去る10月20日、今年6回目となる記者会見を行った旧統一教会。元妻の高額献金被害を訴える男性への反論として、今も信者である「元妻」のインタビューVTRを流した教団に対しては各所から批判の声が上がりましたが、識者はこの会見をどう見たのでしょうか。今回のメルマガ『詐欺・悪質商法ジャーナリスト・多田文明が見てきた、口外禁止の「騙し、騙されの世界」』ではかつて旧統一教会の信者だったジャーナリストの多田文明さんが、「元妻」が発した言葉に感じた大きな疑問を綴るとともに、何度も自殺をほのめかし結果的に命を断ってしまった長男を、彼女が病院に連れていくことがなかった「宗教的理由」を紹介。その上で、旧統一教会がこの会見で何を露呈させてしまったかについて記しています。
この記事の著者・多田文明さんのメルマガ
統一教会の伝道、お金集めの「組織性、継続性、悪質性」を世に問うてきた民事訴訟が実を結ぶ時
1.岸田首相の発言には、2度びっくり!?反論をしようとする矢先に「民法の不法行為も該当」に答弁が変更
10月18日、岸田首相からの「民法の不法行為は該当しないとの認識」の発言には一瞬、耳を疑いました。
「はあ!?どっちに行こうとしているのでしょうか?」
これまで旧統一教会の問題解決に向かって動き出したと思っていたのに、急にクルッと反転して、逆の方を向いて走り出そうとする言葉に思えたからです。
解散命令の請求の要件を、刑法における違反行為だけにしたら、いつまで経っても宗教法人の解散ができなくなり、被害が長く続くことになります。自分自身、民事事件を通じて、教団の違法性を問う裁判を起こしてきた身としては、憤りさえ覚えました。
しかし翌19日に一転。
岸田首相は、解散命令請求の要件に「民法の不法行為も該当する」との答弁に変更しました。
2日続けて驚かされましたが、まずはよかったと安堵しました。
その際「行為の組織性や悪質性、継続性などが明らかに」なれば、民法の不法行為も該当するとのことでした。
まさに重要な観点です。かなり議論された結果もみえています。
教団がこれまで行ってきた、社会常識を逸脱したお金集めの行為は、組織的なマニュアルを用いて、全国規模で繰り返し行い(組織性・継続性)数多くの被害を生み出しました。金銭などを騙し取るやり方は本人の日常生活を奪うほどの悪質性があります。
今月『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』の書籍を発売しました。
本書内でも、他の詐欺・悪質商法の被害事例も併記しながら、いかに教団のしてきたことが、組織性、悪質性、継続性のある活動なのかも書いています。その実態もわかって頂けると思います。
● 多田文明さん『信じる者は、ダマされる。』10月24日発売!
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2.「信教の自由」の名のもとで教団はやりたい放題の活動。刑事事件にはならないなか、ようやく実を結びつつある、民事訴訟
1980年代霊感商法が社会問題となるなか、元信者らは教団の組織的な不法行為を刑事事件として取り上げてほしい思いを持っていました。しかし「信教の自由」もあり、警察は事件としては取り上げてはくれません。
この現実を前に弁護士らともに「民事裁判にて教団の違法性を積み重ね、刑事裁判にもつなげて、社会に被害の実態を訴えていこう」ということになりました。
私自身も裁判を提訴して、最高裁にて勝訴判決を得ましたが、他の元信者らも同様な裁判を数多く起こして、たくさんの勝訴判決が積み重ねられてきました。そして2009年の新世事件にて、教団の関連会社が警察に摘発されます。ここから一気に教団へのメスが入るかと思われましたが…。
その後は、パタリと音沙汰無しになります。
教団側が手口を変えて、モノを売る霊感商法から、多額の献金を出させて、モノを与える形に変わったのです。政治の力もあり、警察の捜査が止まったと、有田芳生さんもおっしゃっていますが、まさに教団が地下に潜った10年になりました。その間に、教団は羊の皮をかぶって、これまで以上に、自民党などの政治家との距離を近づけていきました。それが今日の姿です。
先日の国会で、教団の法的責任を認めた判決は少なくとも29件に上る(全国霊感商法対策弁護士連絡会による)と明らかになりました。私が提訴してから20年以上経って、ようやく実を結ぶ時がきているように感じています。
私は教団を辞めてから、詐欺や悪質商法の取材を進めてきました。その中で教団の使っていたのと同じような手口を使う悪質業者を見てきました。その多くは、行政処分などの摘発を受けたり、逮捕されます。しかし教団の活動は、まったく摘発されません。それに対して、苦々しい思いを持っていました。
もしかすると、今後も再び地下に潜ろうとするかもしれませんが、もう首根っこをつかんだ状況です。もう絶対に逃がしません!
3.10月20日に行われた、6回目の旧統一教会の記者会見
教団内では「6」という数字は「サタン数」といわれて、忌み嫌われるべき数字として扱われます。聖書のヨハネの黙示録から来ているといわれていますが、私自身は「オーメン」という映画を教団内でみさせられて「6」は悪魔の数字と教え込まれました。
そんなわけで、6回目の教団の会見はどのようなものになるのかを楽しみに見ていました。私の目には「教会改革」とは裏腹な、魔が入ったような会見に見えました。
やはり注目すべきは、橋田さんの元妻の証言です。
元夫の橋田さんによると、信者である元妻は、1億円もの献金をしてしまい、家族は崩壊して、長男は2年前に自ら命を絶ったと話します。
一方で橋田さんの元妻はVTRにて反論します。
「入会したことで夫婦関係に変化したことはありますか?」の質問に対して「これといってないんですけど」と切り出します。
さらに「新婚当時から喧嘩していて、しない日はなかった。教会に入ってから悪くなったのではなくて、教会に入る前から悪くなって。教会に入ってからはどちらかというと喧嘩しなくなった」と話します。
この言葉は、元夫の言葉とは真っ向から対立していますが、大きな疑問があります。
信者を持つ多くの家庭では、家族の一人が教団に入ることによって、高額な献金などにより家庭崩壊など、大きな影響を受けています。関係省庁連絡会議にも、この種の相談電話が数多くかかっていることからもわかります。
なぜ「教団の影響はない」と元妻は断言できるのでしょうか?これまでの被害家族の状況を見てきて、どうにも本当のことを言っているようには思えません。
ついには、息子さんが「田んぼ、売ったらええよ」の言葉までも話します。こうなると、もはや死人に口なしの状況で語られており、亡くなられた息子さんが不憫でなりません。
さらに「自分は売りたくなったけれど、息子が売ったらとあまりいうので」「息子さんは売ったらと言わなかったら、売らなかった」と話しますが、大きなお金が動く土地売買には、必ず教団の関係者がかかわるものです。息子さんの一存で決められるはずはありません。教団の意思が働いていると考えるべきです。
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4.なぜ病院に連れて行けなかったのか?
息子さんが亡くなられた状況について、元妻は「お母さん、僕が死んだら悲しむやろなって」「『死ぬ死ぬ』とはいっていたので」「だからその時に、私がすぐに気づけばよかったんですけど」「私自身がその時は分からなくて」「あとで気が付いたんです。もうその時は遅かったんです」と話します。
こうした言葉を聞き「なぜ、病院に連れて行かなかったのか?」と思う人もいるでしょう。
それは教義がすりこまれているがゆえに、できないのです。
息子さんような「霊の声が聞こえたりする」ことは、幻聴とは捉えられず、教団では「霊界と通じ合っている人」と思われて、問題ないとされています。
さらに精神的に問題がある人に対しても、「サタン(悪霊)が心に入った」状況と教えられます。
先祖の悪霊が影響しているともいわれて、神様や教祖夫妻に祈ったり、先祖解怨すれば、悪霊が出ていき、心の病が直ると思わされています。ですので、病院に連れて行くことを、まずしません。
今回は、心の病の現実をしっかりと見極められなかったために、手遅れになった事例なのではないかと思っています。この世をサタン世界と位置付けて、社会の力を一切、借りようとしない。ここにこそ、今回の問題の本質があるといえます。
ただし最後の方で唯一、彼女の本音も出たようにも思えました。
「父親と子供とりなしてあげたっかたけれどそれができなかった」「できてたら、こんな結果になっていなかったんじゃないかという思いがある」
本人は気づいていないかもしれませんが、「自分の教団の入信がきっかけで息子の悲しい自殺が起こったかもしれない」と、母親としての本音の一面もみえています。ぜひとも、この点に気づいてほしいのです。
いつもそうです。自分たちがマインドコントロールされて、どのような結果をもたらすのか。本人は、その時には気づけません。時が経ち、教団を離れた時に、教団からの指示により発言をしたことへの後悔は必ずやってきます。
このような悲劇に遭うのは、橋田さん夫婦の事例だけではありません。今も多くの信者を持つ家族が、苦しんでいると思うと心が痛みます。
今回のケースを通じて、被害者に対して教団がどう接するか。信者にどのような行為をさせてくるのか。見本のようなものを示してしまったのではないでしょうか。結局、自分で自分の首を絞める結果になっています。
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