部抜粋・文中一部敬称略)
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