プーチンからの最後通牒か。ロシア軍が謎の撤退を決定した本当の意味

 

現時点では、私見ではありますが、その対クレムリンと対自国民のコミュニケーションは決してうまく行っているとは言えないと考えます。また、今でも「この戦争は政府がよそで行っている戦争」という意識から“自分事”化できていないロシア国民にメッセージを届け、コミュニケーションを図ることもできていません。

欧米諸国とその仲間たちは、非常に厳しい経済制裁をロシアに課すことで、ロシア国民にもメッセージが伝わると考えたようですが、実際には「どうせ非ロシア人にはロシアの考え方は分からない。欧米諸国はただ私たちをいじめたいだけなのだ」と考える習性があるとされるロシアの国民性ですから、意図していることは伝わってはいないと思われます。

今週はNYで国連の年次総会が開催されており、各国首脳が集って様々なアジェンダについて意見を交換していますが、ロシアに対する批判だけに終始せず、自らがどのような意図を持ち、行動するのかという方向性も明らかにし、国際社会に対して明確なメッセージを出す必要があります。

G20プロセスや国連プロセスにおけるロシアはずしや批判は、恐らくそのような重要なコミュニケーションを直接ロシアと持つための機会を逸していると感じます。

ロシア、そしてプーチン大統領が行った一方的なウクライナへの軍事侵攻は決して看過できるものではないのですが、ロシアの蛮行・愚行を止めるためには、やはり話し合いのテーブルに、equal standingで座り、意見をぶつけ合う必要があると考えます。

現時点では、欧米諸国とその仲間たちはウクライナに対する軍事支援をチャンネルとしてロシアと対立していますが、協議や和平に向けた話し合いの重要性を口にしているにもかかわらず、その機会を自ら拒否しているように見えます。

意見が平行線をたどって、合意の糸口が見えなかったとしても、「一応、ロシアの考えは聞いた。こちらの考えも面と向かって伝える」という姿勢を打ち出すことが非常に重要だと考えます。

しかしできないのだとしたら…一体、皆、どのような意図を隠し持っているのか、とても勘繰ってみたくなります。

国連の役割自身は、今回の紛争解決にはさほど期待できないと思いますが(そして個人的には悲しんでいますが)、話し合いの場を提供すること、そして振り上げてしまった拳を下すためのきっかけを作ることはまだまだできるでしょうし、それは国連に向いている方策だと考えます。

それが国連にできるのであれば、今年の総会は思いのほか、“いい仕事”をすることができるかもしれません。

もう後戻りできないとさえ感じる世界の分断を、国連総会に皆が集うこの機会に、再度、協調の機運を高める機会に変えることが出来るか。

個人的にはまだ期待を寄せたいと思います。

以上、国際情勢の裏側でした。

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