ただ、今回のクリミア大橋の爆破事件とロシアのミサイルによるウクライナ全土への報復攻撃ですが、ちょっとできすぎてはいないでしょうか?
大橋の爆破については、ウクライナによる仕業という見方が強く、自ら“やった”と大統領府のポドリヤック顧問が自慢げに語ることからも、恐らくそうだと思われますが、ロシアサイドの“冷静な対応”に若干の違和感を抱きます。
もちろんプーチン大統領は怒り狂っていると、多方面から聞きますが、次の日には鉄道の運行を再開できるほどのレベルだったことと、「完全修復の見込みが立たない」としつつも、修復を急ぎ、プーチン大統領のレガシーを取り戻せという動きにはなっていません。
逆に、一度は下降線をたどり、いろいろな憶測が飛んだプーチン大統領の支持率は、この大橋の爆破事件後、迅速にミサイルでの報復攻撃を実施したことで回復しています。
アメリカでも時折使われる手法だと言われますが、「支持率を急回復したい場合は、国家安全保障を強調し、戦争を行うことだ」という政治的なロジックが機能させるための“行い”とみることもできるかもしれません。恐らくこれは、的外れだと思うのですが。
そして次に申し上げる違和感は、恐らく大きなご批判を受けるものかと思いますが、「どうしてこれまでミサイルによる全土攻撃」というオプションをもっと早く使ってこなかったのかという点です。
2月24日にロシア軍が国境を超え、多重にウクライナ全土への侵攻を始めた際、そして後にミサイルによる攻撃は確かにあったのですが、どちらかというと、ウクライナに手を貸すNATO各国への警告といった性格が強く、組織的な攻撃ではなかったように見受けられます。
その後も、明らかに失態を演じ、時には圧倒的な軍事力を発揮してウクライナ東南部を制圧したと思ったら、ウクライナからの反転攻勢に対して容易に明け渡すという行動が繰り返される中、ミサイルによる集中的な攻撃というオプションは使われてこなかったように思います。
確かに今の全土へのミサイル攻撃は、若干的外れなイメージを抱くものもありますが、再びウクライナの国民に得も言えない恐怖を植え付け、向上していた抗戦モードに水を差す効果は出ているように思います。
それはどのようなことか。これまで決して褒めることはできませんし、支持することもあり得ませんが、ミサイル攻撃および地上戦のターゲットとなってきたのは、軍隊と民間人でした。
病院、学校、一般のアパートメント、ショッピングモール…多くの民間施設が“無差別に”攻撃されました。
しかし、6月以来となる集中的なミサイル攻撃のターゲットは、戦略的にはステージアップされ、インフラとそれを動かすエネルギーになっています。
これはつまり「国の根幹をなすウクライナの人々の日常生活がターゲットになってきており、これから本格的な冬を迎えるウクライナ人の生存を、直接的に武器によってではなく、日々の生活に必要な物資とサービスを遮断していくことで締め上げていく」という戦略にミサイルが使われたとみることが出来ます。
これはロシアによるウクライナ攻撃が新しい段階に移ったとみることもできます。
同時にウクライナ軍による反転攻勢が進む中、対ウクライナ支援の正当性を各国内のステークホルダーに訴えかけたいNATO諸国に対して、冷や水を浴びせる効果も見られるように思います。
アメリカは来月に中間選挙を控えていますが、対ウクライナ支援に多額の予算を割いていることに対して“説明”を求められる事態に追いやられるかもしれません。
とはいえ、十分にこれまでに国内の軍需産業を潤す効果は出ていますので、ロシアが仕掛ける心理戦の効果のほどは微妙かもしれませんが、最近広がりつつあった“見通し良し”という状況は変わったように思われます。
この記事の著者・島田久仁彦さんのメルマガ









