異なる意見に対して一切の聞く耳を持たず、時に異常なまでの攻撃性を露わにした安倍元首相。憲政史上最長の首相在任期間を記録した安倍氏ですが、彼には決定的に欠けていたものがあると指摘する識者もいます。今回のメルマガ『佐高信の筆刀両断』では著者で評論家の佐高信さんが、過去の優れた経営者が備えていたという、安倍氏に不足していた「考え方やものの見方」について考察。そんな安倍氏が3度目の首相登板を視野に入れていたという情報を、驚きと呆れを持って伝えています。
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安倍晋三に欠けていた左派的見解
『文藝春秋』の10月号に元NHKの記者で安倍晋三の代弁者と言われた岩田明子が、安倍は3度目の総理登板を考えていたと書いている。
退陣から1ヵ月ばかりの一昨年の9月30日、安倍は岩田にこう言ったというのである。
「第3次政権に向けて、そろそろ始動という感じかな」
そして今度の参院選で、安倍の秘書官だった井上義行が統一教会に「祝福」を受けたとの情報について尋ねると、安倍は「私自身はさほど関与していないから…」と答えたという。
第3次政権を考えていたというのにも驚くが、「さほど」にも、その自覚のなさに愕然となる。
野上忠興の『安倍晋三 沈黙の仮面』(小学館)によれば、安倍は学生時代、真っ赤なアルファロメオで通学していた。
成蹊大学を出て南カリフォルニア大に留学した安倍は極端なホームシックにかかり、コレクトコールで毎晩のように実家に電話をかけてきた。それが月に10万円にもなるので、父の晋太郎が怒って「何を甘えているんだ。それなら日本に戻せ」と声を荒げたとか。
こんなボンボンが2度も首相をやり、3度目をも考えていたという日本はどんな国なのだろうか。よほど人材がいないのか。
安倍に決定的に欠けているのは左派的見解である。生活困窮者の姿が見えていないから仕方ないのかもしれないが、例えば経営者でも秀れた人はそれを備えていた。例えば岩井産業(現双日)の岩井雄二郎や南海電鉄の川勝伝である。
戦後まもなく、中国の延安から日本共産党の野坂参三が帰って来て、中国問題の懇談会を開いた。その大阪での会合に、岩井は川勝らと共に出席している。50人ほどの参加者のほとんどが共産党の関係者で、財界人は5人ほどだった。
クラレの大原総一郎を含めて、これらの人たちは「財界左派」などと呼ばれたが、川勝は平気で私にこう言った。
「左派的見解がないと、この世の中の動きを判断できないでしょう」
自分に反対する者たちを「あんな人たち」と呼んだ安倍に「左派的見解」はない。
岩井はこんなことも言っている。
「私は自由貿易思想というより、反ケイジアン思想です。いよいよここにきて、ケインズ先生何を言っているのか、と言いたくなります。むしろ、マルクス派の先生方、例えば大内力氏とか、木村禧八郎さんなんか、僕は非常に考え方が合いますね」
木村は社会党の議員もやった。
岩井によれば、フランスでは、社長室の本棚にマラルメの詩集やカミュの小説が並んでいる。残念ながら、この国ではそんなことはない。せいぜい、社史などが並んでいるだけである。
※ 文中敬称略
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