今やコンビニを1万以上も上回る歯科診療所の数。過当競争に加え患者数の減少で、廃業に追い込まれる歯科経営者も少なくないのが現状です。なぜこのような事態となってしまったのでしょうか。今回のメルマガ『神樹兵輔の衰退ニッポンの暗黒地図──政治・経済・社会・マネー・投資の闇をえぐる!』では投資コンサルタント&マネーアナリストの神樹兵輔さんが、その理由として厚労省の杜撰な政策を挙げるとともに、歯科医師たちの悲惨な日常や、彼らが「悪徳商法」に走る背景を紹介しています。
この記事の著者・神樹兵輔さんのメルマガ
厚労省の悪政が育んだ歯科医師業界の闇! 初診でレントゲンを撮りたがる歯科医師たちの哀れな惨状!
1960年代から80年代までの歯科医は儲かり、「歯科医・産婦人科医・パチンコ屋」は脱税御三家と称されました。
健康保険適用除外の診療技法が多く、虫歯に悩む子供も多かったからです。
しかし、90年代に入ると、保険診療の幅が広げられ、健保適用外の高額な自由診療が望めなくなっていきます。
そのうえ、厚労省は歯科医不足と見立て、歯科大の新設や定員増を図ったので歯科医は激増していくのです。
厚生労働省が2022年3月に公表したデータによると、2020年12月末時点で、一般の医師数は33万9,623人でした(2018年の前回調査より1万2,413人増で3.8%アップ)。
それに対して、歯科医師数は10万7,443人でした(2018年の前回調査より2,535人増で2.4%アップ)。2002年に9.2万人だった歯科医師数が、18年間で、1.16倍に増えた勘定です。
ちなみに女性の割合は、一般の医師22.8%、歯科医師25%と、いずれも上昇してきています。
こうした医師たちが従事している施設・業務の種別をみると、「医療施設の従事者」は32万3,700人で、全体の95.3%と大多数を占めています。
もっとも、一般の医師には数多くの診療科目がありますが、歯科医師の診療はほぼ単独科目でこの数字です(実際は4科目で一般歯科、小児歯科、矯正歯科、口腔外科)。
しかも、多くの一般病院では歯科が併設されていないため、ほとんどの歯科医師が独立開業を目指します。
その結果、歯科診療所は全国に約7万件となり、コンビニの約6万店舗より多くなりました。
ちなみに、同じく過当競争といわれる美容室の数は25万8,000店舗と激増の一途で、理容室は11万5,500店舗と微減傾向です。こちらはもう、すごいことになっています。
これでは、どこも過当競争で儲からなくなるゆえんでしょう。
歯医者さんも、昔は多かった虫歯治療においても、今では歯磨き習慣の浸透で虫歯の人は減ってしまっています。
かつてテレビCMでは「歯医者さんが考えた歯ブラシ」などという宣伝文句が流されていましたが、歯医者さんが考えた虫歯予防の歯ブラシでは、結果的に歯医者さんが自分の首を絞める──という自家撞着(じかどうちゃく)バリバリの滑稽CMでした。
現在では厚労省も、歯科医師の数が多すぎる──として歯科大の定員を絞り込むようになりましたが、後の祭りだったようです。
今や多額の借金を抱えて倒産したり、貧窮して自殺する歯科医も珍しくない──といわれるようになりました。
エライことになっているのです。
歯科医院は開業時に、設備や機材費に相当なお金がかかり、親の後継でない新規開業は厳しいのです。
歯科大6年間の学費の元を取るのも大変です。
国立は約350万円程度ですみますが、私立は2,000万円台もザラで、3,000万円超えもあります。
こうなると保険適用でない自由診療で稼ぎたくなるのも、むべなるかな──なのです。
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インプラント装着が一番儲かる!
そこで、インプラントをやりたがる歯科医も増えました。
原価1本1~5万円でも、35~50万円の施術料金となり非常に儲かるからです。ただし、下手な技術での施術トラブルも増えています。
インプラントの激安価格を宣伝して患者を集め、その後ああでもない、こうでもない──と御託を並べ、次々と追加料金で儲ける、葬儀社やリフォーム業者のような悪徳歯科医も登場しています。
また、歯列矯正やホワイトニングを薦める審美歯科標榜の歯科医も増えました。
歯をまとめて処置し、効率よく儲けられるからです。
いずれも自由診療なので料金は歯科医次第です。
自由診療でない保険診療の場合でも、初診でやたらとレントゲンを撮りたがります。
「親知らず」を発見すれば、歯周病や虫歯でなくても抜歯の提案が出来ます。
普通の抜歯だと、1本1,300~4,700円ですが、「親知らず」の埋伏歯(まいふくし)は1本1万500円の報酬になるからです。
麻酔をかけて、30分ぐらいで抜歯すれば、効率よく稼げるからなのです。歯科医師もいろいろ大変な状況にあるのです。
歯科開業医の5人に1人は年収300万円以下という衝撃!
これほどの過当競争で儲かりません。
前述の通り、今では歯磨き習慣で虫歯の人も激減しています。
歯科に通院しなくてもよい人が多くなったのです。
そもそも、歯科診療所を開設するとなると、一般的な内科の開業医よりも費用がかかります。
テナント代に300~500万円、床上げ配管や内外装に1,000~1,500万円、医療機器に1,300~1,500万円、広告費や開業時の材料費、事務機器や人件費などの当面の運転資金にも1,000万円は必要になるからです。
新規開業でも中古医療機器が重宝されているゆえんなのです。
つまり、都内で開業すれば、軽く4,000~5,000万円はかかり、家賃も高額なのです。
こんな状況でも新規に開業する歯科医師はいるのですが、増加を辿っていた新規開業者数も2017年には1,720となり、廃業数が1,739と初めて上回りました。ここ数年の平均値でも、若干ですが廃業数が新規開業数を上回る状況です。
厚労省の「賃金構造基本統計調査」によると、歯科医師の平均年収の推移は、2005年から2020年の16年間で、最高が2005年の904万円、最低が2006年の549万円と大きな差があります(16年間の中央値では736万円)。
バラツキが大きすぎるのですが、有名なのは、日本歯科医師会が発行した「歯科医療白書」の2013年版です。
これによれば、開業歯科医師の20%が年収300万円以下で、同じく20%が年収3,000万円以上となっていたのです。大きな格差が見て取れます。
ここから、「歯科医師の5人に1人が、年収300万円以下」という衝撃の実態が語られるようになったのです。
いずれにしろ、巷では莫大な借金を背負って突然閉院する歯科医院が後を絶たないことを見ても、歯科医師の儲けの機会は減っていることが窺えます。
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「憧れの職業」からの転落! 厚労省の責任は重大!
かつて、「結婚するならお医者さん」だったのに歯科医師だけが脱落です。
儲かっている一部の歯科医を除き、多くの歯科医は莫大な借金を背負うリスキーな職業になってしまったのです。
かつて、2004年に発覚した政治家へのヤミ献金や迂回政治献金で逮捕者まで出し、政界を賑わせた「日歯連事件」という名の汚職事件がありました。
これは、歯科の診療報酬をアップしてもらうのが目的だった日本歯科医師連盟の幹部たちの悪あがきだったのです。
日歯連幹部6人を含む、中医協委員、自民党国会議員、地方議員ら16人が起訴され、全員が有罪判決を受けています。
また、悲惨な歯科医師の自殺事件というのもありました。
2014年に、東京都北区の歯科開業医(当時56歳)が1億円の借金を歯科衛生士の妻(当時51歳)に知られ、「自殺して保険金で返せ」と迫られて自殺する──という事件もあったのです。
妻は自殺教唆で一時逮捕されましたが、書類送検ですみ、結果的には1億7,000万円の保険金を得ています。
「夜逃げ」や「自殺」も珍しくなくなったのが歯科医師の世界なのです。
厚労省の杜撰な政策による歯科医師乱造の罪は大きいでしょう。
こうした事態に鑑みて、日本医師会では、医師の数をむやみに増やさないよう厚労省に圧力をかけ続けています。歯科医師の二の舞になったら大変だからです。
日本の一般医療では、寝たきりで意識のない老人にも、体中にチューブを巻きつけるなどの極端な延命治療が行われ、医療費44兆円の半分が65歳以上高齢者に費消される異常な医療実態があります。
欧米の医療では、考えられないような寝たきり老人への過剰施術ですが、これも日本医師会の金儲けの重要な肝になっているからに他なりません。歯科医師とは様相が異なります。
もちろん、日本医師会はスイスなどのごく一部の国で、わずかに行われている「公的安楽死」などは絶対に認めない立場です。
高齢者の延命医療こそが「カネのなる木」だからです。
歯科医師会と異なり、日本医師会の政治力は半端でないため、高齢化で増大する一方の医療費問題での過剰医療の抑制についての議論も深まらず、これはこれで頭の痛いところなのです。高齢者の寝たきり延命医療については、今後も議論の余地が大いにあるでしょう。
それでは、今回はこのへんで。
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