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池田教授が考察。なぜ人間だけが宗教を信じ「カルト」にハマるのか?

仏教と神道の区別も気にせずざっくり家内安全や商売繁盛を願ってしまう多くの日本人にとって、私財をなげうつほど宗教に傾倒する人のことを理解するのはなかなか難しいもの。篤い信仰心が生まれるとき、脳の中では何が起きているのでしょうか。今回のメルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』では、CX系「ホンマでっか!?TV」でもおなじみ、生物学者の池田清彦教授が、大きくなりすぎたヒトの脳の中に、神を感じる領野があるとの研究を紹介。カルト団体がセミナーや勉強会と称し脳を酷使させるのは、その部位に刺激を与え活性化させるためと、洗脳の手法を科学的に解説しています。

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なぜカルト宗教にはまるのか?

安倍元首相殺害の山上容疑者は、母親が家族を顧みずにのめり込んだ統一教会に肩入れしていた安倍元首相が許せなかったとのことだが、一部の人はなぜカルト宗教に夢中になるのだろうか。山上容疑者の母親は、統一教会に入信する前にも「朝起会」という宗教にはまって、子どもを放り出して朝早くから宗教の集まりに出かけていたようだ。

この母親はよく夫に怒鳴られていたというので、夫から逃げたい一心で宗教に夢中になったという面もないわけではないだろうが、夫がノイローゼになって自殺した後も、行動を改めることもなく、夫の遺産を全部統一教会にお布施として差し出しており、お布施の総額は1億円にも上るとのこと。家庭は極貧になり山上容疑者の兄も自殺し、山上容疑者も大学に進学するお金がなくて高卒で終わっている。

山上容疑者が逮捕された後も、この母親は信仰をやめないようで、なぜそこまでカルト宗教にはまるのか理解に苦しむ、というのがごく普通の反応だろう。敬虔な宗教家であっても、実の子供を犠牲にしてまで入れ込む人はまずいない。この母親の脳は、相当いかれているのだろうと思わざるを得ない。

そもそもなぜ一部の人はとことん宗教を信じるのか。人間以外の動物には宗教といったものはない。宗教は、動物に比べて大きくなりすぎたヒトの脳が作ったファンタジーだからだ。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教(これらの宗教の起源は同一で、ユダヤ教からキリスト教が派生し、キリスト教からイスラム教が派生した)などの世界宗教になった一神教の起源は、高々3300年前である。

これは独裁的な帝国の出現と軌を一にしている。その前にも宗教はもちろんあったが、主としてアニミズム的な多神教で、一神教は稀であったと思われる。絶対神は独裁的な帝国のもとで、この世に絶望した奴隷状態の人々が死後のバラ色の世界を夢想したことと強い相関があることは間違いなく、それ以前の狩猟採集生活をしていた人類は、現世の暮らしにそれほど絶望していたわけではなかったので、極端な一神教は発生しなかったのであろう。

現在の欧米諸国のカトリックやプロテスタントを信じている人々の多くは、別に現世に絶望しているわけではないだろうけれども、キリスト教徒であるのは、自分が暮らしている社会のマジョリティの習慣を守る方が無難だからだ。いわば、信仰はフリみたいなもので、生活をなげうってまで信心を徹底する人は稀だ。日本ではマジョリティは無宗教なので、多くの人は無神論者か形ばかりの仏教徒である。

その中で、カルト宗教に憑りつかれる人は、神にすがることで、現世の苦しさから逃れたいのだろう。もちろん、現世に絶望していても神にすがらない人もいるので、神にすがる人は、脳の中で、何か特殊なことが生じていると考えざるを得ない。どうやらヒトの脳の中には神を感じる領野があるようなのだ。

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V.S.ラマチャンドランの名著『脳の中の幽霊』(角川書店)には、自分の側頭葉を磁気で刺激して神を感じた研究者の話が出てくる。また、側頭葉てんかんの患者さんの中には、神を感じる人がいるようだ。

私は数多くの患者が「神々しい光がすべてを明るく照らしていた」あるいは、「究極の真実は、平凡な人間には決して手の届かないところにある。そういう人たちは日常生活のあれこれにどっぷり浸りすぎて、究極の真実の美しさや壮大さに気づかない」といった話をするのを聞いてきた」(同書p.229より)

側頭葉に磁気刺激を与えられた人や側頭葉てんかんの患者さんではなくとも、この部位が活性化すれば、神を感じたりすることはありそうだ。どうやら神は左側頭葉のシルビウス溝に宿っているらしい。前記の本には、側頭葉に磁気刺激を受けて神を感じたという話を聞いたラマチャンドランが、「その装置をフランシス・クリックに試してみるべきかもしれないぞ」とにやりと笑って言った、という記述がある。フランシス・クリックとはもちろんジェームズ・ワトソンと共にDNAの二重らせん構造を発見した生物学者で、無神論者と喧伝されていた人物で、この本が書かれた当時まだ存命であった。

この記述から、ラマチャンドランが、無神論者の神を感じる脳領域は活性化しておらず、何らかの手段で活性化してやれば、神を感じるに違いないと考えていたことが分かる。シルビウス溝が活性化しなければ、神を感じることはないが、何らかの刺激で活性化すると、神が降臨してきたという感覚にとらわれることは、神の啓示を受けて教祖になった人が沢山いるということからも確かだと思われる。

それでは、シルビウス溝は磁気刺激以外ではどんな時に活性化するのだろう。よく知られているのは集中治療室で治療を受けている時や、死にかけた事故の直後、薬物でトリップしている時、あるいはすさまじい修行をして、精神がトランス状態になっている時などである。カルト宗教が人々を洗脳して、入信させる際に、セミナーとか勉強会とか称して、脳を酷使させてトランス状態に導こうとするのは、シルビウス溝を活性化させて、神を感じさせる(あるいは神秘体験をさせる)ためである。

シルビウス溝の活性化が報酬系や扁桃体と結びつくと、ドーパミンが分泌され、極めて強い快感が生じ、いわゆる宗教的な法悦に浸っている状態になるわけだ。単純に言えば宗教依存症になった状態である。ひとたび、ある刺激-報酬系の経路が確立されると、これを元に戻すのが難しいのは、アルコール依存症、ニコチン依存症、セックス依存症、ギャンブル依存症などの例を見ても明らかなので、一度カルト宗教に引きずり込まれた人を改心させるのは、なかなか難しい。 (『池田清彦のやせ我慢日記』2022年9月9日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)

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