ドイツについては、これまで支援が少ないとNATO各国からもウクライナからも非難され、数度にわたって支援を実施するという後出しのレッテルを貼られていますが、今回、ウクライナが求める防空システムの供与については、すでにウクライナに到着済みのようですが、その是非については大きな国内議論を呼び起こすかもしれません。
今回供与された防空システムは、実際にはまだドイツ軍に本格的に配備されていないもので、まずは国家安全保障のためにドイツ軍に配備するべきとの意見が強い中、ウクライナに配備するというロジックが通るかは微妙なところです。
ロシアによるミサイル攻撃にはNATO諸国と欧米諸国(重複あり)は一様に怒っており、ウクライナへの支援拡大を表明していますが、具体的に何をするのかについては、あまりconcerted actionが取れているとは思えません。
対ロシア強硬論を選択する米英独と、プーチン大統領を刺激しすぎることを懸念して即時対応を控えるフランス、事態が自国の安全保障への懸念に変わってきたロシアと国境を接する中東欧諸国とスカンジナビア半島の諸国、そしてバルト三国は、ロシアを非難するものの、行動のフォーカスはウクライナ支援から自国防衛の強化に移ってきているように見えます。
ただこのミサイルによる攻撃の実施時期が、少し早まったとみることもできるかもしれません。
今行っている攻撃は、恐らく随分前から入念に準備されていたものだと考えますが、本来はもっと冬の寒さが本格化してきてから実施されるものだったのではないかと考えます。嫌な言い方になりますが、そのほうが物理的にも心理的にも、ウクライナの人々と戦意に与える影響は大きくなりますから。
ただクリミア大橋の爆破により、その実施が前倒しになったとみることが出来、そこにNATO諸国が約束した防空システムが冬までに導入されることが可能になったら、ロシアによる本格的な攻撃の効果を一気に弱めることが期待できます。
それはつまり、ミサイルおよび航空機を利用した戦術核兵器をはじめとする大量破壊兵器をロシアが使用するような異常な状況になった場合にも、防衛力を発揮することになると考えられます。
ただし、各国が本当にon timeでそのようなシステムを提供し、配備できるのであれば。
そのためには武器を供与し、さらなる支援をウクライナに供与するNATO諸国において、国内の支持を拡大しておく必要があります。
例えば、一応、他国向けのメッセージではありますが、グリーンフィールド米国連大使は、ロシアによって一方的に併合された4州の名前を順に挙げ、それぞれがウクライナの一部であるとシンプルに訴えかけると同時に、ロシアが行おうとしていることがいかに非道かをアピールしようとしています。
これは実際には人権擁護などの原理原則を重んじるバイデン政権と民主党の方針に沿った方向性で、これは11月の中間選挙に向けたテコ入れと、政権が進めるウクライナ支援拡大の正当化につながるとみることも可能です。
英国のトラス政権は、新内閣発足後、改善の兆しが見えない英国経済と物価高のネガティブイメージを覆い隠すかのように、ロシアの蛮行をクローズアップし、このような状況を生み出した元凶としてプーチン大統領とロシアを責める情報戦略を国内向けに選択したようです。
これは、旧ユーゴスラビアの内戦において、クロアチアの罪を覆い隠し、セルビアを悪魔に仕立て上げたagencyによるキャンペーンと聞いています。
「だから一刻も早くプーチンを止めるのだ」「プーチンがウクライナを諦めるように仕向ける。そのためには英国からの支援拡大が必要だ」というように。
ただここでも注意深く計算されており、何とかプーチン大統領を極限まで追い詰めないように配慮されているようです。詳しくはまた分析を試みたいと思いますが。
ドイツについては、先の地方選で与党が勝利したことで、一種のゴーサインと判断して防空システムの供与を行ったようですが、その是非はまた今後問われることになるでしょう。
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