トランプの大統領選出馬示唆にドン引き。米中間選で共和党苦戦の訳

 

4)中絶問題の影響も大きかったようです。今回の中間選挙と合わせて、5つの州で「妊娠中絶を禁止するかどうか?」を問う住民投票が行われましたが、前回のカンザス州での否決と同様、多くの州で「禁止にはノー」という結果が出ています。

共和党がトランプ人気に乗じて、また最高裁の禁止法合憲という判決に乗って、この問題を政治課題にしていました。ですが、「近親相姦でもレイプでも中絶は禁止で、実施したら女性も医師も逮捕」という過激な姿勢は、保守州でも多数ではなかったわけです。つまりは、このイデオロギー戦争を仕掛けた共和党については、どちらかと言えば自滅した格好です。

5)コロナ禍が遠くなったという要素もあると思います。アメリカ人については、一定程度の割合で「感染対策への反対」があります。特にマスクの強制に関しては「マスクをするのは強盗か病人」なので「俺様は絶対イヤだ」という層があるわけで、だからこそ「自主性を保証する」という保守政策が受けていたわけです。

例えば、ニュージャージーやカリフォルニアでも、そうした層はあり、熱心に知事に対してリコール運動などをしていました。こうした動きに勢いがあれば、投票行動にも影響が出た可能性があります。ですが、アメリカの場合は、オミクロンの「第7波」は小波であり、今回のBQ1などの「第8波」は本当に「さざ波」という感じになっています。多くの州で「風邪+インフル+BQ1」の「トリプル・パンデミック」という報道がされていますが、感染の主体は学齢期の児童生徒でありしかも比率もこの順序となっていて、BQ1については既に下降気味ですらあります。

つまり感染対策への「恨みつらみ」で共和党に入れるという投票行動は、ブルーやスイングの州では起きなかったと考えることができます。

6)これはよく言われていることですが、トランプ派が初夏の予備選で「普通の共和党候補(現職含む)」を撃破して送り込んだ「トランプ派の候補」の「タマ」が良くなかったというのは大きいと思います。例えば、ペンシルベニアの上院、ジョージアの上院は、候補の選定ミスだったと言えます。ジョージアについては、再選挙になるので正式には分かりませんが、少なくとも同時選挙だった知事選では、現職のケンプ知事が圧勝しているので、上院のウォーカー候補に問題があったのは明白です。

7)とは言え、やはり今回の選挙については「インフレと治安」を前面に押し出すことで、共和党は相当に有利な戦いができたはずです。ところが、どういうわけか2020年の選挙結果を争点に掲げる候補があり、多くの場合は落選しています。

現時点での共和党では、イエスかノーかという聞き方で「2020年の選挙は盗まれたかどうか?」を尋ねると、「イエス」と答えるのが「お約束」となっています。そう言わないと、トランプ派の票が逃げていくからです。全くもって褒められた話ではないわけですが、これが選挙戦術上の現実ではあります。

ですが、それだけではなく、こともあろうに「知事選」や「下院議員選」に出馬し、トランプの後押しで共和党の公認統一候補になっている人物が、「選挙の最大の公約が2020年の選挙をひっくり返すこと」だとしていたのです。これはどう考えても「ヤリ過ぎ」であり、今風に言えば「無党派層はドン引き」ということになったと考えられます。

この記事の著者・冷泉彰彦さんのメルマガ

初月無料で読む

 

print
いま読まれてます

  • トランプの大統領選出馬示唆にドン引き。米中間選で共和党苦戦の訳
    この記事が気に入ったら
    いいね!しよう
    MAG2 NEWSの最新情報をお届け