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カルト教団にメスは入るか?崖っぷちの岸田首相、統一教会「一掃」の本気度

政権支持率低下の最大要因とされる、旧統一教会を巡る問題。岸田首相は17日、ようやく質問権の行使による教団への調査を文科相に指示しましたが、遅きに失した感は否めません。20日付けの朝日新聞には、教団サイドが国政選挙前に自民議員に対して「政策協定」を求めていたという前代未聞の大スクープが掲載されるなど、事態はさらに混迷を極めること必至ですが、果たして政府の調査は成果を上げることができるのでしょうか。今回のメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』では著者で元全国紙社会部記者の新 恭さんが、迅速性に不安はあるものの問題解決と被害者救済の第一歩であることは間違いないと評価。さらに質問権を有効に行使するために必要な戦略を提示しています。

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岸田首相が決断した統一教会への調査、その本気度は

内閣支持率を回復させるには統一教会(現・世界平和統一家庭連合)問題の解決に前向きに取り組むしかない。岸田首相はようやくそのことに気づいたらしく、10月17日の衆議院予算委員会で、宗教法人法に基づく質問権を行使して統一教会の実態調査をする方針を明らかにした。

統一教会に切り込むことは、安倍元首相と教団との関係を追及する世論の流れを助長することにつながるため、自民党内右派の反発を恐れて、岸田首相はこれまで調査には消極的な姿勢をのぞかせていた。しかし、統一教会問題に尻込みし、対策が後手後手にまわっているという印象が強まるにしたがって、内閣支持率は下落し続けている。岸田首相としては、調査断行によって自らの実行力を示したかったのだろう。

過去に質問権が行使された例はない。消費者庁の有識者検討会の提言を受けたものだが、岸田首相の焦りもにじむ。予算委員会が開会される日の朝になって、有識者検討会の報告書公表に続き、岸田首相が文部科学相ら3閣僚を集めて調査を指示するという、慌ただしい日程が組まれた。

調査結果がクロと出れば、裁判所に教団の解散請求をするという触れ込みだ。信者の家族や野党から解散を求める声が上がっているのに応えた形だが、いくつか懸念材料がある。

まずは、宗教法人法の該当する条項を確認しておこう。

第八十一条 裁判所は、宗教法人について左の各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁、利害関係人若しくは検察官の請求により又は職権で、その解散を命ずることができる。

 

一 法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。

二 第二条に規定する宗教団体の目的を著しく逸脱した行為をしたこと又は一年以上にわたつてその目的のための行為をしないこと。

 

第七十八条の二 所轄庁は、宗教法人について次の各号の一に該当する疑いがあると認めるときは、この法律を施行するため必要な限度において、当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求め、又は当該職員に当該宗教法人の代表役員、責任役員その他の関係者に対し質問させることができる。

この場合、所轄庁は文化庁宗務課である。8人いる職員が調査にあたり、統一教会の法人代表ら幹部や関係者に質問できる。

しかし、質問には、警察や検察の捜査のような強制力はない。しかも、宗務課の職員は日頃、このような調査業務にあたったことのないシロウトたちである。

質問権を使って調べても、統一教会がウソをつき続ければ、核心にたどりつけず、とどのつまり、違法性、反社会性は認められなかったということにならないか。それでは、統一教会にお墨付きを与えるだけで、逆効果だ。

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一部には、世間の関心を癒着政治家狩りから調査に向けるためではないかという見方すらある。なにしろ、岸田内閣の閣僚には、山際大志郎経済再生担当大臣という、統一教会疑惑のツワモノがいる。これまで、教団との関係や関連する会合への出席を指摘され、そのたびに会見で人ごとのように追認するということを繰り返してきた。間違いなく、この臨時国会における野党の最大のターゲットだ。

こうした追及を少しでもかわすためには、「今後は統一教会と関係を断つ」という自民党の方針に信ぴょう性を持たせる必要がある。

自民党は統一教会について、どのような団体だと考えているのか。今まで一度も独自見解を示したことがない。「社会的に問題が指摘される団体」と言うばかりだ。党が安倍派に忖度して統一教会に踏み込めないのなら、政府がやるしかないということだろう。

この調査について、全国霊感商法対策弁護士連絡会は声明を発表し「旧統一教会の被害を撲滅するための重要な一歩」と評価する一方、「宗教法人法に基づく要件は既に満たされており、今から質問権行使を行うことは、いたずらに時間を費消し、被害が拡大する懸念も否定できない」と指摘している。

10月17日の予算委員会で、野党議員から「いつまでに調査を終わらせるのか」と問われた岸田首相は「いままで使われたことない権限を行使するので断定できない。調査結果が出なければ救済についてなにもできないというわけではない」と答え、迅速性についてやや不安を残した。

永岡桂子文科大臣は、宗教法人審議会に調査の実施を諮問し、具体的な調査項目などについて意見を聞いた後、調査に入る方針だが、あまり丁寧な手続きを踏みすぎて長期間を要するとなれば考えものだ。

文化庁によると、問題行為を理由に解散命令が出た宗教法人は、地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教と、霊視商法詐欺事件を起こした明覚寺の2例しかない。

オウム真理教への解散命令は憲法の保障する信教の自由に反しない、という最高裁の判断(1996年1月30日)が以下のように示されている。

大量殺人を目的として計画的、組織的にサリンを生成した宗教法人について、宗教法人法に規定する事由があるとしてされた解散命令は、専ら宗教法人の世俗的側面を対象とし、宗教団体や信者の精神的・宗教的側面に容喙する意図によるものではない。右宗教法人の行為に対処するには、その法人格を失わせることが必要かつ適切である。

統一教会への調査について、政府・与党内には「信教の自由を侵しかねない」との慎重意見も根強い。だが、この判例からみても心配無用なのではないか。解散命令は、「宗教法人の世俗的側面を対象」とし、宗教的側面を対象としていないからである。宗教法人格を失い、税制優遇などが受けられなくなっても、宗教活動はできるのだ。

政府の本気度がどれほどのものかは今後を見るしかないが、調査の実施が、統一教会問題を解決し、被害者の救済を進めるための第一歩であることは間違いない。

裁判の積み重ねによって、統一教会の不法行為の数々や、反社会性は明らかになっている。そのうえでの調査であり、被害の拡大を防ぐためにはスピードが求められる。

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衆院予算委員会を傍聴した高知県の橋田達夫さんは、10年前に離婚した元妻が信者で、「悪霊がいる」と言われた田んぼを売却してできた現金など約1億円を献金、夫婦げんかが絶えないなか、長男は2年前に自宅の庭で焼身自殺した。これまでに何度も警察に相談したが、統一教会の名前を出すと、断られたという。

政治と統一教会の癒着のはざまで、見過ごされてきた被害者たちの実態。ようやく政府が調査に乗り出すことになった。質問権をいかに有効に行使するか。数十件ある民事裁判の例や脱会者、2世信者の証言などをきっちり把握したうえで、言い逃れのできない詰めの戦略が必要だろう。

<追記>

10月18日の衆院予算委員会で、岸田首相は、解散命令のできる不法行為について、刑法だけで民法は含まれないという趣旨の答弁をし、この調査の実効性への疑問が噴出した。筆者も一時は、この記事自体意味がないのでボツにしようと考えたほどだが、案の定、19日の参議院予算委員会で岸田首相は「民事も含まれる」と修正した。やれやれである。毎度の朝令暮改には呆れるばかりだが、間違いを正すなら早い方がいい。

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image by: 首相官邸

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