8)これは「Wedge」に書いた内容ですが(「予想外の『接戦』 共和党がトランプ党になりきれない理由」)、トランプ隠しの功罪ということがあると思います。選挙戦の終盤、共和党は明らかに「トランプ隠し」を行ったフシがあります。
そのためにトランプ票は逃げた一方で、それでも「大統領選出馬」を匂わせたトランプの存在は「中間層が離れる」には十分だったと考えられます。
9)ネガキャンの効果が変わってきているという問題もあると思います。大雑把に申し上げると、現代は政治的分断の時代です。ですから、どんなに激しいネガキャンをかけても、共和党支持者を民主党に引っ張り込んだり、その反対に民主党支持者に共和党に入れさせるというのは難しいわけです。
ではどうして、大金を投入してネガキャンをするのかというと、「相手方の消極的支持者を棄権に追い込む」というのが最大の目的です。そんなことは、選挙アナリストは基本中の基本だとして理解して作戦を提案するわけですが、今回は、分断が激しすぎるために、なかなかネガキャンの効果が感触としてつかめなかったようです。その結果として、ネガキャンはどんどんエスカレートして、表現として「嘘くさく」なる、そうすると効果は薄くなるわけです。
そんな中で、ギリギリまで「ネガティブなネタ」を温存しておいて、投票直前の最後の週末に一気に投入するという作戦が効いたケースがあります。これはペンシルベニアの上院で、前週までは民主党候補の健康不安に対して、トランプ派が思い切りネガキャンを張って相手を追い詰めていたように見えました。
ですが、ギリギリまで引っ張った時点で、民主党サイドは「共和党候補は実はペンシルベニアには住んでいない」という暴露を行い「アイツは私たちの仲間なんかじゃない」という言い方でキャンペーンを浸透させたのでした。これは一定の効果があったようです。コミュニケーションの瞬速化という状況下、ネガキャンの投入方法など、選挙戦略のあり方が改めて問われる選挙であったとも言えます。
10)世論調査の問題点がより浮き彫りになったという問題もあります。以前は、投票日直前の1週間で「何か」が起きてももうひっくり返せないと言われていましたが、現在はSNSやネットメディアによって、情報が瞬速で伝わる時代です。そんな中で、投票日の前週の世論調査結果というのは、仮に「%の絶対値ではなく増減のトレンド」で見ていても、やはり信用できない事になりました。
あとは、対象となったグループの選定方法や調査方法も改めて問われますし、世論調査の回答行動が、その有権者の「本当のホンネ」とどのぐらい乖離しているのか、またそのことが「実際の投票行動」にどう反映するのかは、分からないわけで、改めて2020年代における世論調査のあり方が問われていると思います。
世論調査の最大の問題は「アナウンス効果」です。世論調査に基づく直前の報道により、共和党には慢心が、民主党には危機感が発生して、それが今回はSNSで猛烈なスピードで拡散して、投票行動に影響を与えたことが考えられます。
※本記事は有料メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』2022年11月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をどうぞ。
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