年金受給者が亡くなった場合、未払いの年金が必ず発生します。今回のメルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座 』では、著者で年金アドバイザーのhirokiさんが、 その未払いの年金はなぜ発生するのか、そして誰が受給できるのかについて詳しく解説しています。
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年金受給者が亡くなった場合に必ず発生する未払いの年金と、死亡者の年金記録が訂正された時
こんばんは!年金アドバイザーのhirokiです。
1.年金受給者が死亡するとどうして必ず未払いの年金が発生するのか
年金は受給権が発生した日の翌月分から死亡した月分までの年金を支払います。もし11月に受給権が発生し2年後の6月に死亡したら、12月分の年金から貰える事になり、2年後の6月分の年金まで貰える事になります。
年金の支払いはそうなんですが、年金受給者の人が亡くなった場合に必ず発生する未支給年金というのがあります。
なぜ必ず発生するのかというと、年金は後払いだからです。年金は偶数月の15日に前2ヶ月分を支払いますよね。
例えば、12月15日支払いというのは10月分と11月分の2ヶ月分になります。
ところが11月2日に亡くなると、この場合はまだ12月15日が来てないので、11月分の年金は受給できずに亡くなった事になります。
しかしながら、年金は「死亡した月分」まで受給できるので、死亡した11月分の年金は受給する権利があります。
なのに死亡した上に、まだ本来の年金受給日が来ていないので11月分の年金は受給する事無く、亡くなってしまった事になります。
この場合は11月分だけでなく、10月分の年金も貰ってないので丸々2ヶ月分の年金を受給者本人は貰わずじまいという事になっています。
このように、年金は後払いであるという事で、必ず未払いの年金である未支給年金が発生してしまいます。
このままだと、本来支払わなければならない年金を支払わずに済む事になるので、単純に考えると国としては得する事になり、受給者は損をしてしまう事になります。
支払わなかった年金は国に返るのかというと、そうではなく一定の遺族の請求によって受給する事が許されています。よって、年金後払いにより国側が得する事はほぼ無いです。
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ところで、本来は年金というのは一身専属権(他の人に権利が移転しない事)により、誰かに年金を受給する権利を渡すような事は禁止されています。
自分の年金は自分名義でしか貰う事は出来ません。
年金はそういうものですが、例外的に未支給年金の場合は遺族の請求で本人が受給できなかった年金を貰えるようにしています。
まあ、一定の遺族が居ればいいですが、居ない場合は国に返る事にはなります。
さて、年金受給者が亡くなった場合は必ず発生する未支給年金ですが、どのような遺族が受給する事が出来るのでしょうか。
定義としては以下になります。
ア.死亡時点で生計を同じくしていた。
イ.死亡時点で生計を同じくしていた、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、3親等以内の親族の順で一番上の順位の人が請求します。
ア.についてですが、生計同一要件と言いますが、これは本人死亡時に住民票が一緒だったとか同居してた、別居はしていたけど生計費は同一にしていたというような事ですね。
そういえば遺族年金請求時は生計同一要件ではなく、遺族の前年収入なども見ないといけませんが、収入などは見ません。
イ.は年金法で、請求できる範囲を決めて、この中で一番上の順位の人が請求者になります。
順番は上記の順となります。
ただし、上の順位の人が生計同一じゃなかったなら、下の順位者が請求という事になります。
妻とは別居してて、生計費を一にしてないしまったく連絡すらも取っていない状態だったなら、妻とは生計同一関係がないので、下の順位者である同居者などが請求者となります。
ちなみに、「子」や「孫」というと18歳年度末未満であるという要件が年金(遺族年金や加給年金など)ではよく見られますが、未支給年金ではそのような年齢は見ませんのでそこも気を付けたほうがいいですね。
次に、未支給年金は時効が5年なので、時効内に請求しないのであれば国に返還という事になります。
例えば11月に死亡したのであれば、10月分と11月分が未支給年金となり、5年後の12月31日までに請求しなければ時効で未支給年金が請求できなくなります。
なぜ12月31日なのかというと、10月分と11月分は12月15日にならないと受給できないので、受給できる時点(12月15日)から時効が進みだすため、そこから5年後という事になります。
10月分や11月分をまだ貰えてない振り込み日前から時効が進みだしたら不利益ですもんね^^;
実務上は「支払い期月(12月ですね)の末日の翌日」からを時効の始まりとしているため、5年後の支払い期月の12月末までには請求してくれれば大丈夫ですよという事になっています。
というわけで、今回は未支給年金の事例を2つ考えてみます。
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2.受給者死亡時の未支給年金
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A男さん(昭和39年9月20日生まれの58歳)は数年前に交通事故により半身不随となり、障害基礎年金1級972,250円(月額81,020円)と障害年金生活者支援給付金年額75,300円(月額6,275円)を受給していました。
過去の年金記録は22歳から50歳までの28年間を厚生年金に加入しており、その間の平均給与は48万円でした。
50歳からは運送関係の自営業を営むようになり、国民年金保険料を納付し続けていました。50歳から8年くらいの納付。
国民年金のみの自営業として働いてる最中の単独交通事故による障害で、受給する障害年金は障害基礎年金のみとなっています。
さて、A男さんは家族といえば妻とは10年程前に離婚し、子供はいませんでした。
両親は亡くなっており、甥っ子の2人(両者とも30代)と生活をしていました。
令和4年12月25日の食事中に、うまく食事を飲み込めなかった影響で誤嚥性肺炎を引き起こし、そのまま亡くなってしまいました。
さて、生計を同じくしていた遺族は甥っ子2人だけでしたが、何か年金は出るのでしょうか。
まず、遺族年金から考えてみますが、A男さんには28年もの厚生年金期間と国民年金保険料を納めた期間が8年ほどあります。
厚生年金から遺族厚生年金、国民年金からは遺族基礎年金という給付がありますが、残された遺族は甥っ子のみなのでこれらの年金は出ません。
遺族厚生年金の遺族の範囲は、配偶者、子、父母、孫、祖父母までとなっています。
遺族基礎年金の遺族の範囲は「子のある配偶者」または「子」のみとなっています。
なお、「子」や「孫」は18歳年度末未満の場合をいい、もしくは20歳までの2級以上の障害のある子や孫を指します。父母や祖父母は本人死亡時に55歳以上でなければいけません。
遺族年金の場合は遺族の条件がこのようになっています。
他に過去の年金保険料の未納の状況(過去に3分の1を超える未納が無い)や、一定の遺族の収入要件(年収850万円未満)が必要ですが、それは満たしてるものとします。
なお、年金記録は25年以上の未納以外の記録があれば、過去の3分の1を超える未納は無いかな?などと保険料納付状況は原則として見なくても構いません。
あと、国民年金保険料を3年以上納めてるので、生計同一遺族には死亡一時金というのも出る可能性がありましたが、一定の遺族が配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹までなのでこちらも甥っ子には支給されません。
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じゃあ甥っ子たちに何が出るのかというと、A男さんが受け取れなかった障害基礎年金の未支給年金です。
未支給年金は3親等以内の親族まで受給する事が可能なので、生計を同じくしていた甥っ子2人が請求して受け取る事が出来ます。
A男さんが死亡したのが12月25日なので、12月分の1ヶ月分の年金を受け取っていません。10月分と11月分は死亡前の12月15日に既に振り込まれていたので、これは未支給年金ではないです。
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※ 参考
振込日前である12月14日までの死亡だと未支給年金は12月分だけでなく10月分11月分も未支給年金になりますが、12月15日の年金振り込み当日の死亡は10月分と11月分は未支給年金にはならない。
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つまり、12月分の1ヶ月分は未支給年金という事になります。
未支給年金額は障害基礎年金1級81,020円+障害年金生活者支援給付金1級6,275円=87,295円です。
87,295円を甥っ子2人(BさんとCさん)の内のBさんが請求し、そのBさんに全額振り込まれました。
「その一人がした請求は全員のために、その全額について行ったものとみなす」事になっています。
請求者が複数いるなら、誰か1人が請求したらその全額はもう全員の請求者に支給したとみなすって事ですね。
支払った未支給年金は請求者の皆さんで好きに分けてくださいという事になります(普通なら仲良く半分こするんでしょうけどね…^^;)。
ただ、年金法ではないですが、民法だと複数の受け取る人(債権者)がいるんなら、それぞれ等しい割合で権利を持ってるとされてるので平等に均等に分けるべきでしょうね。
未支給年金は請求後、約3~4ヶ月後に請求者の指定口座に振り込まれます(結構時間がかかる)。
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※ 参考
甥っ子(3親等以内の親族)まで未支給年金受給できるようになったのは平成26年4月改正から。それまでは兄弟姉妹までの受給でした。
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(メルマガ『事例と仕組みから学ぶ公的年金講座』2022年11月2日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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