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高齢者より若者の支持。岸田政権が安倍氏の国葬を強行する裏事情

賛否両論かまびすしい議論が交わされている、安倍元首相国葬の是非。ここまで多くの国民が反対の声を上げる中、なぜ岸田政権は国葬を強行するのでしょうか。今回のメルマガ『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』では著者でジャーナリストの伊東森さんが、世論調査により明らかになった「年代別国葬支持率」に注目。そこから透けて見える、国葬を敢えて行う「自民党の思惑」を考察しています。

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岸田首相はそれでも国葬を強行する そして“世代間対立”で分断を煽る

安倍晋三元首相の国葬についての議論が収まらない。政府は6日、国葬の費用のうち、警備費や外国要人への接遇費などに合計約14億1,000万円の支出が見込まれるとの概算額を公表。

すでに支出を決めている会場の設営費など約2億5,000万円を含めた総額は計16億6,000万円となり、当初公表していた予算の6.6倍となった。

政府は警備費などについては、国葬実施後に明らかにするとしていた。しかし、世論や野党の批判を受け、一転して公表。

6日、松野博一官房長官は記者会見で、約14億1,000万円の内訳について、各道府県警から派遣される警察官の旅費や待機所を借り上げる費用として8億円程度、海外の要人の接遇などにかかる経費として6億円程度とする。

ただ、元警視庁公安部の捜査官でセキュリティーコンサルタントの勝丸円覚氏は東京新聞(9月7日付朝刊)の取材に対し、

「安倍氏が銃撃で死亡したことや多数の外国要人が参列することを考えると3万~4万人の警備体制も想定される。警備費8億円では収まらないのではないか」

と指摘。

根拠として、約3万人の警備体制だった1989年の昭和天皇の葬儀「大喪の礼」における警備費が約24億円であったことを挙げる(*1)。

安倍元首相の国葬は9月27日の午後、東京都千代田区の日本武道館で執り行われる。

目次

国葬の法整備 1960年代に検討

一方、政府が国葬の法整備について、1960年代前半に検討していたことが分かった。東京新聞が、国立公文書館の所蔵分析をして明らかに(*2)。それによれば、当時の公文書では国葬について、

「あらかじめ法律で根拠が定められることが望ましい」

と明記。しかし、それが具体化できないまま、1967年に吉田茂元首相が亡くなると、急遽、閣議決定により、政府は戦後初の国葬に。

その後、法的な裏付けがないからといって国葬を認めないのは、「相当でない」との見解に転じる。そして、閣議決定を根拠とする制度運用が、安倍元首相の国葬にも受け継がれる結果となる。

東京新聞が分析した公文書は、当時の総理府総務長官が主宰し、1961年に設置された「公式制度連絡調査会議」の資料録。

現行の憲法施政後も法制化されていなかった元号や国葬の扱いなどについて検討する目的で、内閣法制局や外務省、宮内庁の幹部が名を連ねていた。

会議では国葬について、戦前の勅令である「国葬令」が失効しており、根拠となる法律がないことを確認。しかし政府は1972年、国葬についての見解をまとめ、

  1. 国葬を支出して葬儀を営む単なる事実行為の執行
  2. 多くの国民が自発的に参加できるよう配慮する

を条件に、

「法律の根拠がなくとも、行政措置によっても行い得ると解される」
とした。

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一方、若者の自民党離れが進む

政治的な現象としては、若者の自民党離れが進んでいる。参院選における比例での20歳以下の支持が、2017年衆院選の46%から32%まで落ち込んだ(*3)。

読売新聞社と日本テレビ系列の各放送局が共同で実施した参院選の出口調査では、自民党が政権を奪還した2012年の衆院選では、60歳以上の31.9%が自民党に投票し、他の年代を上回る。

しかし安倍政権であった2017年の衆院選では、20歳以下の得票率が46%、30歳代の39.5%を上回る。

一方、今年の参院選では、20歳以下からの支持率は32%で、30歳代からは33.9%、40歳代からの34.1%を下回った。

とくに選挙では自民党支持層全体の8.7%が維新、4.9%が国民民主党に投票すると回答、公明党に投票した4.8%を超える。また自民党支持層の3%は参政党へ投票、立憲民主党の3.1%とほぼ並んだ。

早稲田大学政治経済学術院の日野愛郎教授(投票行動論)は読売新聞の取材に対し、

「維新、国民、参政の3政党の政策が若者を引きつけた」

とする。

日野氏も投開票前日の7月9日、インターネットで有権者の動向を調べていた。

国葬 若者ほど支持高め 国葬強行で若者支持回復図る?

安倍元首相への国葬となると、ここも世代間のギャップが目立つ。年齢層の若い世代ほど、国葬への「賛成」の度合いが多数を占め、高齢者では「反対」が多くなる。

FNNは7月23日と24日、全国の18歳以上を対象に電話による世論調査を実施。それによると、国葬の決定について、「よかった」が31.0%、「どちらかと言えばよかった」が19.1%と、あわせて50.1%の人が「よかった」と回答。

一方、「よくなかった」は32.1%、「どちらかと言えばよくなかった」は14.8%とあわせて46.9%の人が「よくなかった」と答える。

ただ、特徴的だったのは、回答者の年齢層によって、「よかった」「よくなかった」が分かれたこと。「どちらかと言えば」も含めると、18~19歳を含めた20代は、「よかった」67.3%、「よくなかった」31.4%。

30代は、それぞれ62.7%と30.3%。40代は、52.5%、46.7%。50代は、44.4%、51.7%。60代は、44.4%、54.2%。70歳以上は、39.1%、57.0%。つまり、若年層ほど「よかった」と答える人が多く、高齢の人ほど「よくなかった」と答える人が多かった。

いくら“シルバー民主主義”とはいえ、健康面に課題を抱えるお年寄りが100%、投票所に足を運べるわけでもない。それよりも、自民党にとっては今後、長期間に渡る“顧客”として、若年層の支持を固める。

そのことを含めての“国葬”強行でもありそうだ。

引用・参考文献

(*1)東京新聞9月7日付朝刊

(*2)東京新聞8月29日付朝刊

(*3)「若者の自民離れ進む…参院比例選、若者重視の政策掲げた3党に票分散か」読売新聞オンライン 2022年8月16日

(『モリの新しい社会をデザインする ニュースレター(有料版)』2022年9月17日号より一部抜粋・文中一部敬称略)

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image by: 首相官邸

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伊東 森(いとう・しん): ジャーナリスト。物書き歴11年。精神疾患歴23年。「新しい社会をデザインする」をテーマに情報発信。 1984年1月28日生まれ。幼少期を福岡県三潴郡大木町で過ごす。小学校時代から、福岡県大川市に居住。高校時代から、福岡市へ転居。 高校時代から、うつ病を発症。うつ病のなか、高校、予備校を経て東洋大学社会学部社会学科へ2006年に入学。2010年卒業。その後、病気療養をしつつ、様々なWEB記事を執筆。大学時代の専攻は、メディア学、スポーツ社会学。2021年より、ジャーナリストとして本格的に活動。

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