プーチンからの最後通牒か。ロシア軍が謎の撤退を決定した本当の意味

 

特にクリミア半島については、プーチン大統領とその側近たちが権力の座についている限りはありません。

以前にも触れたとおり、2014年のクリミア半島併合(一方的な)は、一応「虐げられているロシア人の同胞を救う」という大義名分が立てられ、情報操作を含むありとあらゆる手を駆使し、ついには迅速に住民投票まで行って一方的にロシアに編入したという経緯があり、これは今でもロシア国民にとっては、ロシア人とロシアを守るためにプーチン大統領が発揮したリーダーシップの典型例だと信じられており、プーチン大統領の支持基盤となっています。ゆえに、クリミア半島の返還は、ロシアの中では選択肢にも入っていません。

今回、真偽は分かりませんが、仮にロシアが協議を持ち掛けたとしても、クリミア半島はもちろん、ドンバス地方も含め、ウクライナへの返還が選択肢として挙げられていないようです。

その代わりに、これも真偽が明らかではないですが、協議の内容としてテーブルに乗せられたのは、あくまでも「現状を維持した形での停戦と状況の固定化」であり、撤退・退却・返還という内容は含まれていないと思われます。

考えうるトーン的には「現状を受け入れ、かつドンバス地方で住民投票を行った結果、仮にロシアへの編入が選択された場合、ウクライナ側はそれを尊重して受け入れることを条件として停戦協議に合意する」といった感じであったようです。

ちなみにロシアサイドには、今のウクライナ“での”戦争を止めるつもりはなく、あくまでもやりきるというのが路線のようで、その証拠に、今回の戦争を“終焉させる”ために予備役を30万人単位で招集し、戦線に投入するという発表に至っているようです。

予備役の部分招集に踏み切った際には「ああ、ロシアもついに一線を越えたな。かなり困っているに違いない」と感じたのですが、各国メディアにインタビューされていた市民の声の大多数は「政府がそれを必要と考えているのであれば、仕方がないだろう」というトーンだったことには驚きましたが、同時に腑に落ちた部分もありました。

先週号でも触れたのですが、現時点まで、侵略(注:特別軍事作戦の開始)から7か月が経とうとしている今でも、多くのロシア国民にとっては、これは自らが危機にさらされるロシア人の生存のための戦いではなく、あくまでも国・政府が必要性に駆られて“よその国”で実行している戦争に“すぎない”という認識に、まだ留まっていることが理解出来た気がします。

【関連】かつてナチスに用いた戦術。ウクライナから「ロシア軍一時撤退」が意味するもの

ではいかにして“その認識”を変えるか?

その答えは、実は“プーチン大統領”絡みではありません。プーチン大統領の体制が継続するか否かに関わらず、この戦争がロシア国外で行われている限りは、大多数のロシア国民にとっては、これは“政府がどこかよその国で行っている戦争であり、私たちに直接的な害はない”という認識が変わるきっかけにはなりません。

認識を変えるには、これは起こりうる結果が恐ろしいのですが、この戦いがロシア国民にとっての“生存のための戦争”にならなくてはなりません。

言い換えれば、現在行われているウクライナによる反転攻勢が、“ロシア”の領土や人々に被害を与えるものに変わった瞬間から、認識の大きな転換が行われます。

それがウクライナ軍によって行われる反転攻勢中に発射された偶発的なミサイルのロシア領内への着弾なのか、考えづらいシナリオですがNATOによるロシア攻撃なのかは分かりませんが、【ロシアへの攻撃】は大きな認識の転換をもたらし、場合によってはロシアによる総攻撃を招くこともありえます。

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