トランプの大統領選出馬示唆にドン引き。米中間選で共和党苦戦の訳

 

更に言えば、州知事選でも、かなり危ないと言われていたニューヨークの現職キャシー・ホークル知事が逃げ切りに成功したのには驚きました。勿論、同時に行われた国政選挙を勝った、ニューヨーク州選出のシューマー上院議員(民主)と比較しますと、なかなか当確が出なかったのは事実ですが、とにかく治安問題批判で「炎上」していたにもかかわらず、ホークルが勝ったということは、やはり共和党には勢いがなかったということになります。

今回の中間選挙に関して、「アメリカでは何が起きたのか?」ということに関しては、多くの政治サイトで様々な分析がされていますが、まだ多くのコメントはそれぞれの政治評論家の主観的な「つぶやき」の域を出るものではありません。そんな中で、私の住むニュージャージー州からの視点に、隣州のペンシルベニアの状況を加味した中で、とりあえず私としては現時点では「納得がいくのではないか」と思われる10ほどの仮説を掲げてみたいと思います。

1)まず、中間選挙に関する一般論ですが、投票率は決して高くありません。大統領選を含む4年に一度の「総選挙(ジェネラル・エレクション)」が55から60%であるのに対して、中間選挙の方は50%前後が相場であり、今回もそのようであったと考えられます。

現時点では、全体の投票率は不明で、若年層の数字が高かったようだというアナリストの分析が出ている程度ですが、とにかく、55%を超えるようなことはなかったはずです。例えばですが、ニューヨーク州の上院議員選挙は、前述のように民主が圧勝しましたが、その票は319万票でした。負けた共和党のピニオン候補が244万で、泡沫候補の3万を加えて合計は約566万票です。

このニューヨーク州、2020年の大統領選ではバイデン524万、トランプ325万で、合計849万票もあったのですから、今回の投票率が低かったことが分かります。

より盛り上がったと思われるフロリダ州の場合でも、2020年にはトランプ567万、バイデン530万で合計1,097万票あった一方で、今回の知事選では、デサンティス461万、その他315万で全部で776万票しかありません。

この投票率の低さですが、結局は両党の基礎票が残る一方で、浮動票は多くなかったということが考えられます。その中で、2016年と20年には「通常は選挙に行ったことのない層」がトランプに投票するために投票所に行ったと考えられますが、その「プラスアルファのトランプ票」は、今回は不発であったことが考えられます。

2)既に報道が出ていますが、若年層の投票率が高く、その票は民主党に傾斜していたという分析があります。ミレニアルとかZ世代と言われる若年層は、「環境への懸念が強い」「格差問題が深刻」「人権意識がリベラル寄り」という特徴があり、民主党にフレンドリーです。

問題はアメリカの人口ピラミッドにあります。アメリカの出生数はここ数年かなり鈍ってきていますが、18歳以上人口で言うと、1年刻みで360万の分厚い人口があります。一方で、年間の死亡数は350万ぐらいあります。ですから、例えば2020年と比較しますと、700万人の高齢者が18歳+19歳の有権者と入れ替わっているわけです。2016年との比較では、2,100万が交代しているわけで、この影響力は大きいと考えられます。

3)インフレが大きな争点であり、これを前面に押し出した共和党の作戦は正しく、一方で民主党は中絶問題やトランプへの反発などイデオロギーにこだわっていたために、選挙戦として失敗していたというのが、戦前の予想でした。

ですが、民主党の基礎票にプラスして若年層の場合は、確かに家賃の高騰や自動車(ガソリン含む)の高騰などは痛手になっているものの、「最低賃金が事実上15ドル以上に」なる中で、人手不足の業種では「時給17ドル」が最低になるとか、大卒の専門職(技術者や金融関係)では初任給が6桁(10万ドル以上)が当たり前になっています。そうした層は、インフレより中長期課題を優先する余裕があったのだと考えられます。

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