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2023年「台湾有事」で必勝を誓うアメリカの本気度。日本はどうだ?

軍事侵攻にこそ至らなかったものの、今年も極度な緊張状態が続いた台湾情勢。2023年、台湾を巡る米中対立、そして中台関係はどのように推移していくのでしょうか。これらについて詳しい解説を試みるのは、外務省や国連機関とも繋がりを持ち、国際政治を熟知するアッズーリ氏。アッズーリ氏は今回、台湾問題をさまざまな視点から分析するとともに、今後の展開を予測しています。

地政学的に「悪化」の一言だった今年の台湾情勢

2022年も終わりが近づいてきた。今年世界を最も震撼させた出来事はロシアによるウクライナ侵攻だったが、世界経済や日本の安全保障への影響を考えれば台湾有事はウクライナの比ではないだろう。その台湾有事を巡っては今年大きく緊張が高まった。今年の台湾情勢を振り返れば悪いことしかなかったと言える。本稿ではその中身について、中台関係と米中関係の悪化を簡単に振り返りたい。

まず、中台関係である。独立志向の強い蔡英文政権は米国を筆頭にフランスやオーストラリア、リトアニアなど欧米諸国との関係を強化し、近年そういった国々の指導者層レベルが相次いで台湾を訪問したことで習政権は不満や苛立ちを強めている。

本来であれば、緊張を和らげる意味でも蔡英文氏と習氏が対面で会談することが重要であるが、今日そういった雰囲気は両者の間で皆無だ。中国は台湾へ圧力を掛けるため、軍事演習や経済制裁、サイバー攻撃などあらゆる手段を使っている。

近年では台湾産のビールやサンマ、パイナップルや柑橘類、高級魚ハタなどの輸入を一方的に停止するなど、台湾を経済的に弱体化させることに躍起になっているが、台湾は第3国への輸出を強化しており、効果は薄いようだ。

台湾有事を見据えれば、時間が経過すれば経過するほど、中国が取れるオプションの範囲は狭まってきており、軍事的手段という選択肢の幅が拡大してきているようにも思える。そのような中、今年8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問したことで、中国による軍事的威嚇はこれまでにない大規模なものになった。

中国軍による台湾を包囲するかのような軍事演習、台湾周辺に向けてのミサイル発射、中国軍機による中台中間線越え、台湾離島へのドローン飛来など、中国はこの時を待っていたかのように軍事的けん制を強めた。今日の中台関係はこれまでになく危険な領域まで来ている。

民主主義と権威主義との戦いの最前線となりつつある台湾問題

次に、米中対立だ。オバマ政権は中国に対して弱腰だと批判されたが、トランプ政権は中国に対して関税引き上げや輸出入制限を強化するなど米中の間では経済摩擦が激しくなり、バイデン政権も中国を唯一の競争相手と位置付けるなど、米中対立は経済から貿易、安全保障や人権、サイバーや技術など多方面に渡り、中国との戦略的競争を外交安全保障政策上の最優先事項に位置付けている。

トランプとバイデンは性格やビジョンが全く異なるように見えるが、対中国では同じ強硬路線であり、そこには連続性がある。そして、上述のように台湾が欧州やオーストラリアなど米国以外の欧米諸国と関係を強化し、近年英国やフランスなどがインド太平洋への関与を強めるなか、台湾問題は単なる地域問題ではなく、欧米の民主主義と中国の権威主義との戦いの最前線となりつつある。

見え隠れするアメリカの本音

習氏は国家主席に就任して間もない2013年、米国を訪問してオバマ大統領と会談した際、太平洋には中国と米国を受け入れる十分な空間があると太平洋分割統治論を提唱し、米中の新型大国間関係をオバマ大統領に認めさせることに成功したが、習氏には第一列島線上にある台湾を支配下に置き、そこを軍事的要衝として米軍に圧力を掛け、西太平洋で軍事的、経済的に影響力を確保する狙いがある。

要は、台湾が中国の支配下に置かれることは、米国にとって民主主義が権威主義との戦いの敗北したことを意味するので、バイデン政権にとっても譲れない一線になってきている。今日、台湾問題は米中間で最重要イシューになっており、それを巡って今年火花が散った。

欧米とロシアの対立が続くなか、米政府高官は12月中旬、米国が来年主催するアジア太平洋経済協力会議(APEC)にロシアが出席することは可能との見方を示した。その理由について明確な言及はなかったが、米国としては対中国に集中したいことから、ウクライナ問題で時間を取られたくないという本音が見え隠れする。最近、米露の間では相互に囚人の交換も行われたが、ウクライナが侵攻されなければ、対中国でロシアと一定の協力を試みるオプションも米国は持っていたと思われる。それほど、米国にとって対中国は重要イシューになっている。

激変する恐れもある日本を巡る安全保障

このように台湾を巡る国家間関係が悪化するなか、台湾では11月下旬、統一地方選挙が行われ、与党・民進党が敗れ、蔡英文総統は自身が兼務してきた党のトップの主席を辞任する意向を表明した。これによって国民党が台湾社会で人気を回復し、台湾有事を巡る緊張が緩和されていくとの楽観論が浮上している。

しかし、それは単なる期待でしかない。11月の統一地方選挙で台湾市民の焦点になったのは経済など内政事項であり、外交安全保障政策は重要な論点にはならなかった。要は、2024年1月の台湾総統選挙で国民党が有利になるわけではない。また、中国の軍事的圧力が強まり、米中対立が激しくなる中、台湾は防衛面でどうしても米国の支援を必要とすることから、民進党国民党を問わず中国寄りの姿勢を示すことは政治的に難しくなってきている。よって、11月の統一地方選挙が台湾を巡る緊張にいい兆しを与えることにはならなかった。

以上のように、台湾情勢を巡っては今年悪いニュースしかなかったが、今日の環境は来年も続くことになる。来年台湾有事が勃発する可能性は十分にあり、日本を巡る安全保障も激変する恐れもある。我々はいっそう厳しい時代に入っている。

image by: Carlos Huang / Shutterstock.com

アッズーリ

専門分野は政治思想、国際政治経済、安全保障、国際文化など。現在は様々な国際、社会問題を専門とし、大学などで教え、過去には外務省や国連機関でも経験がある。

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