プーチンからの最後通牒か。ロシア軍が謎の撤退を決定した本当の意味

 

ところで“ロシア領内”といった場合、現在、行われている内容を見てみたら、ちょっと背筋が寒くならないでしょうか?

ロシア政府は、2014年にクリミア半島併合を一方的に併合しましたが、その際、住民投票を強行して正当化しました。今、ウクライナ軍による反転攻勢でドンバス地方の集落の奪還が報じられていますが、ここで住民投票が行われ(ロシア側による工作によって)、ロシアへの編入が“住民の意志”として示された場合、現在、ウクライナ軍による反転攻勢は、“ロシア領”への攻撃というこじつけが可能になり、おまけにNATOとくにアメリカによって提供されているハイマースなどの武器による攻撃だと認識されたら、究極的にはプーチン大統領、ショイグ国防相、そして統合参謀本部議長が持つ“核使用の権限”に国民的なサポートが示される可能性が現実化してくるかもしれません。

住民投票を急ぐ動きがルガンスク州、ドネツク州のドンバス地方に加え、ザポロジエ州、そしてヘルソン州でも進んでいることは、同様の懸念と思惑を感じさせます。

今回の「ウクライナ軍による反転攻勢」が進む直前に、シベリア(東宝経済フォーラム時)でプーチン大統領、ショイグ国防相、そして統合参謀本部議長が会合を開いており、その後、ロシア軍が謎の撤退を行い、表向きは“再配備”と主張していますが、その“決定”がもつ本当の意味を考えたことはあるでしょうか?

この戦いを別次元に持って行き、一気に決着をつけるための前置きでしょうか?それとも、ロシアの弱体化を決定づける出来事として捉えられるべきでしょうか?または、ウクライナと、その背後にいる米国などへの“旧ソ連に手を出すな”という最後通牒的な意味合いを持つのでしょうか?

いろいろなことが考えられますが、そもそもどうしてこのタイミングで一見軍事的に“不利”にも思えるような大規模な撤退に踏み切ったのか?

そして、それに合わせて、ザポリージャ原発のみならず、南部の原発にミサイル攻撃を行うのは、どのような意図が込められているのか。

それもウクライナと欧米諸国への威嚇と最後通牒なのでしょうか?

もし威嚇ならどのような内容でしょうか?それは戦略核兵器の使用を暗示しているのでしょうか。またはエネルギーインフラの支配を通じて、ウクライナ経済と欧州経済を締め上げるという脅しなのか。

その真の意図はまた後日、明かされるとして、私自身も含め、再三語られる【ロシアによる核兵器の使用】はどれほど“現実的”なのでしょうか?

ロシア政府内はもちろん、欧米諸国の政府・軍関係者などと意見交換をしてみると、【ロシア政府が世界に示す核兵器使用の脅威は深刻に捉えられないといけないと考えますが、パニックに陥る必要はない】と言えます。

その理由として、実際にワシントンDCでも懸念されだした【プーチン大統領などを追い詰めすぎると核兵器使用に踏み切るのではないか】という内容は、NATOが直接的に対ロ戦争に参戦し、かつロシア本土に攻撃を加えるという一線を越える行動に発展しない限り、起こりづらいシナリオだと考えるからです。

ただウクライナ軍による反転攻勢にドンバス地方などのロシア系住民への蛮行が含まれることが明らかになった場合、ロシア軍による軍事行動のレベルを上げるべきだとのpublic pressureが高まり、それが核使用をプーチン大統領に求めるという図式につながる可能性は否定できません。

ロシアおよびプーチン大統領に核を使わせないようにするためには、NATOサイドは「ロシアに攻めこむ意図はない」ことを明確にクレムリン(プーチン大統領)とNATO加盟各国の国民に伝える必要があります。

現時点では、アメリカが供与するハイマースなどの高度な武器を使用する条件として「ロシア領内に越境する使用は許さない」という内容が加えられていますが、それをウクライナに守らせることと、NATOはロシアを攻撃する意図はないことを示すことを徹底することが大事です。

欧州各国は、可能性は低いとしつつも、常にプーチン大統領による核兵器使用を危惧し、かつそれによって欧州にもたらされる放射能被害への恐れが常に頭にあるようです。ただその危険性を低減させるカギを、自らの側も握っているということを国民に伝えておくことで、ウクライナでの戦争が長引いたとしても、それが自国に被害が広がってくることを食い止めるために支援の継続が必要であることを伝えることもできるようになります。

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