ついに開戦から8カ月目に突入してしまったウクライナ紛争。領土回復に向けたウクライナ軍の猛烈な反転攻勢の前に撤退を余儀なくされたと伝えられるロシアですが、この動きについては「深読み」が必要なようです。今回のメルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』では元国連紛争調停官の島田さんが、露軍の撤退と占領地域での住民投票実施が何を意味するかを考察。さらにプーチン大統領に核兵器を使用させないためNATOサイドが徹底すべきことを提示しています。(この記事は音声でもお聞きいただけます。)
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鮮明になった世界の分断‐再び協調の時代はくるのか?
「ロシアのウクライナ侵攻を非難しているのは、世界人口のわずか36%」
Economist Intelligence Unit (EIU)が発表した結果は、世界の分断を表現していました。
ここで36%の非難を“わずか”とするのか“36%も”と見るのかは、私たちがどの視点に立って分析するのかによりますが、日々、ロシアによる蛮行のイメージが強調される情報に晒されている私たちにとっては、意図的か否かは別として、確実に「たった36%しかロシアによる侵攻を非難しないのか」とショックに感じるかもしれません。
自分たちが正しいと信じていることは、世界の過半数の支持も得られていないのかと。
以前、このコーナーでも描いた世界は、すでに3極化していると申し上げましたが、今回触れた「ロシアによるウクライナ侵攻を非難する36%」は主に欧米諸国と仲間たちです。
第2極はロシアに同調するグループで、EIUによると世界人口の32%に当たります。主にロシア、中国、イラン、北朝鮮、そしてスタン系の国々といったところでしょうか。
そして中立もしくはケースバイケースで支持するサイドを選ぶ第3極は、世界人口の32%にあたるという分析でした。トルコ、インド、中東アラブ諸国、ブラジル、南アフリカなどがこの極に含まれるとされます。
実際には、侵攻を非難する人口割合はもっと高いと思われますが、対ロ制裁を課している国々の割合を人口割合で見れば、今回、最初に挙げた36%になるのだと思われます。
EIUは「分断は予想以上に進んでいる。どうしてこうなったのだろうか?」と問いかけています。
「どうしてこうなったのか?」については分析をしておく必要があると思いますが、今回の数値をもとに結論を急ぐのは拙速な気がするだけでなく、若干の情報操作のにおいがしてなりません。
そして「では、分断の時代に何をすべきなのか?」についても議論されなくてはならないでしょう。
多くの報道で「ウクライナ側の反転攻勢がこのところうまく行っていて、それに焦りを覚えたロシアサイドが停戦協議の準備があると伝えてきた」という情報が伝えられ、「ウクライナ側は拒否した」とありますが、実際のところはどうでしょうか?
いろいろと入ってきている情報を見たうえで判断すると、嘘ではないにせよ、伝える側の意図を感じる内容であると考えます。
まず、ウクライナ側が拒絶したという点については、ここ10日間ほどの反転攻勢とロシアに侵略された東部・南部の集落の奪還が進む状況下では、ウクライナサイドは勢いに乗っていますので、現時点でロシアと公式な話し合いのテーブルにつくための心理的なベースが存在しません。
ゼレンスキー大統領が鼓舞するように「ロシアに奪われたすべての領土を取り戻すまで戦いを止めない」わけですから、ある例外的な状況を除けば、ウクライナ側に利はありません。
ではその“例外的な状況”とはどのような状況でしょうか。
それはウクライナ側が交渉ポジションとして当初から掲げる「ロシア側がクリミア半島を含め、ドンバス地方もウクライナ側に返還する」という状況ですが、これをロシア側が提案することはまずありえません。
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