整体やカイロプラクティック、脱毛といえば施術者を信頼し自分の体を預けるものですが、それらを開業するにあたり特別な国家資格は必要なく、実質的に野放し状態にあることをご存知でしょうか。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では投資コンサルタント&マネーアナリストの神樹兵輔さんが、無法状態の様相を呈しているリラクゼーション業界の実態を詳しく紹介。その上で、「利用はあくまで自己責任」と注意を呼びかけています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。)
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無資格で誰でも始められて事故続出! リラクゼーション業界の闇──整体・カイロ・リフレ・脱毛・エステ・痩身で事故被害に遭わないために!
みなさま、こんにちは!
「衰退ニッポンの暗黒地図」をお届けするマネーアナリストの神樹兵輔(かみき・へいすけ)です。
今回のテーマは、「リラクゼーション業界の闇」についてです。
街中では、「カイロプラクティック」「整体」「リフレクソロジー」「リラクゼーションセラピー」「エステティック」「足裏マッサージ」「タイ古式マッサージ」「クイック○○」…などの看板やチラシをよく目にします。
こうしたサロンの常連客になっている方も少なくないでしょう。
いずれも、10分1,000円単位での料金とか、結構な高額料金です。セット料金で数万円などもありますが、最近は60分2,000円などの格安業者も出てきました。
予約で一杯の繁盛店から閑古鳥の鳴く店まで、元手要らずの腕一本商売なので、お手軽開業も目立ちます。
住宅街でもカンバンを掲げ、施術ベッドひとつあれば開業コストも抑えられます。
高齢者宅への出張施術だけで稼ぐ業者なら、ネットにHPだけ作れば間に合います。あとはチラシを撒くぐらいです。
人柄がよく、そこそこの施術がお客に気に入られれば、儲かる商売だからです。
ちなみに施術者は何らかの国家資格を有していると誤解されがちですが、この手の施術商売に、そうした公的資格は一切ありません。
有資格者を標榜している場合でも、民間のトレーニング学校が勝手に作った、ハッタリを利かせることが目的の、無根拠の「民間資格」にすぎません。
ただのコケオドシの資格です。自分一人で勝手に独自資格を作り標榜している人までいます。
これらの業態は、憲法22条「職業選択の自由」の条文の下に、大らかに営業が許されているわけです。
基本的に保健所も厚労省も、管轄外の扱いであることには驚かされます。
なぜ「無資格」なのに人体に施術出来るのか?
本来、人の体に直接行為を及ぼすこと(揉む・押す・圧迫する・刺す・熱する)は、医師の他には医業類似行為の国家資格者(骨接ぎの柔道整復師・あんまマッサージ指圧師・鍼師・灸師)にしか許されていない行為でした。
これらは、医療行為として正式に国から認められているため、有資格者は、医師の同意があれば健保も使えるのです(料金は上限1,500円程度までの患者3割負担で、保険診療だけでは旨味なく、自費診療と併用しないと儲けが出ない)。
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「民間療法」としてなら何でも許される無法状態が蔓延!
では、「カイロプラクティック」「整体」「リフレクソロジー」「エステティック」「足裏マッサージ」「タイ古式マッサージ」といった業種は、何なのでしょうか。
これらは、「医業類似行為」と呼ぶほどではない「リラクゼーション」の扱いとなっているのです(「無届けの医業類似行為」と呼ぶ場合もあります)。
つまり、いわゆる「民間療法」というやつで、人体に害を及ぼさなければ、何だってやれてしまうのです。
そのため、変テコな、怪しい療法を名乗ってやっている人を時々見かけることがあるでしょう。施術者自身が自分で「〇〇式健康術」やら「〇〇施術」などと、勝手に標榜しているわけです。
ただし、届け出制の医業類似行為になる「マッサージ」という言葉を使っている「タイ古式マッサージ」や「足裏マッサージ」は違法になります。
名称を変えなければ、本来営業は許されない業態なのです。
もっとも、取り締まりの実態はほとんど聞きませんので、事実上これらの施術も、放置プレイ状態です。
医業類似行為者である「柔道整復師、あんまマッサージ指圧師・鍼師・灸師」といった国家資格者になるためには、最低3年間(大学は4年)専門学校で学び試験を受けなければなりません。人体の構造を学び、医学的見地での知識をもつことで、人体への施術が公的に認められている資格なのです。
しかし、いっぽうで無届けの民間リラクゼーション療法のほうは、手軽に開業できるのですから、ある意味、国家資格者の業務独占権を大幅に侵害している業態ともいえるのです。
無資格施術所では「怪我人」続出、重篤事例も多数!消費者庁や国民生活センターへの事故報告は年間200~300件!
当然ですが、事故も多発しています。
カイロプラクティックで頚椎損傷、整体で肋骨骨折、エステのフラッシュ脱毛で火傷…などです。
事故が起き、人体への損傷が明らかとする被害が訴えられると、警察が「医師法違反」で逮捕するという後処理対応になっています。
ただし、これらは明確な医師法違反に問えるものだけです。
たとえば、タトゥー専門店が、お客に入れ墨を施しても、医師法違反で逮捕されることはありませんが、重大な人体損傷があって、被害の訴えがあると、タトゥ─専門店もはじめて医師法違反として罪に問われるわけです。
施術によって、怪我を負ったり、体調不良に悩まされるようになっても、無資格施術所は、有資格施術所と異なり、保険にも未加入のため、補償もありません(無資格施術所対象の保険がそもそもない)。
何より、無資格施術所での事故を訴えても、「因果関係不明」で被害者は泣き寝入りになるケースが殆どなのです。
2017年には、フリーアナウンサーの生島ヒロシさんが、都内の無資格施術所で「おなかをへこませるマッサージ」を受け、肋骨を2本骨折したことがニュースにまでなりました。
これは、けっしてレアケースではないところに驚かされます。
消費者庁が公表している「法的資格のない施術による事故報告」は、2009年からの8年間で、1,483件にのぼります。
こうした事故による治療期間が1ヶ月以上に及んだケースは全体の16%、3週間から1ヶ月の治療が9%、1~2週間が9%など、長期にわたる治療を要するものも少なくありません。
被害の状況では、神経や脊髄の損傷が全体の20%(290件)、擦過傷・挫傷・打撲傷が16%(229件)、骨折が8%(122件)、筋・腱の損傷が7%(110件)……など、かなり危険な損傷となっています。
こんなに危険な無届けの医業類似行為が、なぜこれほどまでに野放しになっているのでしょうか。
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「最高裁判決」がお墨付きを与えてしまった!
1960年の最高裁判決が、「無届の医業類似行為が禁止処罰の対象となるのは、人の健康に害を及ぼす恐れのある業務に限定される」という判断を下したからでした。
これが錦の御旗となり、民間療法は、それをもってして事前に害を及ぼすもの──と決めつけることはできないという解釈になったわけです。
こうして、カイロも整体も、エステも、タイ古式マッサージも、堂々と営業が行われ、国家資格者のほうが、かえって割を食っている現状があるわけです。
もちろん、厚労省もまったくの無関心というわけではなかったのです。
厚労省はたまに「注意喚起」するだけの放漫対応!
1991年には、最も危険といわれるカイロプラクティックの施術に対し、健康政策局医事課長名で通達を出しています。
「カイロプラクティック療法における頸椎に対する急激な回転伸展操作を加えるスラスト法は、患者の身体に損傷を与える危険が大きい」として、警鐘を鳴らし禁止を促しました。
しかしながら、要するに、誰でも今日からこの手の商売ははじめられる状況──ということだけは認識しておきたいのです。
こうした業種にあっては、施術者が、人体の機能や構造をどこまで学んだかもわからない人たち──という認識であれば、過剰な期待をすることもなくなります。「自己責任」ということを忘れないことです。
ところでこの業界、高齢化社会やストレス社会を反映し、右肩上がりに伸びています。
副業としてアルバイトで従事する素人だけでなく、本気で脱サラして商売を始める人も多いのです。
たぶん、開業者に対して「施術のプロフェッショナル」と勝手に思い込む世間の人たちによる「麗しき誤解の産物」こそが、こうした状況を生んでいるのでしょう。
仰々しい宣伝をしているところ、もっともらしい医学的知見をアピールしているところ……いずれも無資格者が勝手にやっていることと、深く認識しておくことが大事でしょう。
騙されないように、気をつけて頂きたいのです。
今回はここまでとします。
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