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日本は教育制度もガラパゴス化。障害者を「弱者」扱いする時代遅れ

今年4月、文部科学省が特別支援学級に在籍する児童・生徒に、週の半分以上支援学級で授業を受けるよう求めた通知に対し、「人権侵害」を訴える親子がいます。また、「特別支援学級」については、今年9月に国連から問題ありと勧告を受けるなど、日本の障害者教育のあり方が問われています。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では、健康社会学者の河合薫さんが、「特別支援学級制度」の良い面を認めながらも、世界的な流れである「バラバラだけど一緒に過ごす教育」の意義を訴え、学ぶべき各国の例をあげるとともに、日本の教員の長時間労働の問題についても言及しています。

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世界と逆行?「人」を忘れた国の末路

今年4月、文科省が全国に出した「特別支援学級」に関する通知を巡り、枚方市と東大阪市の親子5組13人が、大阪弁護士会に人権救済の申し立てを行ったことがわかりました。

大阪府では、長年「支援学級在籍の子」が多くの時間を「通常学級」で学ぶ形が取られてきました。大阪では人権・同和教育に力を入れてきた歴史などを踏まえ、障害の有無でクラスを分けるのではなく、一緒に学び、育つ、「インクルーシブ教育」を取り入れていたのです。

ところが、文科省がこれに待った!をかけた。「特別支援学級に在籍する生徒は、原則週の半分以上を支援学級で授業を受けなければならない」と通知。これに対し、保護者らが「障害がある生徒を『分離』あるいは『隔離』することは差別であり、人権侵害だ」と主張したのです。

特別支援教育については、9月に国連の障害者権利委員会が「障害者を分離する教育はやめるように」と日本政府に勧告していたので、件の通知が今回の申し立てにより、どう変わるのか?対応が気になるところです。

日本の特別支援学級は「その子にあった教育を受けられる」という面では、とてもいい制度です。障害のプラス面を引き出す授業を展開している自治体もあるし、通常学級ではうまくコミュニケーションが取れなかった子どもが支援学級の先生のサポートにより授業の内容を理解できたり、「伝える・伝わる」関係を構築できたり、子どもの生活世界の豊かさにもつながります。

しかし一方で、世界的に拡大している「インクルーシブ教育」とは、通常学級ですべての子どもを育てることを意味しているため、「日本はインクルーシブ教育に逆行している」との指摘もされてきました。

特に近年、日本では特別支援学級に通う児童・生徒が急増しているため、このままだとますますインクルーシブ教育から遠ざかってしまう可能性がある。子どもが急増した背景には、対象に学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)が加わったことに加え、一人ひとりの子どもに応じたきめ細かい教育を求めて、特別支援学校や学級を選択する保護者が増えたこともあるとされているのです。

欧米では「合理的配慮」が徹底されているため、通常学級でもきちんとしたサポートが受けられます。しかし、日本は分離した上での配慮を今までも優先してきましたし、「合理的配慮」という言葉だけが先行し、実態はあくまでも「弱者」扱いです。

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障害を社会学では「社会が生み出すもの」と捉えます。医学モデルでは「弱者のため」に「特別枠」を作りますが、社会モデルではそれをしません。前者では問題を「個人」に、後者はそれを「社会」に向けます。世界の動きは確実に後者です。

つまり、世界は「障害を生まない社会」で進行しているのに、日本はいまだに「障害者=弱者」と位置付け、個人の問題にし続けている。それは「共生社会」の実現を阻む壁を作ることであり、すべての人が秘める可能性の芽を摘むことになってしまうのです。

支援学級の子どもが通常学級に日常的に加わると、自然と子どもたちが障害のある子どもに寄り添うようになります。時には「手すり」となり、時には「翻訳機」となり、“傘”の貸し借りが当たり前の共生社会が出来上がります。

むろん、それを実現させるには、専門的な知識をもった人材育成を同時並行で進める必要がある。アメリカではすべての公立校に作業療法士や、スクールカウンセラー、言語聴覚士が配備されていて、チームとなって子どもを支援し、地域のボランティアが加わることも少なくありません。

また、ニュージーランドの小学校では、地域の人たちがボランティアとして参加し、専門知識を得る研修を受けたり、資格を取る人も多いと聞きます。就学猶予という制度もあるため、入学年度を遅らせる児童も多い。同じ学年でもいろいろな年齢がいて、この時点で「子どもにあった教育」の選択が可能なのです。

インクルーシブ教育とは、「バラバラだけど一緒」に過ごすこと。宝石箱のように、ダイヤやエメラルド、ルビーなどさまざまな石が、互いに関わることでキラキラと輝いていく。その根っこにあるのは、「みんな違ってあたり前」という価値観です。

いずれにせよ、日本の教員は、世界一過酷な労働を強いられているという現実もあるので、特別支援教育は教師の負担感につながるという問題もあります。

経済協力開発機構(OECD)の調査によれば、日本の中学校教員の56.7%が週60時間以上働いていて、イギリス28.9%、アメリカ22.0%、韓国7.8%、スウェーデン2.9%、フランス2.6%にくらべて著しく高いことがわかっています。平均値は、週59.3時間で、先進国で最も高い水準です。しかも、週の勤務時間59.3時間のうち、「授業時間」はたったの27.4時間。授業の割合は46.2%しかありません。

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一方、イギリスやスウェーデンでは勤務時間の6割、韓国とフランスでは7割、アメリカでは8割、授業の時間を占めていますから、いかに日本の教師が「授業以外」のことに時間を取られているかがわかると思います。

文科省への報告、アンケート、教育委員会への報告、アンケート、会議、生徒指導部活動…etc.etc.特別支援学級の先生も人数が少なく、子どもに向き合った教育をしたくても時間が限られてしまっているのです。

日本は「箱」や「制度」はあれこれ作りますが、それを回すのは「人」という当たり前を考えません。しかも、平等を意識しすぎるあまり、厳格なルール作りが先行し、縛りが強く、結果的に公平さがないがしろにされがちです。何が公平で、何が公平じゃないのか?文科省には是非とも、考えていただきたいと思います。

みなさまは、この問題についてどのようにお考えでしょうか?是非ともご意見、お聞かせください。

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image by: Shutterstock.com

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米国育ち、ANA国際線CA、「ニュースステーション」初代気象予報士、その後一念発起し、東大大学院に進学し博士号を取得(健康社会学者 Ph.D)という異色のキャリアを重ねたから書ける“とっておきの情報”をアナタだけにお教えします。
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